第45話 グッズ開発
爆弾事件があった週末、事務所一階、カフェマジックにて。
落ち着いた雰囲気のあるカフェは、いつもはサラリーマンや若い女性がぽつぽつと来るくらいなのだが、今日は様々な客層で賑わっていた。
それもそのはず、今日はアクセルのヒーロー総出で接客を行う、特別なファン感謝イベント日だった。
常に金欠に悩むアクセル事務所は、初となる所属ヒーローのグッズ、ヒーローブロマイドカードを作成。
ランチセットを頼んだお客さんに、サービスで1枚つけるというなんとも商売気のない売り方をしていた。
しかしながら結城は自分たちを過小評価していたらしく、開店から絶え間なく人が並び続けていた。
カウンターで客をさばき続ける凜音は、本日何度目かわからないやりとりをしていた。
「いらっしゃいませ、ご注文をどうぞ」
「えっとハンバーガー……コーラで」
「セットにしますと、今ならアクセルヒーローブロマイドが付きますが」
「せ、セットで。あの、2つ買ったら2枚貰えるんですか?」
「はい、勿論。ただし中身がランダムパックとなっておりますので、カードが被る可能性もございます」
「じゃ、じゃあ10個下さい」
「申し訳ございません、お一人様セットは4っつまでとさせていただいております」
「じゃじゃあ4っつで、バーガーセット2、ホットドックセット2、全部コーラで」
「はい、かしこまりました。オーダーバーガー2、ホットドック2、ポテト4、コーラ4」
「こちらもバーガー4、ポテト4、コーヒー4、バーガー全部ピクルスカットです」
凜音と律が厨房にオーダーを投げる。
裏でポテトを揚げて、バーガーのパティを焼いていく結城は汗だくだった。
「予想外だ。まさかこんなに売れるとは……」
スーパーアドバイザーの角刈りに、ブロマイドを販売すると伝えたところ、絶対ランダム封入にしろと言われた。
最初目当ての写真を選んでもらえばよくない? 10人も20人もヒーローがいるわけじゃないんだから。
と思っていたが、スーパーヒーローチップもヒーローマンチョコも全部ランダムでしょ。オタクはランダムに弱いとアドバイスを受けたため、ランダム封入にしたが見事なまでに刺さった。
「ヘイガイズ、テイクアウトのセットよ」
「セ、センキュー」
おまけにスターズがビキニエプロンにローラースケートで接客という、アメリカンカフェ(偏見)スタイルも注目を浴びる。
「ふおおお、どなたか、どなたか律のブロマイドを持っているものはおらぬか! わたくしの持つカード全てと律カード1枚を交換しましょうぞ!」
店先で角刈りが交換者募集をしており、即席の交換会が広がっている。
「お客様ー、店先での交換は他のお客様の迷惑になるのでダメですよー」
「す、すみませぬ。皆のもの、近くの公園に集合ですぞ!」
バニラに注意されて交換会は場所を移した。
ピークタイムに入ると、店内はほぼ戦場と化していた。
「お、お父様すみません、コーヒーをこぼしてしまいました」
「私が行きます」
「すみません琉夏さん。モカ新しいの入れるから持っていって」
「パパ、コーラのタンクなくなった」
「嘘だろ、さっきかえたところだぞ!?」
「パパー、セットに玩具はつかないのかって言われてますが」
「ウチはハッピーなセットやってないんでね!」
目の回るような忙しさが続き、なんとか午後6時の閉店時間を迎える。
カフェのドアにCLOSEの看板がかかり、店内はいつもの静かさを取り戻す。
燃え尽き気味の結城がカウンターで突っ伏していると、カフェのオーナー琉夏からコーヒーを差し出される。
「お疲れ様です」
「いえ、琉夏さんも。すみません、こんな突発的なイベントを受け入れていただき」
「いえ、ウチも赤字続きでして。こうしてイベントをしてくださると大変助かります」
「そりゃ良かった」
「今度はステージでも作って、歌でもうたってみませんか?」
「地下アイドルみたいだ」
結城と琉夏が今日の成功を喜んでいると、エプロンを脱いだ凜音と律がカフェに下りてくる。
「すまんな君等も。協力してくれてありがとう」
「プロモも立派なヒーロー活動ですから」
「ってかパパ、今日のめっちゃ売れたくない?」
「売れた」
「倒産の危機は去りましたか?」
「ハンバーガーセット1つ当たり、200円が俺達の取り分だから倒産の危機を乗り越えるには遠いな」
