第34話 スポンサー
電気をつけると、侵入者はガタイが良く身長の高い男だった。
服装は真っ黒の特殊部隊スーツ、ナイフ以外に武器はなし。
目出し帽が放り投げられると、顔が露わになり白髪でヒゲを生やしている外国人男性とわかる。
恐らく年齢は60歳以上だが、鍛えられた鋼のような肉体をしている。
「あなたは?」
「なかなかやるようだな神村結城」
「なぜ俺の名を?」
「グレース!」
男が名前を呼ぶと、ウェスタンハットの爆乳カウガール、グレースが姿を現す。
彼女は怒っているのか、眉を吊り上げていた。
「グレース? 何がどうなってるんだ?」
「ソーリーユーキ、彼はミーのグランパ、デッカードよ」
「グレースのお爺さん!? 失礼ですが、おいくつですか?」
「69だ!」
その歳であれほど動けるグレースの祖父に驚きを隠せない。
「グランパは陸、海軍経験者で、今は対鏡魔専用武器メーカーのCEOをしてマース」
「そんなすごいお爺さんが、一体なぜ襲いかかってきたんだ?」
デッカードはずいっと顔を寄せる。
彫りの深い俳優みたいな老人は、不服そうな目で結城を観察する。
「グレース、本当にこんなジャパニーズひょろもやしがいいのか!」
「そのひょろもやしにグランパは負けたのよ」
「ぐぬぬぬ、仕方あるまい。約束は約束だ」
「あの、さっきから何の話をされているのでしょうか?」
「お前とグレースの交際を認める。もしワシの孫を泣かせてみろ、貴様をトマホークミサイルにくくりつけて大気圏外まで打ち上げてくれるわ!」
「こ、交際? なんの話です?」
凜音と律の目がすっと鋭くなる。
「だからグランパ違うのよ。ごめんねユーキ、グランパにユーキのことを話したらすっかりボーイフレンドと思い込んじゃって」
「交際するのであれば、ワシより弱い男は許さん!」
「この調子で、ミーに近づく男性皆殴り飛ばしてて。でもユーキが勝ってくれて良かったわ」
「神村結城、今からフロリダに行く。準備しろ」
「いや、行きませんが?」
「親戚や、軍関係者に顔見せに行くぞ」
「行きませんが?」
「なぜこんのだ!」
「グレースと交際してないからです。この前あったところですよ?」
「なに……? 貴様、娘との交際に何か不満があるのか?」
デッカードはグレースをずいっと押し出す。
「バスト108、ウエスト61、ヒップ93。ハイスクールではチアリーダーを務め、モデル業も経験し、イケメン俳優から幾度も求婚を受けた。クマをも素手で倒すスーパーガールだぞ!」
「最後のはちょっといらないな」
怒らせたら殴り殺されそうだ。
というか、なぜ爺さんが孫のスリーサイズを知っているのか。
「貴様もテレビで孫の胸を触っていただろう!」
「それはもう本当にすみません、お爺様」
結城はジャンピング土下座を敢行した。
「グレース、こんなすぐ土下座する男のどこがいいのだ!」
「グランパにはわかんないから」
「おい貴様、貯金はいくらだ?」
「ありません」
「職業は?」
「経営が苦しいヒーロー事務所のオーナーです」
「健康体か?」
「昔ケガして、後遺症があります」
「この男のどこがいいのだ! 地位も体も悪いところしかない!」
「う~ん頼りないところ含め、父性かしら」
「お前は昔から少しダメな男に惹かれる傾向がある!」
「男は欠点が多い方がかわいいじゃない」
どうやらグレースはダメンズ趣味らしい。
デッカードは額に血管を浮き上がらせ激昂する。
「バカモン! だからワシがこうやってクズを払い除けているのだ!」
いきなり襲ってきて、酷い言い草である。
「グランパ、いい加減にしないと怒るわよ! グランパは負けたの! 負けたら口出ししない約束でしょう?」
「ぐぐぐぐ、孫に嫌われたくないからこれぐらいにしておくが、ワシは絶対にお前みたいなヒーロー崩れ許さんからな!」
デッカードは肩を怒らせて事務所を去っていく。
「孫に厳しいのか甘いのかよくわからん爺さんだな」
「ごめんなさい、グランパはミーを溺愛していて」
「それはわかる」
「せっかくいい話を持ってきたのに」
「いい話とは?」
「ユーキ、スポンサーに興味あるかしら?」
スポンサーという言葉に結城の目の色がかわる。
「なんだと? どこのどなたがその話をされているんだ?」
「パパ、舌出した犬みたいに食いつかないでください」
「スポンサーって言葉に弱いんだから」
「ほら凜音、律、グレースにお茶をお出しして」
