第46話 メンタルケア

 翌朝、結城は事務所でネクタイを締めながらテレビのニュースを眺めていた。


『先週東京港区に完成したドラゴンタワービルは、東京スカイツリーの高さを超える日本最大の建物です。その全長はなんと777メートル。見て下さい、このそびえ立つドラゴンを!』


 ライブ映像のカメラが、リポーター女性からドラゴンタワービルを映す。

 頭部は天高く持ち上がり下部はとぐろを巻く茶色のドラゴンは、まるで怪獣映画にでてきそうなくらい巨大で威圧感がある。

 鱗やヒゲなどとても立派に作られているのだが、その建物を見て誰も言わないが誰もが頭に浮かべるものがあった。


「巻きウ◯コビルできたのか」

『アジア外資系会社ドラゴンTECが神龍に見立てて造ったこのドラゴンタワービル、既に一般公開されており、最上階の展望台はとても見晴らしがいいです。今後、世界の美術展など様々なイベントが開催される予定で、今現在は世界のバイク展が開かれております』

「バイク展か……」


 それは面白そうだ、今日グレースと行くスポットに加えようかと思っていると、急にカメラの前にプラカードを持った男数人が現れる。


『我々は、こんな汚物のようなビル決して認めないぞ!』

『クソビル撤廃! 東京の景観を汚すな!』


 ドラゴンビル反対と声を荒げる男たち。

 完全に放送事故で、警備員とADに無理やり取り押さえられる。

 リポーターは慌ててスタジオにお返ししますと、中継を打ち切った。


「物騒な世の中だ」


 人類が手を取り合う日はまだまだ遠く、ヒーローの仕事がなくなる日は自分が生きてる間は来ないだろう。

 そう思いながら結城はワゴンの鍵をとると、駐車場へと向かう。

 今回は遊びに行くだけなので、トレーラは使わず愛車のレンタカーを使用。

 しばらく駐車場で待っていると、グレースが事務所から出てくる。

 服装はいつものカウボーイハットに、へそが出ている赤のショート丈のトップス。下はデニムのミニスカートに、靴はブランド物のヒールが高いサンダル。首には星型のアクセをつけたデート仕様。

 彼女はどこか落ち着かない様子で、結城を見やる。


「ソーリー遅れたわ」

「俺も今来たところだ」

「あまりミーは経験ないから、服がいつまで経っても決まらなかったわ」


 彼女はしっかり服をコーディネートしようと頑張ってくれたが、生憎デートという意識がない結城はいつもどおりのくたびれたスーツ姿である。


「めちゃくちゃデートのつもりで来てもらって悪いが、ただオジサンと出かけるだけだからあまり期待しないでくれ」

「ノーノー昨日寝付けないほど期待しちゃったからダメよ」


 結城はハードル上げないでくれよと苦笑いしながら、レンタカーのワゴンに乗り込む。


 その様子を事務所の窓から見守る、アクセルのヒーロー達。


「やばいわ! グレースが乙女の顔になってたわ!」

「あんなグレース初めて!」


 めちゃくちゃにはしゃぐスターズに対して、どんよりとした空気を出す凜音と律。


「全く……女子高じゃないんだから、スターズにも困ったものね」

「全くです、パパはオーナーとして所属ヒーローのメンタルケアを行っているだけであって、決してそのような感情は1ミクロンもないというのに。ここまでスターズ達が頭お花畑だと、今後が気になりますね」

「律めっちゃ早口じゃん」


 律はスマホを取り出すと、追跡アプリを表示させる。


「なにそれ地図?」

「パパのスーツと車にGPSつけたんで、今日はこれずっと監視してようかなって」

「……そこまでやるとあたしも引くわ」

「そんなに気になるなら、ついていけばいいんじゃないッスか?」


 バニラの言葉に凜音と律は顔を見合わせる。



 監視されているとは露知らずの結城たちが、まず最初に到着したのは星宮ウォーターランドだった。

 近場でたっぷり遊べて、尚且つお値段も安いという絶好の遊びスポット。

 結城は入口で前回の仕事終わりにもらった、タダ券を使い入場する。


「この前は警備やらジュースの販売でゆっくりできなかったしな。ここで遊ぶのもいいだろう」

「いいわね、ミーは泳ぐの好きよ」


 結城はいつもどおりのトランクス水着にシャツを着て、プールサイドで待つ。休日とあって客の入りはよく、カップルや家族連れは多い。

 数分遅れて上は星柄、下は赤と白のストライプ柄のレンタルビキニでグレースが登場。

 一応変装の為サングラスをかけているものの、あまりにも圧倒的なフィジカルの暴力に、プール中の視線を集めていた。


「どうかしら」

「いいね、かわいいよ」

「ビキニ見せてかわいいって言ったの、ダッドが初めてよ」

「皆なんて言うんだ?」

「そうね、ビューティフォーとかセクシーとかエロいとか」

「そんな直球なこと言えるか」


 苦笑いを浮かべる


「泳ぎましょうダッド」

「連れてきてなんだが、俺はここで見てるよ」

「ノーノー、ダメよそんなの許さないわ」


 グレースは結城のTシャツを脱がすと、無理やりプールへと突き落とす。


「ぷはっ」

「いっくわよダッド、受け止めて!」


 グレースはその豊満な胸をダイナミックに揺らして、プールへと飛び込んでくる。


「ぐわっ、飛び込むなよ」

「アッハッハッハ、ソーリー」


 その様子をウォータースライダーの影から見守る、凜音と律&スターバニーズ。

 全員双眼鏡を持って、二人の様子を監視していた。


「ぐぐぐ、パパってば初デートでプールとかエッチなんだから」

「いや、どっちかっていうと、あのたくましい体をしてるパパの方がエッチですけどね」


 凜音と律は、彼の鍛えられた胸筋と腹筋のラインを見てだらしなく口元が緩む。

 普段さえないオジサンだが、脱いだ瞬間ボクサーのような鋼の体が露わになり一気にイメージが変わる。

 光り輝く水の滴が、浮き出た肩の三角筋の溝を流れていく様に、思わずゴクリと喉を鳴らす。


「ほんと、グレースシャツを脱がしたのはマジでいい仕事した。あの痩せたスーツの下に、あんなエロい彫刻みたいな体してるなんて。律、写真撮っておいて」

「もう撮ってます」

「仕事が早いわね」

「いつ次の供給があるかわかりませんので」

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