第26話 プール毒クラゲ
結城たちのチームは在庫がはけたものの、何チームかはまだドリンクの在庫を持ってウロウロしていた。
結城はその中で1チーム、目を引くヒーローたちがいた。
それはバニーガールの格好で、アイスコーヒーを売り歩く少女達。
「あの子らはなんで売れないんだ? 売ってる物も普通だし、売れ残る理由がなさそうだが」
「あっ、モカちゃんとバニラだ」
「知ってる子か凜音?」
「今日来る時言ってたでしょ、プラチナ潰れて行き場なくしたヒーローグループの一つスカイバニーよ」
「あぁアテンド疑惑の」
「目下炎上中のヒーローチーム。多分あの子等は何もしてないけど、チームの中の誰か一人でもやってたら全体が風評被害受けるから」
「なるほどな、ジューシーズは気にせず活動してたけどあれが本来普通だよな」
凜音達は彼女たちに近づき声をかける。
「モカちゃん、バニラ~」
「あっ、凜音先輩!」
「お、お久しぶりです!」
元事務所の先輩後輩にあたる、黒と白のバニーは凜音を見て恐縮する。
一人は黒髪ロングヘア、黒のスーツで背が高く、どこかおどおどした雰囲気のある少女。
もう一人は銀髪ロングヘア、白のスーツで、小柄、目つきは鋭いものの八重歯の見える笑顔を見せている。
どちらも元プラチナBODYということで、当たり前のように爆乳だ。
「パパ、黒くて背が高いバニーがモカちゃん、白くて低いバニーがバニラ。二人共、こっちはあたしが今所属してる事務所のオーナー」
「どうも神村結城だ」
「「よろしくお願いします」」
声を合わせ、全く同じタイミングで礼をする二人。
「息ぴったりだな」
「彼女たち姉妹だから」
「そうなんですよ、よく似てないって言われるんですけど」
「二人とも大丈夫、事務所の話聞いたよ」
「あ~ですよね」
二人は苦い顔をしながら肩を落とす。
「今どこの事務所にいるの?」
「ウチら事務潰れた後、個人勢としてやってます」
「あれ? オーヴェロンはどうしたの? ジューシーズとかあっちいったでしょ」
「フェアリーガーディアンですか。一応声はかかったんですけど……先輩方正直なとこ、あの事務所怪しくないですか?」
「「怪しい」」
凜音と律は声を合わせる。
「アテンド疑惑のある我々が言うのもどうかと思うんですけどね。炎上ヒーローばっかり集めてますし、ヒーロー事務所のアウトローみたいになってません?」
「「なってる」」
「特にお姉ちゃんは、そういう悪意に敏感なので」
「モカちゃんって、確か能力で人の悪意みたいなのが見えちゃうんだっけ?」
「は、はい……黒いオーラのようなものが見えます。フェアリーガーディアンは、その、黒いオーラが渦巻いていて」
モカは金色ブーメランパンツで豪快に笑う、オーヴェロンを見やる。
彼自身にさして大きな悪意は見えないが、彼の取り巻きのヒーローから黒いオーラが見えていた。
「なので、我々スカイバニーはプラチナからスーツ買い取って、個人勢としてやっていくことにしたんス」
「個人勢苦しいだろ」
仕事をとってくる苦しみを知っている結城は、彼女たちがどれだけ厳しい立場にいるか理解する。
「その……案件もここ以外全部消えてしまって。お仕事全然こなくなってしまいました」
「スカイバニーの中で、一人アテンドガール出たんで仕方ないんですけどね。ネットではアンラックウサギだの、谷底落下ウサギや、淫乱ドスケベバニーとかおもちゃにされてますし」
大きく肩を落とすモカ&バニラ。
凜音と律は、二人の状況を聞いて結城になんとかならん? と視線を向ける。
「無茶言うなよ。アクセルは君等二人であっぷあっぷしてる事務所だぞ」
「ウチが貧乏じゃなければ……」
「いえいえ、こういうときこそ頑張らないといけないので」
「ち、力を合わせまっす」
健気な二人に、結城たちは目頭が熱くなる。
「よし、とにかく君等の販売手伝うよ。あと何本くらいある?」
「すみません、助かります。まだあと80本くらいあります」
「じゃあゆっくりしてられないな。全員散開だ」
アクセルメンバー含め、全員がクーラーボックスを持って散り散りになってジュース販売を行う。
しかし世間の目は厳しく、バニーガールを見るだけで断られてしまうことが多かった。
結城も苦戦していると、モカがプールに入ったチャラついた男に絡まれている姿が見えた。
「ねぇねぇ、アイスコーヒー買ったげるからさ、オレにもアテンドしてよ。黒バニーちゃん」
「その、困ります……」
「君大人しくて可愛ぅい~ねぇ、オレと遊ぼうよ~ぴょんぴょんしようぜ」
「こ、困ります」
男はモカの手を握って離さず、プールの中に引きずり込もうとしている。
「や、やめてください」
「なんだぁ? プロデューサーにはピョンピョンするのに、こっちはダメなのかよ! 何がヒーローだ、このビッチが」
「…………」
モカの目にじわじわと涙がたまっていく。
「あー泣かないで泣かないで、楽しいことしようとしてるだけなんだからさ。そうだアイスコーヒー10本買ってあげるしオレと遊ぼ、ねっねっ?」
「いやぁどうもありがとうございます。そんなに買っていただき」
結城は二人の間に急に割って入る。
「なんだオッサン」
「アイスコーヒー10本買っていただけると」
結城はボックスに入ったコーヒー缶を並べていく。
「買わねぇよ、バカか片付けろ」
「おや、買っていただけないと? 先ほど買うとおっしゃられていましたが」
「当たり前だろ、10本もいるかよ、とっとと失せろ」
「そうですか、残念ですね……」
結城は水の中に指をつけると、ほんの微量の電気をチャラ男に向けて流す。
「痛ぁ! なんだこれ!? 今チクっとしたぞ!」
「いけませんお客様、それはプール毒クラゲかもしれません!」
「プール毒クラゲ!?」
「刺されるとなんやかんやあって死にます!」
「なんやかんやあって死ぬ!?」
「特に股間が膨張して破裂します」
「そんなやべぇものがいるプールで泳がせたらダメだろ! 痛ぁっ!」
「お客様また噛まれたのですか!? いけません2回噛まれるとアナフィラキー的なあれで死にます!」
「やばすぎるだろこのプール! どうなってんだ!?」
男は急いでプールを上がると逃げていった。
「大丈夫か?」
「す、すみませんありがとうございます」
「君は気が弱そうだから、ああいう変なのにつけこまれてしまうね」
「やっぱり事務所の件で、これまで応援してくださった方も、皆怖くなってしまってます……」
「ネット情報に踊らされて、炎上してる人間になら何言ってもいいと思ってる連中がいるのは悲しいことだ」
「優しいんですね……あなたからはとても暖かなオーラが見えます」
モカが安堵していると、バニラと凜音たちが駆けてきた。
「お姉ちゃん大丈夫、絡まれてるみたいだったけど!?」
「結城さんのおかげで……」
「ありがとうございます。お姉ちゃんすぐ変な奴に絡まれちゃって」
「小動物的なオーラが出てるよね」
凜音は慌てた様子で、結城に耳打ちする。
「パパ聞いて、このプール危険かもしれない。今律に調べてもらってるんだけど」
「何をだ?」
「プール毒クラゲっていう、致死毒を持ったやばい奴がいるらしいわ。これがバレたらプール中がパニックになるかも」
「大丈夫だそんな生き物は存在しない。今すぐ律の調査を中止させろ」
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