第15話 オーナーの正体?
『本日のヒーローブロードキャストの時間です。昨日起きたビル火災事件は、ジャイアント事務所所属、A級ヒーローギガンティックが巨大化能力を活かして人命を救助しました。また火災は同事務所、B級ヒーロースプラッシュが放水能力で鎮火しました』
テレビでは次々にヒーローの活躍が、映像付きで放送されていく。
上位ランクヒーローの報道が終わると、今度は下位ランクヒーローのニュースに移る。
『つづいてはルーキー部門のヒーローです。昨日東京湾をクルーズ中の小型遊覧船が転覆。乗客20人が投げ出されました。しかしアクセルヒーロー事務所所属、C級ヒーローリオンが氷結能力で水面を凍結させ、救助者への道を作るという機転をきかせました』
ひっくり返った船周辺の水が凍っている映像と、凛音が氷の上をスケートのように滑って乗客を次々に救助していく姿が映し出される。
そこに結城も走ってくるが、氷で滑って東京湾に沈む姿が映ってVTRは終わる。
『えー水中に落ちたのは、アクセルヒーロー事務所のオーナーだそうです。一応このオーナーヒーローライセンスも持っていますので、現場への立ち入りが許可されているのですが、ちょっと能力が伴っていないようですね』
『恐らく低ランクの無名のヒーローなんでしょう。なんだかハプニングショート動画を見ている気分になりますね』
『今年のヒーローハプニング賞は彼かもしれませんね』
半笑いのキャスターと解説の話に、他のゲスト出演者も笑いを噛み殺す。
『このアクセルヒーロー事務所は、オーナーが直接現場にやってきてヒーローに指示を出す珍しい事務所で、インタビューを行うことが出来ました』
画面が切り替わり、映し出されたのはびしょ濡れで頭に藻を乗せた結城とリポーター。
『神村オーナー、先のトンネル事件と良い凛音はすごい活躍ですね』
『そうですね。ただ勘違いしてほしくないのは、ウチに新しく入ったヒーローが探知系の力を持っていて、溺れた救助者の位置を迅速に見つけ出しました』
『なるほど、確かにドローンのようなものが飛んでいましたね。では二人の活躍と?』
『はい、氷結能力はとても強力ではありますが、誤って救助者を凍らせてしまう可能性もありますし無闇には使えません。探知能力の律が凛音の目となり耳となっているから、迅速な救助ができたと思っています』
『なるほど、リオンと律のコンビはこれから活躍してくれそうですね』
『はい、両者ともに強いだけでなく美少女ですので、SNS等で検索してみてください』
『なるほど、ありがとうございます』
放送が終わり、ジューシーズのCMが始まると凛音はチャンネルを切り替えた。
「なんかすごくいい感じじゃない?」
「…………」
「どしたの律、黙っちゃって?」
「いや、私ヒーロー活動中にスポット当たったことないんで」
恥ずかしげに前髪をいじる律を見て、凛音は笑みを浮かべる。
「照れてるんだ」
「わ、悪いですか」
「でもジューシーズにいた時から、ファンに褒められてたでしょ」
「ファンもいい人たちですけど、オーナーはどこが良かったか的確に言ってくれますし……」
「嬉しくなっちゃったんだ~」
「凛音先輩、歯を見せて笑うのキモいからやめた方がいいですよ」
「キモいってあんたね! あっそうだ、律あんたの能力でパパが何者か調べてくんない?」
「オーナーは素性を隠してますから、詮索しないほうがいいですよ」
「いいじゃん、あんたの能力ならわかるでしょ?」
「…………まぁ実は既に調べたんですけど」
「おぉ偉い!」
「でも、わかんなかったです。いくら漁っても、オーナーとして登録された時点のデータしかなかったです。ヒーローの情報はヒーロー協会に保護されて見れません」
「隠してるのなんか怪しくない?」
「元仮面ヒーローだと、隠す人結構いますよ」
「あぁそれかも、パパ仮面ヒーロー全盛期にヒーローやってたって言ってたし」
凜音は結城が仮面スーツをやたら推してきたことを思い出す。
「じゃあ能力で辿れない? パパの能力って電気でしょ、そこからわからない?」
「それもやりました。低威力の電気を使用し、尚且つオーナーと同い年くらいのヒーローはざっと296人」
「300人もいんの?」
「その300人も確認しましたけど、オーナーっぽいのはいませんでした」
