第43話 新事務所の評価
中継ヘリは、トレーラー後部車両のサンルーフからバニーガール二人と、凜音、律が這い上がってくる姿を映す。
バニラとモカは、それぞれ凜音と律の手を取ると腰部ブースターを吹かせて夜空へと舞い上がる。
『空飛ぶ兎ことスカイバニーのモカとバニラが、氷のJK凜音とJK電脳ハッカー律の手を掴んで今テイクオフ! 後ろのバイク集団はワイルドガンズより移籍したデネブ、アルタイル、ベガ、星の名を冠するカウガールの中央にいるのは、金色の衛星ことグレース!』
凜音達が飛び立ったのを見て、グレース達はアクセルを全開にする。
『元ワイルドガンズのシューティングスターが行った! 空と陸からの同時追跡だ! 凜音バニラのアイスバニラが現金輸送車の天井に取り付く。止まれと運転席のドアを蹴りつける!』
犯人は凜音たちを振り落とそうと、右に左にハンドルを切る。
『物凄い蛇行運転だ! ガードレールにぶつけようがなんとも思っていない! しかし犯人よ、私は上から見ているからわかるがアイスバニラは飛んでいるから、その蛇行は全く無意味だ! いたずらにガードレールを破壊しても賠償額が増えるだけだ!』
輸送車が減速すると、グレースのバイクが真横につける。
そして運転席に向かってショットガンを発射する。
『さすが海外のヒーローは容赦がない! 運転席に向けて発射された散弾が窓ガラスを砕いた! どうやら犯人は金属は強化できるが、窓ガラスは強化できないようだ! 窓から犯人が見えるぞ!』
目出し帽を被った犯人は、グレース達に向けてUziタイプのサブマシンガンを連射する。
盛大な銃声が轟き、道路と戦闘バイクの装甲に火花が散る。
グレースの車体が一瞬フラついたものの、すぐに体勢を立て立て直す。
『おっと犯人はマシンガンで武装している模様! しかしその程度ではひるまない猛牛ガール! 今度は左右から止まれと輸送車のドアを蹴りつける。まるで暴走族に絡まれている一般車両に見えるのは私だけでしょうか!』
犯人はバイク部隊に絡まれながらも、装甲に物を言わせて突き進む。
『おっと? ここでバイク隊とバニラアイスが一旦引きます。何かあったのでしょうか? えぇ……ここでアクセルヒーロー事務所、指揮車両の音声が聞けるようです』
中継の音声が、ノイズ混じりの結城の声にかわる。
『律輸送車のコントロール乗っ取れそう?』
『あと90秒待って下さい。銀行の輸送車だけあって、かなりプロテクトが硬いです』
『バニラ、一般車両は?』
『前方から対向車が3台、多分あと60秒くらいで輸送車とすれ違います。警察の道路封鎖が遅れたんでしょうか』
『違うな、多分サービスエリアにいた客だ。スターズ、現金輸送車が対向車にぶつかるとまずい。加速して対向車止めてきて。グレースは先行するスターズが撃たれないように、後ろから支援』
『OKダッド』
『モカーそのまま律連れて、装甲車と同速で飛んで。律はハッキング中、身動きできない地蔵になってるから』
『は、はい! 人間ドローン頑張ります!』
リポーターが注視していると、無線の通りスターズの3台のバイクが加速する。
犯人がマシンガンで後ろから撃とうとするが、グレースがショットガンで止める。
『パパ、車のコントロールとれました』
最新の車はほぼコンピュータ制御で動いているため、律のようなハッカーに乗っ取られると、運転の全てを遠隔でコントロールできてしまうのだった。
『ブレーキかけられる?』
『かけられます。でも銀行車はハッキング対策でマニュアルの権限が強いです。運転席のアクセル踏んだら進みますよ』
『じゃあ逆に加速させて、次のカーブで高架下に落とすか。律、あそこ何メートルくらいある?』
『高さ14メートル程度なので、落ちても”多分”死なないと思います。車体も硬いですし』
『よし、じゃあ落とそう』
『了解。カーブ3秒前でハンドルロックして加速させます』
『凜音、グレース、次のカーブで車を暴走させて下の一般道に落とす。グレースは先に下に回ってくれ』
『了解』
『OK』
結城達のやり取りの通り、現金輸送車はカーブ直前でキュルルルっとホイールスピンさせ急加速する。
犯人は慌ててハンドルを切るが、ハンドルもロックされて動かない。
車はガードレールを突き破って高架下へと転落する。
車体は空中で縦に半回転し、下の道路に突き刺さるようにして落ちた。
落下して逆さ向く車内から、アタッシュケースを抱えた犯人が這いずり出てくる。
「いててて、ふざけやがって。あばらが折れたぞ」
「ホールドアップ」
「動くともっと痛い目にあうわよ」
グレースがショットガンを向け、凜音が凍らせた自分の拳アイスハンマーを見せる。
「「これで、あんたの頭カチ割るわよ」」
「ひぃっすみませんでした!」
犯人はマシンガンとアタッシュケースを落として降参。
新アクセルヒーロー事務所の、最初の事件は解決。
マスメディアは、彼女たちの活躍を華々しく報道した。
◇
翌朝8時――
新聞紙を広げた結城は難しい顔をしていた。
「あのさぁ……現金輸送車強奪事件を解決したのに、みーーんな爆乳事務所設立としか書いてないんだけど」
新聞にはアクセルヒーロー事務所、新規メンバー加入で大変身。
弱小事務所から卒業?
