第30話 ロケットガール
その頃、凜音と律はスカイバニーと共に、ロケットブースターで空から下着ドロを追いかけていた。
時速100キロ近くで走行する、ローラースケートを履いた犯人は、ちょいちょい事故を巻き起こしながらも逃走する。
「くっ、あいつあんな危険なことして!」
「凜音先輩、このままだと渋谷に入ります」
「人混みの中に逃げようって気ね」
「もう一つ悪いニュースが、あいつ盗んだ下着ポロポロ落としながら逃げてます」
「もう最悪ね!」
凜音が憤慨していると、別チームのヒーローから通信が入る。
『チームアクセル、こちらSMガイズ。追跡なら我らに任せてもらおう』
凜音達が空から地上を見下ろすと、車輪がついた巨大な三角木馬に跨ったSMガイズが、猛スピードで下着ドロを追いかけていた。
下着ドロはなんとか引き離そうとするが、三角木馬は凄まじいドリフトでぴったりケツにくらいついたまま離れない。
「すごいドラテクですね」
「あの木馬はどういう原理で動いてるのよ……。二人共SMガイズと協力するわ! 高度を落として!」
「「了解!」」
モカとバニラはブースターをコントロールし、三角木馬に跨った中年オジサンの横につける。
「SMガイズ、このままじゃ過密地域に入ります!」
「任せろ、SMライフル用意!」
三角木馬の胴部から、二本のライフルがニョキっと伸びる。
「こんなところで銃なんか使ったら、民間人に当たるわよ!」
「問題ない、SMライフル発射!」
木馬から、ドドドドドっと弾丸が発射される。
「痛ってぇ!!」
実弾にしてはデカい弾が下着泥の背中に命中すると、大きくバランスを崩した。
しかしなんとか体勢を立て直して、そのまま逃げ続ける。
「しぶといやつだな」
「SMガイズ、あの弾はなんなんですか? 実弾ではないみたいですが」
「非殺傷性の
「なるほど」
三角木馬は、犯人にベチベチとスラッグ弾を当てながら追跡を行う。
「なかなか倒れませんね」
「衝撃吸収に優れるスーツを使っているのだろう。ならばSMファイアを使う」
木馬からライフルが引っ込むと、今度は火炎放射器がニュッと伸びる。
「これも非殺傷系なんですか?」
「これはシンプルに火炎放射器だ」
「えっ?」
木馬から炎の柱が噴出し、下着ドロのスーツの背中が焼け焦げる。
「うわちちちちち! やめろ変態野郎!」
「誰が変態だ、女王様とお呼び!」
怒ったSMガイズが鞭を振り回していると、バニラとモカのブースターからビービーっと警報音が鳴る。
「まずい、上昇警報! トンネルです!」
「SMガイズ、トンネルよ!」
「まずい、この三角木馬カーの車高だと通れない」
言ってるうちに出口が見えている短いトンネルが見えてきた。下着ドロも三角木馬が入ってこれないと気づき、トンネル内へと逃げ込む。
「このスピードでは曲がれん! 緊急離脱する!」
三角木馬からSMガイズが飛び降りると、木馬は頭の部分がトンネルの天井にぶち当たり爆発炎上した。
「SMガイズーー!」
「急上昇します!」
凜音とバニラ達は急上昇してトンネルをかわすと、抜けてきた下着ドロの再度後ろにつける。
下着ドロは彼女たちを振り切るため、狭い道を選んで区画をジグザグに走行していく。
「よくもSMガイズを! 彼らの意志はあたしたちが継ぐわ!」
「凜音先輩、SMガイズ生きてますから。あともう一つ嫌なニュースがあります」
「何?」
「嫌な増援がきました」
凜音が後ろを振り返ると、カラフルな原付バイクに乗ったジューシーズが追いかけてきていた。
どうやら迂回やジグザグ走行を繰り返しているうちに、遅い原付きで追いついたようだ。
「ホーーッホッホッホ! 凜音ー! 手柄は私達ジューシーズがいただくわ! 見える見えるわ、明日の一面をジューシーズが独占するところが」
「うるさい女が来たわね。大体どうやって原付きでチェイスする気よ」
ペペペペペと原付きのエンジン音を鳴らしながら追いかけようとするが、パワーが足らずすぐに引き離される。
それはジューシーズも気づいていたことだ。
