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高卒、大学の受験失敗後、浪人一年生としてフリーターの傍ら勉学に勤しむ。
始めは良かった。落ちこぼれでもバイトをしながら勉強も両立出来ていた気がしたから。だが、半年経つといつしか熱意と、それから志も変化は余儀なくされるもので……。
俺――望月悟は諦めてしまったのだ。大学進学も、自身の人生に彩りを与えることも。
そう、ここが今まで居た場所とは違う……所謂、異世界だと認知するまでは。
「――ルドルフくん! 僕はその……大丈夫、だから」
して、現在。
俺は今、魔法が当たり前に存在して地位も名誉もすべて能力で決められてしまう世界で――魔法を一切使えない人物、ルドルフ・マルティアンに頬を殴られていた。それもかなり、全力で。無遠慮に、加減を知らずに。
じりじりと頬が痛む。口の中で鉄の味がいっぱいに広がった感覚。
クソッ、親父にも打たれたことないのに……!
「ビズくん……。ビズくんが大丈夫でも、ボクが彼を許せないよ。キミのことを弱虫で女々しいと言った――こちらのクラスメイトくんを、ね」
「……っ」
ほう、これはお見事な友情、努力、勝利による三原則。名前を覚えられてないのはモブ人生ゆえにってやつか……。
週刊少年雑誌以外にもあるんだなぁ……って! いやいや、そもそもここが漫画の世界じゃん!?
金の無い浪人生にとっての最強娯楽こと、無料漫画アプリにて連載中の『フェアリード』は毎週俺が楽しみにしている漫画のひとつである。
ちなみにタイトル詐欺にあった。
タイトルから勝手に女の子がキャッキャウフフとして登場する作品だと思ったら、まさかの魔法学校の男子校の話。当初はがっかり感が強かったが何かと気になり毎週見てしまう。
「おいおい、ギルタ大丈夫かよ?」
「つか、暴力で解決とか……フェア校生の風上にもおけねぇな。あ、魔法使えないから校則とかも無関係ってか!」
ぎゃははは、と俺の後ろに居るやつら……取り巻きの連中が騒ぐ。
ギルタ、ギルタ、ギルタ……たぶん、この世界における俺の名前だけど……わぁ、誰だっけ? 主要キャラクター、にはそんな名前のやつは居なかった、はず……となると――作中はもちろん、公式の設定資料集にも載らないようなキャラというところだろうか。
それにしても、このシーン……見覚えがあるような?
「はっ、先に手を出してきたのはそっちだからな。三対二とか関係ねぇ! ギルタ、やっちまおーぜ」
「あ、ああ……?」
「んだよ、その生温い返事はよぉ。ってか、一人はそもそも魔法使えないし、もう一人はお貴族様でも肩書きは飾り同然の人形だもんなー。相手になるわけが――」
「カァニス」
光……それとも稲妻とでも例えるべきだろうか。紫電の閃光が低音に放たれた単語と共にこちらへと向かい……ぽっちゃり男子学生、ポックルの身体を一気に包んだ。そして。
「……ワンッ!」
犬になった。人の姿をしていながら仕草や態度、それから言葉遣いのすべてが犬に。
「ポックル⁉」
「っち、魔力の精度を見誤ったか。我ながら完成度が哀れだな」
「くはは! ルーカスはいつも手厳しいなぁ。けんど、自分は可愛いと思うべ?」
「フン。……冗談だろ」
男が現れる。二人……背丈が高く、顔面偏差値が高い人物とガタイが良い男。
会話に温度差がありながらも、自然と受け入れてしまっているような、何処か安心感のある一コマ。
まるで、それは彼ら――ルドルフたちを手助けするが如く、颯爽と登場した。主人公を取り巻く学友、兼『フェアリード』において主要人物として。
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