第25話 カウガール
オーナー含め個性的なヒーローがプールサイドに集まると、館内放送が鳴り響く。
『皆様、星宮ウォーターランドへようこそ。リニューアルした施設を、隅々まで楽しんでいって下さい。
本日は特別に大人気ヒーローに来ていただいております。
ヒーローの方々は、後ほど園内を巡回しながら、飲料水などの販売を行いますので、お気軽にお声をおかけ下さい』
放送が終わると、スタッフがそれぞれヒーローチームの前に飲料水の入ったクーラーボックスを置いていく。
ヒーロー各位は、決められた飲料水を持ってプール内で販売を開始する。
「ヘイ! ワイルドガンズ御用達のブラックブルいかが!?」
「不夜城メンバーも飲んでる緑園のあお麦茶~」
「SMガイズのスパークレモネードを買いなさい! 購入した豚には正義の鞭打ちをあげるわ!」
販売開始直後、人気ヒーローの前には客が押し寄せていた。
「うおおおレモネードをくれ!」
「レモネードだ!」
「頼む、レモネードをくれ! いくらでも払う!」
特にSMガイズの熱気が凄かった。
「すごい、爆乳カウガールや、イケメンホストヒーローをさしおいてSMオジサンが一番人気高い……」
「SMガイズは、ファンのことを家畜と呼んで調教してるらしいですよ」
SMガイズの客は、ドリンクを購入した後パチーンといい音で鞭で叩かれていた。
「ジャスティスウィップでお仕置きよ!」
「んひぃありがとうございますぅ!」
「豚が人の言葉を喋るんじゃない!」
「ぶひぃ! ありがとうございます!」
その様子を唖然として見守るアクセル事務所の面々。
「ほんとに調教されてるじゃない、ファンがコアすぎでしょ……」
「やばいやばい、俺等も急がないと」
結城が焦っていると、スタッフがドリンクの入ったクーラーボックスをアクセルメンバー前に置く。
「アクセルヒーロー事務所の方は、特にご契約されている飲料水メーカーがございませんので、牛乳を販売してもらいます」
「プールで牛乳!?」
「私プールで牛乳飲んでる人見たことないです」
「いなくはないんだろうけど。とにかく売りに行こう。俺達出遅れてるぞ」
全員牛乳の入ったボックスを持って、プールサイドを歩く。
「牛乳いかがですか~」
「牛乳、牛乳~背が伸びる~」
「えーカルシウムがあります~」
なんとか良いところを言って回るが、びっくりするくらい売れない。
「まずいってパパ、無名のヒーロー事務所が牛乳売ってても誰も買わないって!」
「全くでもってその通り過ぎる」
ただでさえ売れずに困っているところに、客たちを一気にかっさらうグループが現れる。
「みんな~ジューシーズの炭酸あんこ買ってねぇ~」
「買ってくれた人には、次回ライブで実施予定の握手券さしあげま~す」
男性客がうぉぉぉぉっとなだれ込んでいく。
それを見て顔をしかめるアクセル事務所一同。
「彼女らスキャンダル出たのに人気だな」
「自分の推しはアテンドなんてやってないと盲目的に信じる信者と、お金積めばワンチャンあるのでは? と思ってる客のどっちかよ」
「ってかライブって言ってますけど、事務所抜けたとこなんだからライブの予定なんかないと思いますが」
ファンらは予定されてないライブの握手券を買わされているのかと思うと、気の毒を通り越して哀れに思えてくる。
やり方はほぼ詐欺だが効果は抜群で、炭酸あんこは飛ぶように売れていく。
「くそっ、炭酸あんことか明らかに牛乳より外れなのに負けているとは」
「パパ、諦めないで頑張ろう!」
凜音が歯ぎしりしていると、アップルがこちらを見て明らかにニヤっと勝ち誇った表情を浮かべた。
「ぐぐぐ、律あの女にでかい顔されるわ。もう背に腹はかえられない」
「わかりました、やるんですね? 今ここで」
