見える人

 小さな頃から第2衛星・筒月つつづき〝ビフレスト〟の穴に出入りするUFOが見えた。


 幽霊や妖怪、時には外星人とも遊んだ。


 ただ一人だけ人間の友達がいた。けど――


「誰と話しているの?」


 クロエちゃんのお母さんが僕に聞いた。


「え? クロエちゃんとだよ」


 僕は隣のブランコに座るクロエちゃんと、おばさんとを交互に見た。


「ショウタくん、あなたはもしかして」


 おばさんは両手で顔を覆って泣き出した。


 クロエちゃんも泣いた。


「ごめん。ずっと言えなくて。お母さんにもごめんって伝えて」


 クロエちゃんは光の粒になって、空に広がって消えた――


 一番の友達も、幽霊だったんだ。



 それからはずっと、幽霊もUFOも見えなくなった。


 気配すら感じることはなかった。


 時には普通の人たちと付き合うこともあった。


 けど、どこかしっくりせず、いつのまにか遊ばなくなるのが常だった。


 高校に入った今、友達はいるかと聞かれれば、いない。



 家族旅行でオーシャンサイドを訪れた。


 遊び疲れてホテルに入った途端に寝てしまった家族を残して、そのへんを歩くことにした。


 海に沈む夕日を見ようと、堤防にはたくさんの人が座っていた。


 西の空には赤くなった太陽、天頂近くには筒月が浮かんでいた。


 と、何年振りなのだろう。


 UFOが見えた。


 筒月の穴へ入っていく、数百数千の光の群れは、ずうっと東の空にまで延びていた。


 すごい光景だ。昔、自分の町で見たのより鮮明で、すごく近い。


 だのに、誰もそこに視線を向ける人はいなかった。


 僕の数メートル隣に女性が二人やってきて、ビールを呑み始めた。


 このお姉さんたちも、空で起きていることに気づきもせず、実に気楽なもんだ。


 缶ビール片手なところ以外は、まるでうちの妹達と変わらない、はしゃぎよう。


 が、その会話に僕はびっくりすることになる。


「お。〝チクワ〟のところ。久しぶりに帝国の船団が行くぜ」


 白に近い水色の髪の毛をした女性が、筒月を見上げてそんなことを言った。


「ああ。あれって宇宙人のなの?」


 茶色いショートヘアの、一見僕より年下みたいな小柄な人は、首を傾げてそう聞いた。


「? なんだと思ってたんだよ?」


「あれはこの星の秘密組織が飛ばしているんだろなぁ、って」


 聞き違えなんかじゃない! こいつら見えてんだ!


「あれが見えるんですか?」


 僕は思わず聞いた。


「え? なんで?」と水色髪の人。


 今気付いたが、幽霊? いや、多分この人、身体が作り物……なのかな?


「なんで? って……見える人に会ったのは始めてです」


「おぉ……」お姉さんふたりは顔を見合わせ、


「オーシャンサイドへようこそー!」


 どっかのテーマパークみたいなポーズを取った。


 ドワッ! と一気に、辺りに歓声と拍手が巻き起こり、十数秒で何事もなかったように元に戻った。


 多分理由もわからずやっている人ばかりだったけど、中には外星人や妖怪、幽霊もちらほらいた。


 いよいよ太陽が水平線に沈みかける頃、ビーチは随分な人集りになった。


 僕はお姉さんたちにお酒を飲まされていた。


 酔ったからか、人波の中にクロエちゃんの背中が見えた気がした。


 いや、確かにそう。大人になった彼女だ。


 立ち上がろうとしたけど、すぐにやめた。


 クロエちゃんは隣の人と見つめ合い、手を繋いだんだ。


 相手の人は、天使だ。


 そして僕に気づき振り返ると、大きく手を振ったまま人波へと消えた。


 泣き出した僕の肩を、二人のお姉さんがしっかりと抱いた。


「泣くな! 少年! 今日がダメなら明日があるぞ!」とロボット。


「おう! 明日がダメならあさってがあるぞ!」と子供。


 いや……それ全然違うから……


 けど、出た言葉は、


「ありがとうございます」だった。


 もう少しだけ、このふたりのいい匂いと、お酒の臭いに抱かれていよう、と思った。

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