凜音は頭で計算して苦い顔を浮かべる。
「今日ブロマイド400枚出たから利益8万? 少なくない?」
「少人数経営ならありですけど、我々10人でやってますから人件費でマイナスですよ」
「まぁSNSで拡散されたりするから、決してお金だけの利益ではないがな」
「それはそうだけどパパ、真面目にグッズ考えようよ!」
凜音達がグッズづくりに本腰を入れると、カフェの玄関から「フッフッフッ」と笑い声が聞こえてくる。
「その言葉をまっておりましたぞ!」
「誰だ!」
結城達が振り返ると、そこにいたのは黒縁メガネの小太り中年男。
「なんだ角刈りか」
「なんだとはなんですか父上。わたくしのランダムブロマイド作戦うまくいったでしょう?」
「いや、確かにめちゃくちゃ刺さった」
「グッズ購入のプロであるわたくしが、皆様にアドバイスして差し上げましょう」
「購入のプロなんているのか?」
「ただの消費者では?」
結城と律を無視して、角刈りはオタク向けマーケティングを始める。
「で、あるからして、ファンとは推しの身の回りのものを欲しがる性質がありますぞ。推しのリップを舐めたい食べたいかじりたいと思うのはファン心理ですぞ」
「ストーカー思想入ってるぞ」
「それでは皆さん、わたくしの話をふまえて、お手元のフリップにこれぞと思うグッズのアイデアを書いてくだされ。わたくしがイケてるかイケてないか判断しますぞ」
結城たちはマーカーでグッズのアイデアを書く。
「それでは父上」
「はい、アクセルロゴTシャツ」
「しね」
「今しねって言ったか?」
「父上、没個性、アイデアが貧困としか言いようがござりませんな。100歩譲ってTシャツを作るにしても、作るならば事務所のロゴなんかいりませぬ。推しの顔写真プリント、もしくは推しの名前以外ありえません」
「そんなもん日常で着れんだろ」
「グッズに機能性など求めておらんのです。では次、デカパイツインテちゃん」
「変なあだ名つけないで。はい」
凜音はコスメと書かれたボードを上げる。
「今日接客してわかったんだけど女性層が結構いたのよ。だからオリジナルコスメとかよくない? あたしのだったら氷をイメージした、爽やかなフレグランスとかさ」
「おっと意外や意外、小娘にしてはなかなか悪くないのが出てきましたな」
「誰が小娘よ」
「しかしそれだけでは3流、香水ならばそれぞれヒーローの体臭にするべきですぞ。ヒーロー皆さんの体臭サンプルをとり、それを香水として販売、ふりかけるだけで推しの匂いがかげる。これにはオタクもにっこり」
「「「気持ちが悪い」」」
声を揃えるアクセル一同。
「では最後、律殿」
「えっ、私はわかんないんですけど写真付き飲料水とか。今日のハンバーガーと一緒ですけど……」
「グレイト、さすが我が推し。マイエンジェル。しかしそれだとまだ惜しい、飲料水ではなく風呂の残り湯をペットボトルに詰めましょう。ラベルには推しのブロマイドを貼り付けて、誰の残り湯かわかりやすくするのです。飲んで良し、ふりかけて良し、神棚に飾ってご利益を得るもよし。最高の商品ですぞ」
「「「気色が悪い」」」
参考にならない角刈りを帰らせた後、3人は溜息をつく。
「キモイ商品を作らせたら天才ね」
「ただ、彼のあげた商品全部存在するらしいですよ。しかもバカ売れしてるとか」
「世の中終わってるな」
「パパ、どーしてもお金に困ったら言って」
「金に困ってもそんな闇グッズみたいなもん売らん」
結城達が話をしていると、グレースを抜いたスターズ3人がカフェへと下りてくる。
格好はビキニエプロンのままで、皆どこか困ったような表情をしている。
「どうした?」
「グレースの元気がないの」
「この前の事件のこと引きずってるみたいで……」
結城も今日、彼女のいつもの大きな声を聞いていないことに気づく。
「ダディ、なんとかして」
「わかった。明日日曜だし、どこかドライブでも連れていってあげよう。気晴らしになるだろう」
そういうとスターズはキャアキャアと色めき立つ。
結城はなぜ彼女たちがはしゃいでいるのかわからず首を傾げる。
「パパって年頃の女の子をドライブに連れて行くって、世間的にデートととられるって、わかってるんですかね?」
「いやーあの顔はわかってないでしょ」
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