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魔法が当たり前の『フェアリード』の舞台は貴族、平民出身者に問わず優秀な生徒が多く在籍する学園ファンタジー。
世界人口の九割以上が魔法と共存し、時に争い、時に切磋琢磨して高め合う。前述の通り、
無駄に画力の高い作者により、毎度楽しませて貰っていたわけだが……。
「さて、
ちょいちょいちょいちょいちょい……!
え、生ルーカス怖っ!
残虐非道で冷酷な性格だと知ってるが、気を抜けば細く目力が強い翠眼に圧倒される。
ルーカス・フォグラ。
貴族出身で、圧倒的なビジュアルと強さを誇る人物。本来穏やかで周囲のことを大切にするルドルフとは違い、家柄だけではなく成績優秀な魔力や頭脳、言葉が厳しく正直者ゆえに敵を作りやすい人柄はリアル世界も人を選ぶ。まあ、あるギャップにやられる読者が多発するが……。それにしてもアニメ化もボイコミも無かったせいか、想像だけで音声再生を試みていたが、顔面だけに飽き足らず声もやっぱりイケボなのかよ!
「うーん? ルーカスさ、ルドルフに手を貸すのは賛成だが殺人の強要は自分、全力で反対するべ」
「勘違いするな。俺は協力する気なんて毛頭ない」
「そうか。自分としては困ってる友を助ける、ただそれだけのことじゃ。けんど、ルーカスも素直じゃないなぁ。さっきは唐突に飛び去るから何事かと思ったさ。この状況、ルドルフとビズに助太刀したいと自分は思ったが?」
「…………フン、勝手に粗末な解釈しとけ」
ルーカスはそっぽを向き、大男――アッサム・パレスは満足そうな満面の笑みを浮かべる。
真っ赤な燃えるような髪と瞳からは凄まじい豪快さが滲み出ているキャラ、アッサムもまた『フェアリード』内の主要人物として描かれていた。
「んだば、そう思うことにするべ。ルドルフ! ビズ!」
「うん」
「は、はい……!」
ルドルフの迷いの無い相槌に対して、泣きそうなくらい震えた声音。
一見、女子と見間違いそうになるほどの中性的な容姿を持ち、気弱で臆病な貴族出身者、ビズ・ロークライ。彼もまたルドルフ側の人間であり、かつ相棒を担う存在。
ビズ、ルーカス、アッサムの三人が魔法杖を構え、ルドルフもこちらに睨みを利かせては東の国の刃――日本刀に手を掛ける。
あ、これ……ヤバイやつだ、と脳に刻まれる。何となく、本能で。
「ぐっ、こっちも対抗しようぜ。ギルタ、ポックル!」
「え、お、おう?」
「ワン!」
たぶん作中のモブ仲間に呼び掛けられ、返事をしたはいいものの……え、今から魔法バトル始まっちゃう系? 俺、普通に使えるの?
ってか、
あと、第一声はそんな薄いリアクションでいいのかよ、俺!?
