第27話 仁義なき戦い
「プール毒クラゲはいいとして、それより律達はコーヒー売れたか?」
「私は3缶売れました」
「あたしは5缶ね」
「すみません1缶です」
「わたしは……0です……ごめんなさい」
やはり炎上もあり、バニー達の売上は芳しくない。
「パパどうします? 1時間でこの数字だと、多分閉園までに間に合いませんよ」
「そうだな……」
残り50缶ほど、まともに売っていては埒が明かないと察した結城はピンと閃く。
「賭けよう」
「賭け……ですか?」
「おう、賭けだ。ちょっと園のオーナーに許可とってくる」
◇
「さぁ先着50人限定で、腕相撲勝負だ! 俺に勝てたら向こうにいる女の子、誰でも好きな子を選んでキスしてもらえるぞ!」
結城はプールのカフェから借りた、2人用の丸テーブルを設置する。彼の後ろには凜音含め、スカイバニーがモデル立ちで並ぶ。
「参加費は一人150円、負けてもアイスコーヒーが貰えるおまけ付きだ! 先に言っておくが俺はヒーローだ、能力は当然縛るがヒーローに勝てると思う奴だけかかってきな!」
結城がそう呼び込みをかけると、面白そうだなと人が集まってくる。
「あんな弱そうなオッサンで大丈夫か?」
「でもヒーローって言ってたしな」
「ヒーローって言ってもザコヒーローもいるからな」
ざわざわしている客たちの様子を観察するスカイバニーと凜音達。
「パパうまいなぁ、直接売るんじゃなくて景品のおまけにしちゃうなんて」
「腕相撲のゲーム性がついただけで、コーヒー売ってるのと一緒ですからね」
「だってこの時点でもう面白そうな雰囲気出てるもん」
後は客が乗ってくれるかだったが、一人の鍛えてそうなオジサンが挑戦を宣言し、それが皮切りになり次々に希望者が現れる。
「ぐぬぬぬぬぬ!」
「うおおおおおっ!」
結城は17人目の若い兄ちゃんをノックアウトする。
「畜生、もうちょいだった」
「残念だったな。はい、コーヒー」
「どうも」
勝負を終えた兄ちゃんは、アイスコーヒーを受け取ると、立ち去らずに観客の中に戻り観戦を続ける。
誰かが結城を倒すところを見ようとしているのだ。
「さすがパパ、まぁ能力使ってるパパに勝てるわけないんだけどね」
凜音は腕相撲の様子を見ながら、無理無理と笑みを浮かべる。
結城の電気能力は己の筋力を上昇させる為、どれだけ屈強な男がやってこようが勝てるわけがない。
しかし19人目でレスラーみたいなでかい男が現れ、あわや負けそうになるまで追い込まれる。
「こんのぉっ!」
「うおあっ!!」
結城が土壇場で逆転したが、今のは本当に危なかった。
あと数ミリでテーブルに手がつき、負けていただろう。
「さすがパパ、相手に勝てそうっていうギリギリの演技上手いなぁ。ああやれば次は勝てるかもって思っちゃうもんね」
「凜音先輩、今私サードアイでパパが能力使ってるか見たんですけど、パパ能力使ってないです」
「えっ?(困惑)」
「そもそもパパ最初に能力使わないって言ってましたよね」
「いやいやいや、そう言いながらもバレない程度に使うでしょ普通! 50対1みたいなもんなんだから、能力使ってもパパのほうがきついでしょ!」
23人目を倒し、段々へとへとになってくる結城。
「ちょっと待ってパパ能力使って! あたしらのキスがかかってるんだから!!」
30人目で、彼の手は軽く痙攣してきていた。他の観客も彼の疲労に気づいており、俺の番まで負けるなと逆に応援していた。
「ふっふっふっふ、父上またお会いしましたな」
31人目で現れたのは中年の太っちょ男。
着ているTシャツには律LOVEと書かれている。
「お前は……角刈り!?」
「見た目だけ! 絶対覚えてないでしょう! オレは律のパパ活男だ」
「あぁ、ストーカーの」
「事実だが、
「父上?」
「そう、律のオーナーとして面倒を見ているあなたは、言わば彼女の父。それはオレにとっても義父と同じ」
「気持ちの悪いことを言うな」
「オレは義父を倒し、正式に律の唇をいただきますぞ」
「気持ちの悪いことを言うな。俺より年上のくせに」
「義父上、お手を拝借しますぞ」
「手汗すごいなお前……」
結城と角刈りが手を組む、そしてゴングと共にお互い力をいれる。
「ぐおおおおお、律に届けこの想い! ウルトラダイナミックスペシャルファイティンアルティメットドラゴンパワー!!」
角刈りの力こぶが盛り上がり、力と力がぶつかり合う。
「唸れ上腕二頭筋! 轟け三角筋! はあああああああ!」
「ぐおー」
「す、すごい、パパがとっても苦しそう! あの男実は強いの!?」
凜音は驚いているが律はサードアイのゴーゴルで、結城が死ぬほど手を抜いていることがわかっていた。
結城は内心めちゃくちゃ喜んでいた。
(こいつめちゃくちゃ力弱い。助かる、こいつで休もう)
「うおおおおおおお! オレは父上を超える!!」
「まけるかーうおー(棒)」
「はあああああああ!!」
