第36話 航空作戦

 なんとか弾丸シードを吐き出すツタは切り落としているものの、すぐに再生してキリがない。

 ヒーローたちがジリ貧を強いられている中、律はドローンをメタンフラワー上空まで飛ばしていた。


「この花が人間の成れの果て、蛭間と同じだとしたら……」


 彼女はホログラムモニターに映る高周波電磁レーダーG R Pの情報を元に、花弁の中をドローンでくまなく探す。


「生体反応20……どういうこと? この鏡魔は鏡魔の複合体ってことですか?」


 複数ある生命反応に首を傾げていると、レーダーが人間に極めて近い信号をキャッチしピピッと反応を示す。


「……あった! パパ、メタンフラワーのコア見つけました!」

「本当か!?」

「こいつは体は大きくなってるけど、命令信号は葉山教授の脳で行ってます。寄生された教授の体は、花弁の中です!」

「花弁の中っていうと、一番上か?」


 結城はそびえ立つメタンフラワーを仰ぎ見る。

 頂上部にあるラフレシアのような花弁の中に、コアはある。


「葉山教授は生きてるのか?」

「いえ、寄生した鏡魔が教授の脳を使っているだけの状況です」

「そうか……。人を玩具にしやがって」


 自然環境に向き合う素晴らしい方だったが、彼もこのような姿になって暴れまわりたいとは思っていないだろう。


「コアを破壊する。矢車さんに状況説明するから繋いでくれ」

「了解」


 結城が矢車に状況を説明すると、彼女から全ヒーローに情報が伝えられる。


『ヒーローたちHBCの矢車よ。いいニュースと悪いニュースがあるわ。

良いニュースはアクセル事務所が、メタンフラワーのコアを発見したわ。敵コアはメタンフラワー頂上部。アクセル事務所は航空部隊と共に上空からの攻撃を開始するわ。

悪いニュースは、原子力空母よりS-2Aステルス爆撃機が発艦したという情報が入ったわ。それと同時に、現場にいるヒーロー及び警察、自衛隊に即時撤退命令が出た。

本当は逃げなさいって言わなきゃいけないんだけど、あなた達はヒーローよ。己の使命を全うして』


 矢車の通信に、オーヴェロンが全周囲回線で叫ぶ。


『ふざけるな、何が使命を全うしてだ! ようはステルス爆撃機で爆破処理するってことだろ! こんなとこにいられるか、僕は帰らせてもらうからな!』


 それが本来正しい行動、しかし正義を胸に秘めたヒーローたちはのきなみ頭が悪い。


『こちらSMガイズ。我々が今逃げれば、アクセルに攻撃が集中する。彼らは命を賭けて戦うことを選んだ。我々も同じ道を選ぶ』

『こちら不夜城、今更逃げるなんてダサいことはできない。つか、オレたちが逃げたら、アクセルの連中蜂の巣っしょ』

『こちらワイルドガンズ、ミー達も航空装備で空へ上がりマース!』

『マッスルレスラーズだ、陸自よりチタン装甲板を借りてきた。地上部隊は泥臭く弾丸シードの陽動を行う』

『こちら警視庁石崎、民間人の避難誘導がまだ終わってはいない。警視庁は避難誘導が終わるまで、この場を放棄しない』


 話を聞いて、オーヴェロンは地団駄を踏む。


『なんでそうなるんだよ、お前ら全員バカばっかなの!? 地上にはガス爆弾、上からは空爆、ここにいたら死ぬんだよ! それくらいわかるだろ!』


 彼の意見にSMガイズが答える。


『伊達やファッションでやってる小僧にはわからんだろう。我々はいつだって命を賭けて戦う、それが正義を守るヒーローなのだ。三角木馬カー発進! 亀甲縛り陽動作戦を行う!』


