第29話 弾はとりやすい位置に用意しておけ
「我々も追跡行くぞ、SMガイズ緊急出動! 三角木馬カーを出せ!」
「ジューシーズも行くわよ! 凜音と律に手柄をとられるなんて死んでも防いで!」
「リーダー! 追跡できる車が宣伝用のジューシーバイク(原付き50cc)しかありません」
「それでいいから行くわよ! ジューシーズ出動!」
「ちょっと急いでちょうだい! ヒーローの生チェイスなんか滅多に撮れないんだから!」
ヒーローたちが次々に車両に乗り込み発進していく。
矢車も報道カーにカメラマンを押し込むと、即座に結城達の追跡を行う。
◇
その頃、公道を100キロ近いスピードで逃走していた犯人は、陸からも空からも追われていることに気づき、二手に分かれて逃げ出す。
それを真後ろから見ていた結城は矢車に連絡し、全ヒーローに通話を繋いでもらう。
『こちらアクセルヒーロー事務所の神村、犯人は東京タワー周辺で東と西に分かれて逃走中。東は俺達でなんとかする。西ルートに逃げた犯人を頼む。犯人の特徴は真っ黒なスーツ、足には時速100キロ以上で走れるローラーシューズを装備している。尚盗んだ下着は分けて運んでいる模様。下手に攻撃すれば、道路に下着が散らばるので注意せよ』
結城が連絡している間に、下着ドロは高速道路へと入ろうとしていた。
「グレース、犯人が高速に乗ろうとしてるぞ!」
「任せなさい。ミーにチェイスを挑むなんて1000年早いデース! ランドバイソン、リミッター解除!」
グレースはバイクのメーターパネルを操作すると、6本の排気筒からジェットエンジンのような火が吹き出て、一気に加速する。
周囲の車が、まるで止まっているかのようにごぼう抜きしていく。
「うぉぉぉぉこええええええ!!」
「待ちなサーイ! 待たないと撃ちマース!」
結城達はグングンと下着ドロへと距離を詰めていく。
遠距離武器射程圏内に入ると、グレースはバイクに装備されているウィンチェスターショットガンを取り出す。
「最終警告よ! 直ちに停止しなさい! さもなければ蜂の巣にシマース!」
しかしここまで逃げた下着ドロが大人しく応じるわけもなく、むしろ煽るようにこちらの眼の前を蛇行する。
「ありゃ撃たないと思ってるな」
「ミーはそんなに優しくないわよ!」
グレースは片手でショットガンを撃つと、ズドンっと銃声が響く。しかし弾は命中すること無く道路に火花が散っただけ。
彼女はショットガンを片手で回転させ次弾を装填すると、更に連続で射撃する。しかし右に左に、時にはガードレールを使い壁走りまでして弾をかわす下着ドロ。
「パルクールの才能があるやつだな」
「シット! チョロチョロと!」
銃を撃つのは良いが、そのたびにバイクが激しく揺れて振り落とされそうになる。
結城はがむしゃらにグレースの一番つかみやすい胸を掴む。
彼女は全く気にしておらず、眼の前でチョロチョロする下着ドロに苛立ちを隠せないでいる。
「ああもうガッデーム!」
バス、バスっとショットガンを連射していたが、トリガーを引いてもカチンカチンという音しかしなくなった、
「OH! シェルがなくなりました! リロードしまーす!」
「待て俺がやる! 君はハンドルから手を離すな!」
「センキューユーキ!」
「それで弾はどこにあるんだ?」
「ミーの胸の谷間デース!」
「そんなところに予備弾倉を入れるな!」
仕方なく結城は、後ろから胸の谷間に手を突っ込む。
しかし谷間が深すぎて、どこに弾があるかわからない。
「アッハッハッハッハ、ユーキくすぐったいデース! このままでは事故ってしまいマース!」
「それだけはやめろ! 今時速150キロだぞ!」
今事故ったら跡形も残らんわと思っていると、ようやく弾を発見。
ショットガンに弾を込めて、グレースに手渡す。
「センキューユーキ」
「グレース、銃はないか?」
「OH、ユーキ武器持ってないの?」
「俺の格好見ろ、Tシャツに水着でサンダルだぞ。日曜にプール来たオジサン装備だぞ」
「アッハッハ確かにそうね! ミーのパンツに拳銃が入ってマース」
「変な位置に武器を隠すのはやめろ!」
結城は彼女のパンツから、銃身の長いリボルバー拳銃を引っ張り出す。
「44マグナムかよ、女が使う銃じゃないぞ」
「あら一応ユーキに勝った女よ」
「そうだったな」
結城はゆるやかな登りに入って、下着ドロのローラースケートが若干減速したのを見計らうとトリガーを引く。
低い発射音と共に放たれた大口径の弾丸は、後ろのローラーホイールを弾き飛ばす。
「グレイト! 命中よユーキ!」
車輪を失い下着泥はバランスを崩して派手に転倒。道路を何十回転もしてようやく止まる。
結城たちが追いつき、バイクを降りて銃を構えながら近づく。
「大丈夫かお前。頭から血出てるぞ」
頑丈な下着泥は観念したのか、起き上がってあぐらをかく。
「この僕を捕まえるとは、なかなかやりますねヒーローも」
「何を強者っぽいセリフを言ってるんだ、下着泥が」
「ミーのアクセ返すデース!」
「今回は僕の負けだよ。さぁ持っていって……」
「お前……足から火出てるぞ」
結城はエンジン部が破損して、発火したローラースケートを指差す。
「うわちちちちちちちち!!」
「早く脱げ!」
下着泥は慌てて燃えるシューズを脱ぎ捨てると、下着の入ったバッグの上に落ちる。
下着はローラースケートの燃料によって、ボンっと激しく燃え上がった。
「オーノー!! オーマイガッ!!」
結城は燃え盛る下着の中に手を伸ばそうとするグレースを止める。
「離して! あそこにミーの宝が!」
「グレース大丈夫だから!」
「何が大丈夫なのデス! 溶けてしまったらどうするの!?」
「君のアクセは俺が持ってる」
結城は取り返した、星型のネックレスを彼女に手渡した。
「これだろ?」
「どうやってこれだけを?」
「下着ドロを引っ張り出すのに強力な磁石を使ったんだ。その時金属系は全部回収してる。まぁ下着は燃えちまったけどな」
「センキューユーキ!」
グレースは結城に飛びついてキスの雨を降らせる。
外国のヒーローはスキンシップが激しいなと思っていると、テレビ局の報道カーが結城たちを映しているのに気づき青ざめる。
カメラマンは車を降りて、テンションの上がるグレースを撮影している。
「あの、もしかしてこれライブ?」
「はい、ライブです。HBCで放送されてます」
「どこから撮ってました?」
「ショットガンをリロードされていた辺りからです」
もう最悪だ。
カメラマンに無慈悲なことを言われ、どうか凜音と律が見ていませんようにと願うしかなかった。
「センキューユーキ!♡」
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