第22話  案件

「凛音、律、二人に話がある」

「なにパパ」

「お金がないとう話では? 私のヒーロースーツ(凜音と同型)新調しましたし」

「いや、それはいつものことなんだが実は案件が来てな」

「案件? えっやったじゃん」


 案件とは、企業から事務所に送られてくるプロモーションの仕事依頼である。

 個人から受けるものと比べ、高額報酬が多く、この案件がくるとヒーローとしてそれなりに認知されたと言われている。


「どんな案件ですか?」

「実はニュースハイライトに映った辺りから、ちょいちょい来ていて複数ある。ウチの資金繰りが苦しいのはわかってると思うので、できればどれかを受けたい」

「いいじゃん受けよう受けよう」

「どれかと言わず、全部受けてもいいですよね」

「あたし胸の上にスポンサーロゴとか貼り付けてもいいわよ」


 楽しげに乗り気な凜音と律に、結城は企業案件を一つずつ読み上げる。


「まず1つ目は健康になりお金持ちにもなれる、スーパー硫黄水の手売り販売」

「「う、う~ん……」」


 いきなりきな臭い案件に、はしゃいでいた二人の顔がなんとも言えない表情になる。


「硫黄パワーで体が浄化されて、なんかいい感じの気が体内に充満して幸福になるらしい」

「凄くぼんやりしてる……」

「昔あった水素水に似ている気がします……」

「他は?」

「2つ目は、絶対儲かる株取引の情報教材のPR」

「「う、う~ん……多分儲からない」」

「3つ目は、激ヤセダイエットサプリのPR。ちなみに認可外」

「「う、う~ん……に、認可外か……」」

「4つ目は消費者金融の怖くない融資と、リボ払い推進キャンペーン」

「「う、う~ん……リボはまずい……」」


 二人はあまり胸はって出たくない案件ばかりで困ってしまう。


「どれもちゃんとしたビジネスであって、決して法令に触れているというわけではないんですけどね」

「そうね……ただこの案件に出ると、強烈なアンチがつきそうという予感がするだけで……」

「まぁでも、我々弱小ですから仕事選んでる場合ではないですよね」


 律の背に腹は変えられないのでは? という意見はもっともだった。


「もうこうなったら報酬で選んでよくない? パパ一番高いのってどれ?」

「消費者金融。次いでダイエットサプリ。このサプリの販売はアジア系海外資本の会社だな」

「金の動きが激しい順って感じですね……」

「俺としても、最初の案件で今後の仕事がかわってきそうだから、あまりなんでも良いやで決めたくはないんだよな」

「「確かに」」

「アクセルが、うさんくさいプロモばっかりやってるって言われるの嫌ですしね……」


 どうしたものかと頭を悩ませていた時だった。

 丁度のタイミングで矢車からメールが入る。結城が確認してみると、都合よく案件の斡旋メールだった。


「ん? 今矢車さんから来たんだが、依頼兼案件だな……。星宮ウォーターランドっていう、リニューアルオープンする施設のPRと警備だそうだ」

「ウォーターランドってことはプールですよね?」

「そうだ」

「あっ、あたしそれ知ってるかも、大和神宮の駅近くにあるでっかいドームでしょ?」

「多分それであってる」

「いいじゃない、プールのコンパニオン」

「後、俺達以外のヒーローも複数呼ぶらしい」

「まぁあれだけデカい施設を、あたしたちだけってのはないわよね」

「パパ、警護というのが気になるのですが? 単なるPRだけじゃないんですか?」

「ここ、改築する前に下着泥棒の被害にあってて、リニューアルして下着泥も帰ってくるんじゃないかって不安視してるらしい」

「なるほど。女の敵ですね」

「いいじゃん、下着ドロ捕まえたら継続的にスポンサーになってくれるかも」

「本当に大丈夫か? これPRの時は水着でお願いしますって書いてるぞ」

「あたしは別に見られて恥ずかしいところなんかないし」

「凛音先輩、ジューシーズのときには水着案件とか絶対受けなかったのに」

「律はどうだ? 最悪裏方でも構わないが」

「私も出ますよ。パパのお願いですから」



 案件日当日――

 朝早くからワゴンに凜音と律を乗せ、星宮ウォーターランドへと向かうアクセル事務所の面々。

 軽快に車を走らせていると、律が暇つぶしに見ていたネットニュースに声をあげる。


「うぇっ!?」

「どうしたの律?」

「プラチナBODY倒産ってネットニュース出てます」

「嘘でしょ、あんなでかいとこそう簡単に潰れないわよ」

「イカロスTVの内部告発により、有名ヒーロー事務所所属のヒーローをテレビ局プロデューサーにアテンドさせていた事実が発覚。その見返りにテレビCMなどに出演させていた疑い」

「それ前に凜音から聞いた話だな。確か腹黒とかいうプロデューサーの」


 結城が運転しながら話に耳を傾ける。


「プラチナBODYのヒーローもこのアテンドリストに入っており、スポンサー各社が撤退を決めたことが、倒産の大きな原因になった模様。らしいです』

「うわ、やば、内部告発ってもしかしてあたしかな?」


 凜音は結城に相談したことを思い出す。


「イカロスTVの内部告発だから違うんじゃないか? 一応タレコミも証拠の一つになってるかもしれないが」

「そうなのかな」

「続き読みますよ。プラチナBODY倒産によって、傘下のヒーローグループ、ジューシーズ、スカイバニー、ファイティングエンジェルなど人気ヒーローチームも行き場を失い混乱が広がっている」

「うわぁ……悲惨」

「所属ヒーローのほとんどが寝耳に水だったようで、次の移籍先も決まってないみたいです。我々プラチナに残ってたら終わりでしたね」

「全くね」

「安心してるところ悪いが、ウチもいつそうなってもおかしくないからな。しかもスキャンダルとかなく、ごくごく普通に経営不振で」

「怖いこと言わないでよ」

「パパ、私頑張りますから!」


 弱小ヒーロー事務所の面々は一致団結を決める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る