 戦闘が開始され、オーヴェロンは苛立ちに拳を握る。


「クソクソクソクソクソ! バカばっかりだヒーローも警察も皆バカ、全員死んでしまえ!」



 結城達の前に、ロケットブースターを持ったモカとバニラの姿があった。

 アクセル事務所のメンバーは、スカイバニー達から単独飛行用のブースターを借りようとしていたのだ。


「すみません、予備がこれ一つしかなくて」

「足りない分は私達が上まで連れていきます」

「大丈夫かい? 君等は避難しなくて。ブースターだけ貸してくれれば、俺達だけで行くが」

「我々もヒーローですから」

「それに操作にコツがいりますし」

「すまない」


 抱えていくには体重が軽いほうが良いということになり、凛音と律はバニーの手を借り、結城は予備のブースターで飛ぶことになった。


「では急上昇行きます、オーナーさん操作大丈夫ですか?」

「昔これと似たような奴を使ったことがある、大丈夫だ」

「それではテイクオフ!」


 凜音と律を連れたバニー達はブースターを点火。

 青白いアフターバーナーが光り、一気にメタンフラワーの頭上まで飛び上がる。


「よし俺も行くぞ」


 結城も飛び上がろうとロケットブースターのエンジンを始動させるが、うんともすんとも言わない。

 なんでだ? と思ったら、燃料ゲージが空を示していた。


「えっ嘘、なにこのダサい展開」


 燃料を入れてもらうにも、スカイバニー達は既に飛び上がった後。


「おーい待ってくれ~」


 結城は通信機で呼びかけるも、すでに上空では戦闘が始まっていた。

 敵も頭上は弱点だと気づいているのか、対空砲として弾丸シードを連続で発射してくる。

 地上に向けて発射しているものと違い、種は小さいが弾速が早く、ほぼバルカン砲の斉射である。


「きゃあああああ! 一発当たった! これスーツじゃなかったら、絶対穴開いてる!」

「落とされます!」

「大丈夫です!」


 バニー達は曲芸のような空中軌道で弾丸シードを避け、花弁へと旋回急降下を繰り返しながら接近していく。

 徐々に真っ赤な花弁が詳細に見えるようになり、中心部の柱頭付近には黄色い蜜のようなものが溜まっていた。

 まるで沼のような蜜に、凜音達は顔をしかめる。


「食虫植物に突っ込んでいく虫の気分ね」

「凛音先輩嫌なこと言わないでください。ただでさえラフレシアそっくりなのに」

「臭いもきついですね」


 近づけば近づくほど、何かが腐ったような刺激臭がする。


「律、コアの位置は?」

「中心部ど真ん中です。多分あれ!」


 律が指差す先、蜜沼の中心部に一本だけ太い雄しべのようなものが伸びている。

 凛音と律が近づくと、雄しべの裏から巨大なハエがひょっこりと顔を出した。


「「ギャアアアアアア!!」」


 虫嫌いな凜音と律は同時に汚い悲鳴を上げる。

 ブブブっと嫌な音をたてて飛んでくるハエに、スカイバニーは慌てて反転する。


「なんであんなキモイのがいるのよ!」

「ハエの遺伝子情報をコピーした鏡魔でしょうね」

「はぁ!? 鏡魔は葉山教授に寄生してるでしょ」

「誰が鏡魔が一体なんて言った? ってことじゃないですか?」

「元から2匹いたってコトォ!?」

「いえ、2匹どころじゃないですね。私が調べた時、20くらい生体反応があったので」

「は?」


 凜音が後ろを振り返ると、人間よりでかい20匹のハエが飛んでくる。


「終わりよ終わりよ、この世の終わり、早く空爆して」

「凜音先輩、諦めないで下さい!」


 ハエが間近にまで迫った時だった。ポンっという発射音が響き、ハエが凍って墜落していく。

 なにかと思うと、グレネードを構えたグレースが空を飛んでいた。


「ヘローガールズ! 間に合わったわね」

「グレース!」

「アルファオービット製のフライトユニットと、液体窒素を打ち込むアイスグレネード弾よ!」

「ありがとうグレースさーん!」

「喜ぶのはまだ早いわ!」


 仲間をやられたハエが、ブブブと羽音を鳴らして突っ込んでくる。

 巨体に似合わぬ高速移動。体当りされるだけで致命傷である。


「この数は無理だって! 多すぎる!」

「私達死体みたいにハエにかじられて死ぬんですか!」

「ってかパパどこいったの!?」


 凜音達が泣き叫ぶと、グレースは指笛を鳴らす。


「カモンカウガール!!」


 グレースの他のワイルドガンズのメンバーも飛行し、アイスグレネード弾を構える。

 10数名のカウガールの一斉射撃で、ハエはボタボタと墜落していく。


「すっご。あたしこれからアルファオービットに尻尾振るわ」

「私もです」

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