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それは神々しく、立ち姿だけでも威厳あると感じた。……何分、恥ずかしながら今の俺は負けの一歩手前だからである。
ところが、唐突の救世主。
全身白いローブに包まれた、白髪の老人。この学園で誰よりも強く、そしてルドルフとも因縁のある人物の登場により一時的に終戦を告げる。
「こ、校長先生!?」
「ひ、ひぇー……」
ビズは声を上げるほど驚き、ルドルフを渋い顔をする。俺もこうなることはあらかじめ知ってはいたが、思わず一緒に驚いてしまった。
ビッツ・クランケ。
学園の最高責任者にして、強者。しかし、戦闘の描写はほぼ皆無に等しく多くのことが謎に包まれている。だが、彼――ルドルフの反応や他の登場キャラたちによりこれは確定事項であろう。
フェアリードの校長、ビッツはルドルフ・マルティアンの祖父である、と。
「ふぅ、騒ぎを聞き、何事かと思えば」
校長が周囲を見渡す。
立っている生徒四名と、うつ伏せに倒れた生徒が二名……いや、一名と一匹。それから腰が抜けた状態の俺の顔を僅かに時間を掛けてゆっくりと確認した。のち、クソデカ溜息を転がした。
「ルドルフ……また、お前がやらかしたんか!!」
怒りの鉄槌。先程までの威厳は正直言ってなく口煩いジジイに成り下がっていた。
これにはルドルフも仕方なく対抗するが……。
「ち、違うって。これには深い訳が」
「言い訳なんて無用。はぁ、まったく。入学してまだ二ヶ月……いったい、何度揉め事を起こせば気が済む?」
「いや、今回に限ってはボクじゃなくて」
「だぁー! 静粛にせい! ルドルフ、大体お前はいつも――」
あー……これ終わらなそうだな、と察したのはきっと俺だけではない。
ルーカスは頭を抱えて、ビズとアッサムは困惑をベースにおどおどと愛想笑いを出してた。忘れてはいけないが、こっちには一応怪我人もいるはずなんだが……。
「――とにかく! また問題を起こした暁には、今度こそ退学を検討する」
「えっ。そ、それは困る……せっかく、ビズくんたちとも仲良くなれて」
「残念だが、俺はそう思っていない」
「え、ルーカスくん……?」
「鬱陶しい。そんな目で俺を見るな。貴様がどれだけ瞳を潤おうが可愛さの欠片も感じない」
本音、だろうな。だって、ルーカスは。
「くはは、ルーカスは本当に動物が好きだべな。この前も寮の近くにいた猫さをずっーと眺めて、時より口が緩んでいたなぁ」
あ、地雷踏んだ。
「……貴様、不要な減らず口を挟むな。ふん、こんな奴らに付き合ってられるか」
ルーカスは転移魔法を恐らく使い、この場から無言で立ち去った。
「お、おおっ? 自分、何か怒らせてしまうことを言っただろうか」
「た、たぶん照れてるだけかと。ルーカスくんの動物好き、いつか彼の口から楽しくお話出来れば嬉しいですけど。……あっ、すみません、すみません! 僕程度のものが、そんな大口叩いて!」
「ううん、ボクもそうなったらいいなって思うよ。ルーカスくんも難しいお年頃なんだよね、きっと」
再び、ほんわか空気の到来。知ってた。知ってたけど……やっぱり、このルーカス不在のメンツだと話が進まないというか、収集つかないな。まあ、今回は心配無いかもけど。
「ふむ、仲が良いのは感心するが。……ふっ!」
校長が杖を振るう。
魔力の量で姿形が大きく違う、大型の杖。俺やアッサム、それから一般的に貴族階級の地位を持つ者は増大な魔力を有するが極端に少ないビズ。恐らく三人の量を足しても勝てる気がしないほど魔力量を具現化した杖。して気付けば、俺側に居たはずのモブ二人の姿が消えていた。
「お二人を一気に……!? て、転移魔法の類い、でしょうか」
「左様だ、ロークライ君」
「きょ、恐縮です」
ペコペコとビズが大袈裟にも頭を下げる。その様子を気にすることなく校長は話を続けた。
「さ、君たちに各々命を与えよう」
「ふむ、命……つまり、校長先生は自分達に何か頼みがあるだべ?」
アッサムの質問に校長は頷く。……そりゃそうだろう。これ、直訳の必要ある?
「左様。まずはロークライ君、パレス君。君たち二人にはフォグラ君を連れ、犬にした生徒の魔法を解くようにするのを命ずる。被害者の生徒――リジャー君は先程、医務室へと転移したのでな」
「わ、わかりました!」
「とりあえず、ルーカスを探せばいいんだべ? となれば……ビズ、自分に少し心当たりがある」
「本当ですか!? では、そちらを探してみましょう。アッサムくん、凄く頼もしいです……!」
にこやかで、和やかな空気を漂わせながら中性的な容姿と大男というあまりにも対照的な二人は速やかに去る。
そこは転移魔法の流れじゃないんかい、というのは御法度。忘れてはいけない、我々はまだピカピカの一年生であり、使用出来る魔法も初級系がいいところ。そう、ルーカスのようなお貴族様のようには行かない。
そもそも、そこに触れるどころか別のことで口を尖らせる輩もいらっしゃるようで。
「むぅ、ビズくんの嘘つき。……アッサムくんと出会う前まではボクの方が慕ってくれてたのに」
「そりゃ、日頃の行いの成果じゃろう」
お祖父様による、慈悲の無い言葉。まあ、その通りであるわけだが。
恐らく、というか。ほぼ、時系列は確定した。
フェアリードという漫画の原作において、今は物語の最初――入学から二ヶ月経った場面であることは間違いない。
魔法がすべてのこの世界にて作中、唯一魔法が使えない無能力者、ルドルフを主人公とした物語である漫画。男子校なのでヒロインが不在、恋愛要素が無い分、友情系に全振りしていて個性的な登場人物とのバトル要素が強い。ぶっちゃけ、よくある設定ではある。けれど、何か知らないけど見てしまう。とはいえ、俺の立ち位置はルドルフをからかう以外に絡みは無いし、前世と言うべきか望月悟に戻ったところで何かあるわけでもなしに、女の子のキャッキャウフフが出来ないのは残念極まりないが……ちょっと若返ったし、このまま第二の人生として、ファンタジー世界で青春を謳歌――。
「こほん。では次に、ルドルフよ。お主には、今そこにいる彼、カーディ君を無事に寮の部屋まで送り届けることを命ずる」
「えっ」
「ええ?」
自然と発した俺とルドルフの驚きの声音が互いに出たのち、暫く静寂が続く。
そして理解に至った際、学園中の鳥たちが一斉に四方八方へと飛び去るほど大声を上げたのは語るまでもない。
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