第2話

「おそろしい女だな」


 彼女が半分だけ残したハンバーガー。新作。ゆっくり食べながら、月を眺める。


 最初に気付いたのは、本当に偶然で。声をかけても、反応が曖昧だった。それだけの違和感。

 組織内の検索で、彼女の言葉が食われていることと、その化物を誘き寄せる囮になりうることを確認した。


 それからは、ずっとこうしている。彼女が土手に座ったら、通信端末でお話をする。それだけ。この土手なら、哨戒も増援もすぐに駆けつけられる。


 その化物のコードネームが、妖精だった。実体がなく、なかなか殺しきれないことからついた名前。ようやく、たまたまではあるが、その尻尾がつかめるかもしれない。組織は沸き立ち、俺の恋の行方にそこそこの人間が注目している。


 恋というほどのものでも、ないのに。


 彼女の、言語を食われて理解できないのに周りに馴染んでいる、その健気さと儚さに。ちょっとだけ同情しただけで。それ以上ではない。


 彼女は、こちらを精霊だと信じきっている。当然の反応だった。誰とも言葉が通じないのに、自分とだけは話すことができる。喋れる。人ではないものだと誤認するのも、無理はない。

 実際は、土手の彼女が座るところの近くに、通信端末が置いてあるだけ。化物に食われないので、言葉が通じる。それだけ。


 だから。

 この化物を殺したら、彼女との縁も、そこまで。それでいい。そういう、街の守りかたでいい。


 綺麗な月だった。新作のハンバーガー。そこそこ美味い。

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