落ち着いた結城とグレースはソファーに対面になって座り、スポンサー契約の話を行う。
「実は、ミーの実家は兵器メーカーのアルファオービットデス」
「アメリカで2、3番目にでかい武器メーカーじゃないのか? まさか君そこの娘か?」
「イエース。アルファオービットから、装備の融資をしても構いませーん。最新式の武装や、開発中のパワードスーツ、戦闘車両もありマス」
「ほんとか?」
資金融資ではなく、装備融資だけでも大助かりである。
ヒーロー事務所において、出費の大多数を占めるのはヒーローのスーツ及び武器弾薬であり、そこさえなんとかなれば新たなヒーローの雇用が見込める。
車も現状テレビ局のレンタカーであり、事件現場に向かうには役不足だった。
「本当ならユーキをワイルドガンズに引き抜きたいところデスが、ユーキがテレビの企画で事務所を大きくしようとしているのは知ってマース。なのでそのへんの事情は汲みます」
「アルファオービットが後ろについたら、ヒーローの生存率や犯人検挙率も上がる。良いことしかない」
しかし凛音たちは不満げである。
「パパ、それ本当に大丈夫?」
「何がだ?」
「あまりおっきなスポンサーがつくと、ほぼスポンサーの言いなりですよ」
「ワイルドガンズの手下みたいになっちゃうんじゃない? やだよ、あたしアクセルがなくなるの……」
「ノーノーアルファオービットが、事務所の方針に口出しすることはありません。彼らは新兵器のテストデータをとれるというメリットがあるので、使用データの提出以外に求めることはないデース」
「どうだろうか、二人共?」
「「う~ん……」」
凛音と律は、あまり納得していない様子だった。
すると、結城は少し残念そうにしてグレースに向き直る。
「すまない、ウチの所属のヒーローに許可がとれなかった。この話はなかったことにしてくれ」
「オーノー……本当にいいのですか? もっと考えたほうが」
「いや、彼女らが不安だというのなら受け入れることはできない」
「残念デース……」
「「…………」」
結城はスポンサーの話を断ってくれたが、凜音と律はどこか悶々としていた。
特に理由のない不安からの拒否であり、良い話を自分たちのせいで断らせてしまったというモヤモヤ。
凛音が視線を落とすと、結城の使い込まれた革靴が目に入る。
彼が毎日スポンサーを求めて、様々な企業に営業をかけているのは知っており、雨の中数時間待たされたり、アポをとっても物の数秒で断られたりと、散々な目にあっている。
そのため彼の靴は、一月も経たないうちにボロボロになってしまうことがほとんどだ。
経営が苦しく運営資金のほぼ全てをヒーローたちに回してくれているため、彼が自分の物を新調しているのは見たことがなかった。
「受けよう」
「えっ?」
「律、あんまりパパ困らせたらダメだと思う」
凛音は視線で結城の革靴を見やる。
律もそれに気づくと、同じ心境に至り首を縦にふる。
「そうですね。考えようによってはスポンサーがつけば、パパの外回りが減るかもしれませんし」
「いいのか君ら?」
「うん、ごめん困らせることばっかり言って」
「むしろ天下のアルファオービットを蹴る理由が、どこにあるのかって感じしますし」
グレースは二人を見て、センキューガールと抱きつく。
「うぐ、このスキンシップはやめてほしい」
「乳が、乳が当たります」
話がまとまりかけた時だった、突如結城の通信端末からアラートが鳴る。
「もしもし」
『矢車よ。東京にいる全ヒーローに緊急出動要請が出たわ、場所は国立植物科学研究所よ』
「まさか、葉山がダークフレイムだったんですか?」
『葉山なのは間違いないけどダークフレイムはハズレ。研究所の職員の証言では、突如鏡の中から現れた鏡魔が葉山に寄生し怪物化したと』
「わかりました。すぐに向かいます」
『急いで頂戴。葉山は寄生によって体が増殖し、今現在30メートルを超える怪物になっているわ』
「了解」
結城の話を聞いていた、グレースたち全員が頷く。
「東京全域のヒーローに招集がかかった。恐らく、相当でかいことになってる」
「ユーキ、ミーの車で向かいましょう」
アクセル事務所はグレースの乗る装甲ジープに乗り込み、国立植物科学研究所へと急行する。
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