「ハッ! 三人……いいや、二人と一匹だからと言って加減などしない――コンバーシオ」
杖の先に蒼く光る水泡が膨れた。
ルーカスの固有魔法のひとつ、コンバーシオ。
それは静物を他のものに変換するという超強力の魔術は、彼の得意属性である水と組み合わせることによってスピードに拍車が掛かる。
つまり、ご挨拶がてらの戦闘の火蓋は切られたということ。
「チッ、避けたか」
「んだば。心苦しいが拘束させてもらうべ。大地よ、自分に力を……ランバノー!」
「きゃうん!?」
地面から橙色に輝く鎖が幾つも登場し、こちらの陣営である犬、モブの……ポックルという生徒がそれに捕まった。
「ポックル! っ……地には地を、グラン――」
「ごめんなさい、させない。……フィール」
「ぐおっ!!」
風が吹く。非常に弱くて、か細いもの。だが、叫ぶモブ生徒が杖を離しては無様にも倒れた。
それは呆気なく不利を告げる。元々人数的にも優勢ではなかったとはいえ、あちらはまだ四人、対してこちらは俺、だけ。
「……………………え?」
足が震える。杖を持つ手がガタガタと身震いを。この状況からひっくり返すための思考が停止する。
「さて、あとはキミだけだね」
「あ……いや、あの」
ルドルフの布告に言葉が続かない。
思わず視線を動かして案じを伺うが、四つの目線だけが集中して俺に向けられるだけ。
――詰み。
そう認知するのみで精一杯だった。だって俺はただの浪人フリーターで、魔法なんて使えるわけが……そもそも、ここって俗にいう――転生後の世界ってやつなのだろうか。
「ふっ、余所見とは随分と余裕だな。それとも徒党を捨て、自分だけ逃亡を図る手段を思案してるところか?」
「……っ! そ、そんなわけ」
ぐ、図星。ほんの少し、僅かに考えていたことがルーカスにバレて肩が上がってしまう。
「と、友達を見捨てるのはよくないと思います! ……すみません、すみません。僕如きに言われても不快極まりないと思いますが……っ!」
「ビズ、そんなことないべ。ビズはちゃんと変わったんだ。それに自分さ、逃げるのは関心せん」
「ふん、まるで寸劇だな。マルティアン、貴様がやらないのなら俺が葬る」
ルーカスのわざとらしい溜息にも怖じけず、問われた先の彼は思考の果て、真顔のままゆっくりと口を開いた。
「学園内で殺人の強要はさすがに駄目だと思うよ、ルーカスくん。校則に触れちゃう」
空気が流れる。何というか、先程の殺伐した雰囲気とは違い、生ぬるい、ほんわかとした空気感に。……ルーカスは頭を抱えた。
「……そうか。俺はギルタ・カーディの処分を貴様がやるか、俺がやるか問うたはずだが?」
「あ、そういうこと。じゃあ、ボクが対応するよ」
「…………はぁ。早くしろ」
会話の温度差が凄い。読者の時から思っていたことだが、ルドルフは少々、いや結構天然な面が多い。……って、今はそんなことはいい!
「やあ、お待たせ。キミ、クラスメイトというのは覚えてたけどギルタくんって名前なんだね」
「ま、まあ」
我ながらつまらない当たり障りない返答。
恐らく、このシーンはかなり初期の話しになるはず。だから俺の知ってる最新話に比べればルドルフもそこまで強くない。だがしかし、逃げた先にはルーカスたちもいる。四人相手にするとかは絶対無理。
況してや、原作でもこの場面においては重要視はなく二ページにも満たない。当然のように
「ギルタくん。キミのさっきの言葉――ビズくんを貶す発言は到底許せたものではないよ。本当は今でも切り刻みたいくらい怒りに燃えてる」
「っ……」
「ルドルフくん……」
「これまで、魔法が使えないことでボク自身が馬鹿にされてきたのは慣れっこだからいい。けど――友達を愚弄されるのはやっぱり耐えられない。殺さない程度に全力で行かせてもらうよ」
ぐ、やるしかないのか……!
杖を構える。
正直、この世界を認知してから当然魔法なんて使ったことないけど。相手は近距離での戦闘必須の刀使い。一年だから初級魔法しか、たぶん使えないが……とにかく、やるしかない!
「フレアー!」
そうどこか気恥ずかしさを交えながら叫ぶと、ルドルフの周辺に火花と爆発音が散る。問題なく使えた。……しかし、呆気なく避けられる。
「フレア、フレア、フレアッ!!」
連続での攻撃。威力は強いとは思えない、けど数うちこなせば、当たれば……そう願っていたのはつい数秒前のこと。
それは本当に淡白で、彼にとって一切の面白味はきっとなかっただろう。気付ければルドルフの間合いに俺がいた。
「終わりだよ」
「っ、いつの間に……!」
「安心して、首は跳ねない。ただ少し、痛い目を味わって――」
「待たれよ」
刹那、目を瞑ることを強要されるくらいの金色に輝く光るものが瞳を支配した。低く、ダンディな声音と共に。
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