「リーダー、原付きではどんどん引き離されます!」
「ぐぬぬぬ」
その時、見るからに速そうなロードバイクに乗った男性を発見する。
「そこのあなた止まりなさい!」
「えっ俺?」
「犯人追跡中よ、そのバイクを貸してちょうだい!」
ジューシーアップルは半ば奪うようにして、ロードバイクに跨る。
「ちょ、ちょっとあんた、これ買ったとこなんだぞ!」
「握手券あげるから黙ってなさい! 待ちなさい凜音ー!」
律は猛スピードで追いかけてくるバイクを見て、口元を引きつらせる。
「凜音先輩、アップルさんが民間人のバイク奪ってまた追いかけてきてます」
「どっちが犯人かわかんないわね。ってかあいつ、あんな大型バイクなんか乗ったことないでしょ」
「もう凜音先輩への対抗心だけで追ってきてますね」
アップルはアクセルぶん回しで、グングンと下着ドロへと突っ込んでいく。
だが、下着ドロは振り返って拳銃を2発発射する。
ロードバイクのウインドシールドに弾丸が突き刺さり、大きくハンドル操作が乱れる。
「いやああああああああああ! あいつ撃ってきた! アイドルヒーローの私に! アイドルなのに!?」
「なんで自分は撃たれないと思ってるのよ」
「凜音、銃を持ってるわよあいつ!」
「下着ドロでも拳銃の1つや2つ持ってるでしょ。
「嫌よ! 私はトップアイドル、歌って踊れて戦いもできる誰もが羨む完璧で究極なヒーローになるのよ!」
アップルはアクセル全開で距離をつめていくが、下着ドロは壁走りでほぼ直角にカーブを曲がる。
当然全速力のバイクが対応できるわけもなく、アップルはブレーキをかけるもガードレールにぶち当たって吹っ飛んでいった。
「あー↑あー↓!!」
マクダナルドのガラスを突き破り、ダイナミック入店するところを、凜音達は「あちゃー」と顔をしかめながら見やる。
「助けた方がいいですかね?」
「スーツ着てるし大丈夫でしょ。お客も避けてたし」
「別の意味で一面飾ることになりそうですね」
余計な援護が入っているうちに、犯人は渋谷繁華街近くまで来てしまっていた。
「やばい、これ以上先に行かれると人多すぎて追跡できない」
「凜音先輩、今パパに連絡して指示を仰いだんですけど」
「チェイスのアドバイスなんて意味ある?」
「先回りして水道管壊せ、あとテレビは見るなだそうです」
「はぁ???」
◇
泥棒は、意気揚々とウイニングランの気持ちで走っていた。
「よーし、あの空飛んでる奴らもいなくなったな」
どうやらヒーローの追跡は全て振り切った。
後は路地裏に入ってシューズを脱ぎ、人混みにまぎれて地下から逃げる。勝利ルートは完璧だった。
だが、
「おわっ、なんだこれ!?」
道路一面がスケートリンクのように凍っており、ローラーが空転、盛大にスピンしてずっこける。
「地面が全部凍ってやがる!?」
周囲を見ると、水道管がぶっ壊れ水が天高く噴出した形跡がある。その立ち上った水も凍っており、氷のオブジェのようになっているが。
「氷能力者か!? 畜生!!」
「かかったわね女の敵!」
下着ドロが声のした空を見上げると、凜音とバニラ達が上空から見下ろしていた。
「やばい!」
慌てて逃げ出そうとするも、ホイールがつるつると滑り、まともに立つことすらできない。
「行くわよバニラ!」
「はい先輩! ブースター全開!」
「ロックアイス!」
「バニーダイブ!」
凜音は自分の足に氷をまとわせ、ハンマーのように硬くするとバニラのロケットブースターで、風を切って急降下してくる。
「「バニーロケットアイスキック!!」」
「うわああああああ!!」
キラっと光る流星のようなキックが見事に決まり、下着ドロは錐揉しながら吹っ飛んでいった。
凜音は空中にいる律とモカにピースする。
「イェーイ、いいV撮れた?」
「ええばっちりです」
「パパにアドバイスめちゃくちゃ刺さったよってメールしといて」
「ええ、画像付きでやっておきます」
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