二人は一旦更衣室に戻ると、牛柄ビキニとカウベルをつけて戻ってきた。
「君等その格好は……」
「レンタルしてきた。負けるよりマシよ」
「凄い対抗心だな……律まで」
「正直死ぬほど恥ずかしいですけど、パパが負けるよりかいいんで」
「行きましょう。みさな~ん、牛乳いかが~?」
「新鮮牛乳~」
おしげもなく晒された牛ビキニ姿に、なんとか客が傾き始める。しかしやはり炎上ボーナスもあり、ジューシーズの知名度は高く一歩及ばない。
「ウフフフ、凜音~そんな格好したってダメよ。ジューシーズなめないでほしいわね!」
「くっ、あんな安物豊胸女に負けるなんて!」
凜音が地団駄を踏んでいると、眼の前に金髪の女性が現れる。
「ヘイガール、ナイスコスチューム!」
「グレースさん!」
「ワイルドガンズはもうドリンク売れたんですか?」
「ええ、もう完売よ。それよりミーもその格好してみたいデース」
「「是非一緒にやりましょう!」」
凜音と律はグレースを連れて再び更衣室に戻ると、彼女に同じく牛ビキニを着せて戻ってきた。
「アッハッハッハ、これがほんとのカウガールデ~ス!」
結城はグレースの爆乳を見て唖然とする。
凜音の胸をたわわと表現することがあるが、こちらに関してはほぼ暴力。胸の暴力である。
男なら脊髄反射で、その深き胸の谷間を見てしまうことは間違いない。
「ほ、ホルスタイン……」
この言葉も結城の脳を介さず、脊髄から自然と漏れた。
それほど彼女の戦闘力は高かった。
「ヘイガイ、ミーもミルク売り手伝いマース」
「そ、そりゃ助かる」
「ヘイガイズ、ミルクいかが! コーヒーとブレンドすると美味しいわよ」
グレース緊急参戦により、ジューシーズに集まっていた男性が一気にこちらに反転してくる。
それを見たジューシーズが「ぐぬぬぬ」と唸る。
「私達も負けてられないわ! もっと際どい水着で攻めるわよ! あんな乳がでかいだけの外人と、裏切り者に負けたら恥よ!」
ジューシーズが更衣室に戻ると、今度はほぼ紐のマイクロビキニで戻ってきた。
「みなさ~ん、炭酸あ・ん・こ♡ 飲んでみて~」
ダイナマイトセクシーポーズを決めるアップル含むジューシーズだが、施設スタッフがあまりにも過激な水着にストップをかける。
彼女らは全員タオルをかけられ、「ここは風俗じゃないんですよ」と叱られながら更衣室へと連行されていった。
「バカね、ラインも見極めずに過激さだけ追求するからそうなるのよ」
「ボンデージSMオジサンがよくて、あれはダメなんですね……」
ライバルが自滅し、アクセル事務所総出で牛乳をさばくと、昼までには在庫が全部なくなる。
「これにて完売です。グレースさん協力ありがとうございます」
結城が空になったボックスを見せると、全員がガッツポーズする。
「イェーイやったわね、ガールズ」
凜音たちとハイタッチをかわすグレース。
「あっそうだ、名前聞いてたのに、こっちは自己紹介してなかったわね。あたしは凜音、こっちは律」
「ど、どうも黒崎律です」
「リオン&リツね。そっちのガイは?」
「神村結城だ。アクセル事務所のオーナーをしてる」
「ユーキはオーナーなのね、鍛えてるからヒーローかと思っちゃった」
「あながち間違いではない」
グレースと全員が握手していると、ワイルドガンズのメンバーから声がかかる。
「ヘイ、グレース。いつまで遊んでるんだ。戻って来い」
「ソーリー、チームに戻るわね」
「ありがとうございました」
「また今度ゆっくり話しましょう」
彼女は爽やかな投げキッスを残して、チームへと戻っていった。
「めちゃくちゃ陽キャでしたね」
「ええ、なんというかあたしたちとは文化が違う気がしたわね」
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