「うおーー(棒)」
血管千切れそうなくらい叫ぶ角刈りと、棒読みで唸る結城。
「ぐっは、さすが父上。律を渡すには、まだオレは力不足ということですね?」
「足りてないのは力だけじゃないけどな。あと父呼びはやめろ」
「最後に父上聞かせてくだされ。オレは……強かったですか?」
「助かった」
「?」
強いでも弱いでもなく、助かったという謎の返答に首を傾げる角刈り。
「よし、これで後半乗り切っていこう」
その後結城は49人目までノンストップでなぎ倒していく。
観客も徐々に誰か倒すだろうという目で見ていたが、50人抜きを望む者が増えてきた。
「さて、ラストの挑戦者はいるか?」
40人目の後半になるにつれ、挑戦者が激減してきた。
観客から「あと一人!」コールが始まっており、誰も一番最後のトリになりたいとは思わないだろう。
「いないなら終わりにするか」
観客からのブーイングを受けつつも、ラストのアイスコーヒーは俺が頂こうと結城は缶に手を伸ばす。
しかし、それより先にテーブルに150円が置かれた。
「ヘイ、ユーキ、楽しそうなことやってるわね!」
「グレース」
カウボーイハットを被った、金髪爆乳ヒーロー。
ワイルドガンズのグレースが、ニヤッとした笑みを浮かべていた。
「ヒーローの参戦は受け付けてないかしら?」
「別に構わんが、能力は禁止だぞ」
「OK勿論よ」
先程まで味方だった彼女が、今度は敵として登場。
結城は予想外の相手にまずいなと思いつつも、まぁグレースなら最悪負けてもええわと思っていた。
しかしながら周囲は、ヒーロー同士の対決だと盛り上がりを見せる。
二人は手を組みあい、視線を合わせる。
「いいぞ合図して」
「じゃあ行くわよ。レディーファイッ!」
両者が腕に力を込め、お互い全力でぶつかり合う。
一瞬で体全部を持っていかれそうになり、結城は反対の手でテーブルをしっかりと掴む。
(くっ、やっば角刈りの1億倍強い!)
グレースのパワーは凄まじく、恐らく角刈りが1億人いても彼女には勝てないだろう。この時の彼女の戦闘力を1億角刈りとする。
しかもタチが悪いのが、テーブルの上に乗ったグレースの爆乳である。
ふてぶてしさすら感じるキングスライムが、眼の前で形を変え集中力を欠く。
おまけに開始と同時にビキニの肩紐が片方外れ、目玉焼き出現警報発令中である。
「くっ、おのれ卑怯な……」
「あら、50人抜きして疲れてるのは、ユーキが決めたルールよ」
「そうじゃなくて、だな」
1分ほどお互い組み合ったままで、変な笑いがこみ上げてくる。
両者共に小さな鍔迫り合いは無駄と悟り、この勝負は一気に決着をつけたほうが勝ちと判断したからだ。
「ミーのファイナルアタックを30秒後に行いマース」
「おおん? いっちょ前にオジサンに心理戦か? じゃあ俺は25秒後に仕掛けるわ」
「じゃあミーは20秒」
「10秒」
「5秒」
「「今!!」」
お互い最後の力を振り絞ったラストアタック。状況はわずかに結城が優位。しかしグレースが「はぁっ!!」と奮起すると、状況は反転し、結城が一気に形勢不利になった。
「くあっ!」
「ミーの勝ちデース!!」
しかし決着直前で、力を入れすぎたテーブルがバキッと音をたてて砕け散った。
シャフトが折れてしまい、両者ともにバランスを崩しもつれあって倒れる。
「いってぇ、すまん。テーブルが壊れちまったな」
いててと起き上がると、結城は先程までかたく手を握りしめていたものが、柔らかなものに変わっていることに気づいた。
彼は下敷きになったグレースの胸に手をついていたのだ。
両手で……両胸を!
結城は慌てて飛び退く。
「うおあっ、すまん!」
「OH、これがジャパニーズラッキースケベですか?」
「事故だよ事故!」
「勝負はどうなりますか?」
「備品が壊れたのはこっちの責任だから、グレースの勝ちだ」
「イェーイ!」
グレースがWピースで勝ちを喜ぶと、観客も「「うぉぉぉぉ!!」」と歓声を上げる。
凜音たちも負けちゃたかと思いつつ、まぁグレースならいいかとキス指名を待つ。
「さ、誰でも好きな子を指名してくれ、了解はとってある。あっ唇キスはダメだぞ」
「OK! ミーが選ぶのは……」
グレースは大きく手を上げてから結城を指差す。
「ん? オジサンは対象外だが」
「ダメなの~? 誰でもいいんでしょう?」
「後で変なオジサンにキスされたって怒るなよ」
「NONO! ミーストロングな男好きよ!」
結城がしかたないなと覚悟を決めると、凜音と律たちが割って入る。
「お客さん、それはちょっとダメですよ」
「我々の中から選んでいただかないと。パパが許してもこっちは許せませんね」
「俺は別に構わんが」
「「パパは黙ってて」」
交渉の末、凜音がグレースの頬にキスすることになった。
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