巨乳女性ヒーローばかり集めた構成!
所属ヒーローはJKにバニーにカウガール、オーナーの趣味か!? などと好き放題書かれている。
「そっちのほうが見出しとして面白いですから。
「そうそう、逮捕した後あたしらグラビアポーズやれって言われたのよ」
制服姿の凜音と律は、昨日食べられなかったフライドチキンをかぶる。
「あれはジューシーズなんかがパフォーマンスでやるからだろ。見たことあるぞ、事件解決の後有料で撮影会始めたって」
「
「アップルさん、更に我々に敵対心剥いてましたね。ヒーロー人気ランクがガクッと下がったみたいです」
「自業自得じゃん、CM長々喋ったり、放送禁止用語叫んだり」
「俺もオーヴェロンからライバル認定するメール来たわ」
「ダディ、シャワーの出が悪いわ」
朝シャンして、バスタオルのまま外に出てくるグレース。
10代とは思えぬ、起伏の激しいダイナマイトセクシーな体を水滴が流れ落ちていく。
湯気を纏いつつ、一切恥ずかしがることなく結城の元へと歩いてくる。
それをブロックする凜音と律。
「グレース、その格好やめなさいって!」
「タオル巻いてるじゃない? 普段は裸よ?」
「パパがいるんですよ!」
「ダメなのぉ?」
「「ダメ!」」
結城は新聞で視界をガードしながら、多分デッカードさんの育てが悪いなと確信する。
昨日の残り物朝食を食べ終え、グレース達スターズはへその見える丈の短い白のシャツに、赤のチェックスカートの制服に着替え終える。
今日から彼女たちも凜音たちと同じ高校に転入し、昼間は学生としてしっかり勉強に励む。
全員が事務所の玄関に集まり登校しようとすると、結城は凜音の第三ボタンまで外れた制服を指差す。
「凜音、前開けすぎブラジャー見えてる」
「いいでしょ別に、どうせ透けてんだから」
「ダーメ。こっち来な」
結城は外れた第3ボタンを付け直す。
「ボタンは上2つまで」
「生徒指導みたい」
「生徒指導よりは随分ゆるいだろ」
「…………」
それを見ていた律はプチプチと自分のボタンを外す。
「あれ? りっちゃんそんな外してたっけ?」
「はい、不良なんで」
「ダメだってば。どこにマスコミがいるかわからないんだから」
律のボタンを付け直すと、まるでやらなければいけない儀式みたいにグレース達が横に並んでいく。
「あのね君等ね、自分でつけなおしなよ!」
結局全員分のボタンをつけなおしてから、ヒーローたちは登校していく。
「行ってくるねパパー」
「夕方には帰りますけど、緊急で何かあれば呼び出して下さい」
「ジャパニーズハイスクール楽しみ」
「パパ上行ってまいります」
「お父様、また後ほど」
結城は全員を見送ってから、深く溜息をつく。
「有能なんだけど、全員高校生だから学校行かなきゃなんないのがウチのネックだな……」
事務所に戻ると、机の上に堂々と凜音の体操服袋が置いてあるのに気づく。また椅子の上にはグレースの財布らしきものも置いてあった。
「凜音、グレース、忘れ物だぞ!」
結城は慌てて外に出るが、既に皆の姿はない。
仕方ないとトレーラーを回して、忘れ物を届けに向かう。
「弁当忘れた子供を追いかける親の気分だ」
その日は結局、トレーラーで学校まで全員の送迎をすることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます