第29話 弾はとりやすい位置に用意しておけ

「我々も追跡行くぞ、SMガイズ緊急出動! 三角木馬カーを出せ!」

「ジューシーズも行くわよ! 凜音と律に手柄をとられるなんて死んでも防いで!」

「リーダー! 追跡できる車が宣伝用のジューシーバイク(原付き50cc)しかありません」

「それでいいから行くわよ! ジューシーズ出動!」

「ちょっと急いでちょうだい! ヒーローの生チェイスなんか滅多に撮れないんだから!」


 ヒーローたちが次々に車両に乗り込み発進していく。

 矢車も報道カーにカメラマンを押し込むと、即座に結城達の追跡を行う。



 その頃、公道を100キロ近いスピードで逃走していた犯人は、陸からも空からも追われていることに気づき、二手に分かれて逃げ出す。

 それを真後ろから見ていた結城は矢車に連絡し、全ヒーローに通話を繋いでもらう。


『こちらアクセルヒーロー事務所の神村、犯人は東京タワー周辺で東と西に分かれて逃走中。東は俺達でなんとかする。西ルートに逃げた犯人を頼む。犯人の特徴は真っ黒なスーツ、足には時速100キロ以上で走れるローラーシューズを装備している。尚盗んだ下着は分けて運んでいる模様。下手に攻撃すれば、道路に下着が散らばるので注意せよ』


 結城が連絡している間に、下着ドロは高速道路へと入ろうとしていた。


「グレース、犯人が高速に乗ろうとしてるぞ!」

「任せなさい。ミーにチェイスを挑むなんて1000年早いデース! ランドバイソン、リミッター解除!」


 グレースはバイクのメーターパネルを操作すると、6本の排気筒からジェットエンジンのような火が吹き出て、一気に加速する。

 周囲の車が、まるで止まっているかのようにごぼう抜きしていく。


「うぉぉぉぉこええええええ!!」

「待ちなサーイ! 待たないと撃ちマース!」


 結城達はグングンと下着ドロへと距離を詰めていく。

 遠距離武器射程圏内に入ると、グレースはバイクに装備されているウィンチェスターショットガンを取り出す。


「最終警告よ! 直ちに停止しなさい! さもなければ蜂の巣にシマース!」


 しかしここまで逃げた下着ドロが大人しく応じるわけもなく、むしろ煽るようにこちらの眼の前を蛇行する。


「ありゃ撃たないと思ってるな」

「ミーはそんなに優しくないわよ!」


 グレースは片手でショットガンを撃つと、ズドンっと銃声が響く。しかし弾は命中すること無く道路に火花が散っただけ。

 彼女はショットガンを片手で回転させ次弾を装填すると、更に連続で射撃する。しかし右に左に、時にはガードレールを使い壁走りまでして弾をかわす下着ドロ。


「パルクールの才能があるやつだな」

「シット! チョロチョロと!」


 銃を撃つのは良いが、そのたびにバイクが激しく揺れて振り落とされそうになる。

 結城はがむしゃらにグレースの一番つかみやすい胸を掴む。

 彼女は全く気にしておらず、眼の前でチョロチョロする下着ドロに苛立ちを隠せないでいる。


「ああもうガッデーム!」


 バス、バスっとショットガンを連射していたが、トリガーを引いてもカチンカチンという音しかしなくなった、


「OH! シェルがなくなりました! リロードしまーす!」

「待て俺がやる! 君はハンドルから手を離すな!」

「センキューユーキ!」

「それで弾はどこにあるんだ?」

「ミーの胸の谷間デース!」

「そんなところに予備弾倉を入れるな!」


 仕方なく結城は、後ろから胸の谷間に手を突っ込む。

 しかし谷間が深すぎて、どこに弾があるかわからない。


「アッハッハッハッハ、ユーキくすぐったいデース! このままでは事故ってしまいマース!」

「それだけはやめろ! 今時速150キロだぞ!」


 今事故ったら跡形も残らんわと思っていると、ようやく弾を発見。

 ショットガンに弾を込めて、グレースに手渡す。


「センキューユーキ」

「グレース、銃はないか?」

「OH、ユーキ武器持ってないの?」

「俺の格好見ろ、Tシャツに水着でサンダルだぞ。日曜にプール来たオジサン装備だぞ」

「アッハッハ確かにそうね! ミーのパンツに拳銃が入ってマース」

「変な位置に武器を隠すのはやめろ!」


 結城は彼女のパンツから、銃身の長いリボルバー拳銃を引っ張り出す。


「44マグナムかよ、女が使う銃じゃないぞ」

「あら一応ユーキに勝った女よ」

「そうだったな」


 結城はゆるやかな登りに入って、下着ドロのローラースケートが若干減速したのを見計らうとトリガーを引く。

 低い発射音と共に放たれた大口径の弾丸は、後ろのローラーホイールを弾き飛ばす。


「グレイト! 命中よユーキ!」


 車輪を失い下着泥はバランスを崩して派手に転倒。道路を何十回転もしてようやく止まる。

 結城たちが追いつき、バイクを降りて銃を構えながら近づく。


「大丈夫かお前。頭から血出てるぞ」


 頑丈な下着泥は観念したのか、起き上がってあぐらをかく。


「この僕を捕まえるとは、なかなかやりますねヒーローも」

「何を強者っぽいセリフを言ってるんだ、下着泥が」

「ミーのアクセ返すデース!」

「今回は僕の負けだよ。さぁ持っていって……」

「お前……足から火出てるぞ」


 結城はエンジン部が破損して、発火したローラースケートを指差す。


「うわちちちちちちちち!!」

「早く脱げ!」


 下着泥は慌てて燃えるシューズを脱ぎ捨てると、下着の入ったバッグの上に落ちる。

 下着はローラースケートの燃料によって、ボンっと激しく燃え上がった。


「オーノー!! オーマイガッ!!」


 結城は燃え盛る下着の中に手を伸ばそうとするグレースを止める。


「離して! あそこにミーの宝が!」

「グレース大丈夫だから!」

「何が大丈夫なのデス! 溶けてしまったらどうするの!?」

「君のアクセは俺が持ってる」


 結城は取り返した、星型のネックレスを彼女に手渡した。


「これだろ?」

「どうやってこれだけを?」

「下着ドロを引っ張り出すのに強力な磁石を使ったんだ。その時金属系は全部回収してる。まぁ下着は燃えちまったけどな」

「センキューユーキ!」


 グレースは結城に飛びついてキスの雨を降らせる。

 外国のヒーローはスキンシップが激しいなと思っていると、テレビ局の報道カーが結城たちを映しているのに気づき青ざめる。

 カメラマンは車を降りて、テンションの上がるグレースを撮影している。


「あの、もしかしてこれライブ?」

「はい、ライブです。HBCで放送されてます」

「どこから撮ってました?」

「ショットガンをリロードされていた辺りからです」


 もう最悪だ。

 カメラマンに無慈悲なことを言われ、どうか凜音と律が見ていませんようにと願うしかなかった。


「センキューユーキ!♡」

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