「そうだ律、10年前のトンネル事故! パパあそこに出動したって言ってたわ。あの事故に出動した電気使いを調べれば」
「ヤマナカインターのトンネル崩落事故ですよね。あそこに電気使いって一人しかいないんですよ」
「じゃあそれが当たりじゃん!」
しかし律は眉を寄せ首をふる。
「なによその顔」
「トンネル事故にいた電気使いヒーローは、S級のサンダーイーグルだけです」
「……………」
凛音の思考が一瞬固まる。だが、すぐに冷静になる。
「それはないでしょ」
「ないですね」
そんなS級のスーパーヒーローと、氷で滑って東京湾に落ちる男を一緒にしてはいけない。
「多分あの時は緊急事態で、トンネル近くにいるヒーロー全員に招集がかかったんですよ。だからオーナーは、その中の野良ヒーローの一人だったんじゃないかと」
「それが正解ね……はぁ、結局謎のままか」
二人が結城の正体について話をしていると、外回りに行っていた結城が事務所へと帰ってくる。
「ただいま」
「お帰りなさい。おぉ、お土産だ」
「やった肉まんじゃん」
凛音は手渡されたビニール袋から、有名肉まん店の箱を取り出し、すぐに中を開ける。
温かな湯気と匂いが、彼女たちの胃袋を刺激する。
「凛音先輩、今食べるんですか?」
「あったかいうちに食べたほうが美味しいじゃない」
「太りますよ」
律の無慈悲な言葉が、凛音を突き刺す。
「いいのよ、あたしらもうジューシーズじゃないんだから。ほら、あんたも食べな」
「私も道連れにしようとしてますね、むぐっ」
凛音に肉まんを口に突っ込まれてモゴモゴする律。
「美味しい、なにこれ……」
「はは、行きつけの中華店の裏メニューだ」
凜音も目を輝かせながら中華まんを頬張る。
「やばっ肉汁洪水なのに、皮がふにゃふにゃになんない」
「カロリーが気になる。凛音先輩は気にならないんですか?」
「あたしはカロリー全部おっぱいに行くから大丈夫」
「私は脚に行くから嫌なんですよ」
「美味いもの食ってるときにグダグダ言うな~」
結城も中華まんを一つ手に取る。
「パパのそれ何?」
「角煮まんだ」
「やば、美味しそう! あたしも食べて良い?」
「凜音先輩、デブヒーローとか言われて、後で泣いても知りませんよ」
そう言いつつ、律もはむっと肉まんを頬張る。
アットホームな雰囲気の中、不意にインターホンが鳴る。
結城が事務所の扉を開けると、一階のカフェでオーナーをしている桃園琉夏が立っていた。エプロン姿の琉夏は、困った表情を浮かべていた。
「どうかしましたか?」
「あの神村さん、外にこんな張り紙があって。何か心当たりありますか?」
琉夏から様々な大きさの紙を30枚ほど手渡される。
そこには全て同じ筆跡で
【律を返せ律を返せ律を返せ律を返せ律を返せ律を返せ律を返せ!!】と書かれていた。
怒りが字にあふれるとはこういうことを言うのか、書き殴られた文字は見る方の不安を煽る。
「これはちょっと猟奇的な文面ですね」
「そうですね、私も怖くて。調べてくださらないかしら」
「勿論。調べておきます」
結城は手渡された紙を、クシャッと握りつぶしてポケットに突っ込む。
「ありがとうございます。あの依頼費は」
「いえいえ結構です。恐らく琉夏さんを狙ったものではなく、ウチに宛られたものだと思いますので」
「しかし……そうだ、今度お食事などいかがですか? ご馳走いたします」
「喜んで行かせていただきます」
琉夏と約束をして、結城は事務所へと戻る。
「誰だったの?」
「カフェのオーナー。琉夏さんだ」
「む? なんて?」
琉夏と聞いて、急に警戒心を出す凜音。
結城が琉夏に対してデレっとしているのは知っているが、彼女も結城に対して、好意的な雰囲気があるのに気づいていた。
凜音の女の勘が、彼女は危険だと警告を鳴らしている。
「いや、別に大した話じゃない。えーっと、水道管から水漏れしてるって」
「あーパパこのマンションの管理もやってるもんね」
「すまん、俺はちょっと水道業者と話してくるから外に出てくる」
「えっ、もう行くの?」
「ああ、そのままにしてると水道代上がるからな」
結城はその場を誤魔化して事務所を出ると、携帯を取り出し情報屋に連絡を取る。
「すまない、急ぎで調べてもらいたい人物がいる。黒崎律の父親だ……頼む」
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