華露の精霊

春嵐

第1話

 学校にも、家にも、どこにも馴染めなかった。

 言葉が通じない。同じ言語なのに、同じ言葉をしゃべっている気になれなかった。特に仲良くもない友人と、欲しくもないものを買いにいったりして。好きでもない家族に愛想笑いをして過ごす。何も理解できない、よく分からない言語で。


 耐えられなくなったときは、駅から少し離れたところにある、小さな土手に座り込む。


 一生、しぬまで、ここでいいのに。そう思いながら、暮れていく夕陽を眺めて座っている。


 ずっとひとり。これからもひとり。


「ずっとずっと。ここにいたい」


『むりだよ。おなかくよ?』


「夢のないこと言わないでよ」


 この土手にいると。

 精霊が話しかけてくる。わたしの唯一の居場所に。わたしの唯一の理解者。妖精って呼んだら拒否されたので、精霊。妖精はだめで精霊はいいのが、ちょっと謎。位格が良いのかも。


「じゃあ、ここでしんでもいい」


『そっか』


 何か、がさごそという音。


『そんなあなたに、プレゼントです。土手の下側をご覧ください』


 土手の下側。言われた通り、ちょっと探ってみる。


『新作ハンバーガーです。精霊のおごりだよ』


「やった」


 開封して。食べる。その、直前で。


「ごめんね。やっぱりやめとく」


『どうして?』


「夜ごはん。たべられなくなる」


 そうなると、家族にまた余計な愛想笑いをしないといけなくなる。面倒ごとしか、待ってない。


『そっか』


 目の前に。大口を開けたハンバーガー。


「半分だけ、いい?」


『どうぞ』


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