第23話 財園寺金光

 星宮ウォーターランドに到着したアクセル事務所の面々。

 駐車場にワゴンを停め、施設のでかさに驚かされる。


「ひろーい」

「野球球場よりでかいな……」


 ドーム型の施設には、リニューアルオープン当日ということもあり、たくさんの人が並んでいた。

 関係者はどこから入るのだろうかと入口を探していると、糸目の男性スタッフが手招きしてくれる。


「こちらへどうぞ。アクセルヒーロー事務所の方ですね?」

「どうもすみません。我々弱小の名前を覚えていてくださり」

「いえいえ、最近ハイライトに出てますよね。応援してます」


 結城は何気ない応援の言葉にジンと来てしまう。

 こういうのがヒーローやってて良かったと思う瞬間だろう。

 3人はスタッフにロッカーの鍵を渡され、控室へと向かう。

 すると結城だけ別のスタッフに呼び止められた。


「神村様、矢車様がお呼びですのでこちらへ」

「あの人来てんのか。わかりました。お前たちは先に入っててくれ」

「「はーい」」


 結城と別れ凜音と律は、ヒーローが通される控室へと入った。広々とした大部屋には既に10人ほどのヒーローの姿があり、その中には見知った顔もあった。


「「「げっ」」」


 凛音たちが同時にうめき声を上げる。そこにいたのは犬猿の仲の、元ジューシーズの姿があったからだ。

 向こうもこちらを見て顔を引きつらせると、毒リンゴの異名を持つジューシーアップル(本名:斉木美紀さいきみき)がつかつかと歩みよる。

 ウェーブした茶髪にヘビのような鋭い目、真っ赤なセーラースーツをまとった少女は二人を見て鼻で笑う。


「あら誰かと思ったら弱小事務所に移籍した、素行不良のお二方じゃない」

「「化け猫女」」

「誰が化け猫よ! 声揃えて言わないで!」

「いや、あんたどうしてんの? プラチナ潰れたでしょ」

「ふん、とっくに別事務所に移籍したわよ」

「へー、どこ移ったの?」

「フェアリーガーディアンよ」

「聞いたことないですね」


 首を傾げる律に対して、凜音はあっと閃く。


「パパのライバル事務所じゃん。確かパパ、自分以外にも3人の新人オーナーがいて、その人達とAクラス事務所いけるか競うって言ってたし」

「あぁ、じゃあフェアリーガーディアンはその3つの事務所のうちの一つなんですね」

「その通りよ、でも勘違いしないでフェアリーガーディアンは、あなた達アクセルとは比べ物にならないくらいの資本力を持ってるわ」

「オーナーがどっかの大企業の社長ってことかしら」

「あまり大きい企業がバックに付くと、個が重要視されないですけどね」

「あんたヒーロースーツ一緒だけど、もしかして新事務所でもジューシーズの名前で行くの?」

「ええ勿論。フェアリーからも是非ジューシーズのままでお願いしますって言われてるから」


 いくらネームバリューがあるとはいえ、普通炎上したヒーローをそのまま使うか? と疑問に思った律は、こっそりと能力を使い情報を集める。

 するとフェアリーガーディアンの運営方針がわかった。


「凜音先輩、フェアリーガーディアンは炎上しててもなんでもいいから、とにかく知名度の高いヒーローを雇用しまくってます」

「なるほど、名前を売りたい事務所と、行き場を失った炎上ヒーローの利害が重なったわけか」

「何をボソボソ話しているのかしら?」

「なんでもないわ。とにかくお互い新事務所で頑張りましょう」

「ふん、あなた達泥臭いヒーローと一緒にしないでほしいわね。私はあくまでスーパーアイドルヒーロー。こんなとこで腐り落ちてたまるものですか」


 アイドルを強く強調するジューシーアップル。

 また絶対生き残ってやるという気概を感じる。


「あたしたちもあのハングリー精神だけは見習わないとね」

「自滅してピンチになってるだけの気もしますが。フェアリーガーディアン、今後絡みありそうですね」



 その頃結城は別の控室に通され、矢車とフェアリーガーディアンのオーナーと対面していた。


「おはよう神村オーナー、こちらは事務所フェアリーガーディアンのオーナー、財園寺金光ざいおんじかねみつよ」

「やぁ、僕が金持ちオーナーの財園寺だ。座右の銘は金ならあるだ」


 歳は結城の少し下くらいか金髪で肩まで髪が伸びた、セミロングの男性。言葉通り全身をブランド物のスーツで着飾り、腕にはダイヤが散りばめられた時計が光っている。

 結城は変なやつが出てきなと思いつつも、大人の対応で握手する。


「どうも、アクセルヒーロー事務所の神村だ」

「君ぃ、なんだいそのヨレヨレの服は? ひょっとして貧乏なのかい?」

「ま、まぁそうだな。事務所は火の車だよ」

「大変だねぇ貧乏人は、あまり近づかないでくれ。貧乏が移るからね。貧乏ドンタッチミーだ」


 結城は初めて、犯罪者以外で手が出そうになっていたが、それも大人の対応でなんとか押し留めた。


「彼は仮想通貨投資の天才で、たった一年で10億稼ぐ男なの」

「そりゃすごい、でも矢車さんずるくないですか? 無限資金とかやられたら、こっち勝ち目ないですよ」

「そのかわり彼にはあなたのようなヒーロー同士のつながりも、ヒーロー業をやっていくノウハウもない」


 つまりテレビ的に、経験やノウハウはあるが金はないアクセル事務所、金はあるがノウハウはないフェアリーガーディアンで差別化したいらしい。


「ふははは、そんなものなくたった金でできるやつを雇えばいいだけだからねぇ。世の中金さ、僕はどんどんヒーローを雇用してでっかくなっていくぞ」

「神村オーナー、財園寺オーナーお互い切磋琢磨していってね」


 矢車は言葉ではそう言いつつも、その目はうまく殴り合ってテレビを盛り上げてねと言っている。


「しかしなんで財園寺オーナーはここに?」

「神村オーナー、君現場でチョロチョロして目立ってるんだろ? 僕もそれを見習って、現場に出ようと思ってね」

「危険だぞ、遊びじゃない」

「大丈夫、そのためにヒーローをたくさん雇ったんだ。ヒーローを指揮するオーナーというのはカッコいいからねぇ」

「格好の良さで現場に出ると怪我するぞ」

「ははは、心配ありがとう貧乏人。だけど、君にできて僕にできないことはないからねぇ。アハハハハハ」


 結城は、こいつは多分何言ってもダメなタイプだと説得を諦めた。

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