③
冒険者のランクは、ジョブ適正と同様G〜SSのランクがあり、それによって受けることのできるミッションが変わってくる。下位のランクでは薬草の採取や迷子の猫探し等、そして上位のランクになればなるほどリスクは上がるが、その分高難度かつ受け取ることのできる報酬も上がることになる。ギルドに登録する際に適性検査と実技検査を受けて総合的に判断され、冒険者としてのランクが決まることとなっている。
「では、ワシが実技会場まで案内しよう。身支度は特にする必要はないから、このまま向かうぞ。ベウはこやつのギルドカードの作成に当たってくれ…って、あれ?」
「ベウなら、「マコトさんのギルドカード作らないと!」って、ついさっき出て行きましたよ」
あまりの行動力の高さと速さに、ギルドマスターは気がつかなかったようだ。
「あらまぁそうじゃったか。まあ良い。行くぞマコト君や」
「はい!」
そうして二階に降りると、何やら騒がしい声が聞こえた。また似たような状況が起きたのかとも思えたが、今度はどうやら喧嘩だった。筋肉質の男数人と、肌の焼けた女が言い合いをしている。その女は見覚えのある顔だった。
「それは俺が買おうとした武器だ。とっととよこしやがれ!」
「アタシが先に選んだものだよ。横暴がすぎるんじゃないのかい?これはあんたのものじゃないよ、今すぐ帰りな」
その女の正体はルミーだった。マコトが初めて会った時もそうだったが、彼女は基本として物怖じしない性格をしている。たとえそれが不利な状況であったり、自分より格上の相手であったとしてもすぐに逃げる選択は取らない、戦士のような性格をしていた。
「ったく、あやつは相変わらずじゃな。少しは低姿勢になれないものかのぉ。マコト君も、そう思わないか?」
「いやー、まーそうっすね、あははは」
なんとなくの感じではあるが、ルミーの地獄耳を恐れ、マコトはテキトーな返事となっていた。
「止めたほうが良くないっすか?放っておいても問題はないかもしれないけど、大事になる前に間を静めといた方がいいんじゃないかと」
その場は熱狂的となっていた。それはまるで南米のサッカーの応援のようで、荒々しさもある様な興奮状態だった。その場にいる冒険者たちは二人の喧嘩をよりヒートアップさせ、喧嘩している二人はそれにつられて感情が高ぶっている様子だ。このままでは少し危ない状況とも見て取れる。
「そうじゃな、確かに。それじゃあ頼んだぞ、マコト君」
「そうっすよね。ここは俺がその場をおさめるために全力で…うん?え、俺?」
「そう、俺。頼りにしとるぞ若者よ!」
大人数がいる状況で、誰かに恨まれるようなことはしたくない感情と、その場をおさめて誰かを助けないといけないという感情と葛藤をしながらため息をつき、仕方なくマコトは喧嘩の現場の仲裁に入ろうとした。
「(喧嘩ぐらい別にそのままにしておいても…)あのー、とりあえず喧嘩はもうやめませんか?」
といったところで、すぐに喧嘩がなくなるわけでもなく、彼の言葉は届かなかった。その後も軽く声をかけてみるも、軽く声をかけているからして反応はなかった。
するとそこで、感情が激高しだしたのか、男の方がルミーに対し殴りかかろうとした。その男の腕はとても太く、一般人が殴られでもしたら重症になるかもしれない恐れもあった。
「ふざけんじゃねーぞごらぁぁぁ!」
大きく振りかぶったその腕に対し、ルミーはとっさに目をつむることしかできなかった。このまま避けなければ、彼女は大怪我を負う可能性がある。
「…やめとけって、喧嘩はさ」
間一髪で、マコトは冷静に彼女を助けることに成功した。颯爽と助けて手を差し伸べたのは、漫画やアニメのクールなヒーローのようだった。
「そもそも、拳は暴力による支配のために振るうべきではない。誰かを守るために自分を犠牲にして使う手段にすぎない。ちゃんと考えて扱わないと、それはいずれ―――」
彼は最後の言葉を言い切る前に、どことなく違和感を覚える。攻撃を防いだだけではあるのだが、なぜかその男は地面にうずくまり悶絶するような顔を浮かべている。額には汗がにじみ、顔は赤くなっていた。
「いだだだだだだだだだだだだ!!」
「え、普通にちょっと握っただけなんだけど、何で?」
「たたた、助けてくれぇぇぇぇぇぇ!!!」
右手で男のパンチを防ぎ、その手をルミーから遠ざけて自分の思ったことを言っただけ。ではなかったようで、男はどうやら痛みには耐えられない様子だった。
「いやだから、そんなに力入れてないんだけど」
「すみませんすみませんすみません、すみませんでした!俺様が悪かった…だから命だけは、命だけは奪わねぇでくれ!!」
懇願する様子は、それまでの強引な性格からはうって変わった惨めさがあった。
マコトは髪の毛が金髪になったり、赤色になったり、青色になったりはしていない。ベルトをつけてかっこいいスーツを身につけたりはしていない。
(今まで生きてきて、こんなに力が強くなったことはなかったけど、でも、これがステータスの力、なのか?)
つまり変身はしていないということだ。ただありのままの様子だった。
「マコト、そろそろ離してあげたほうが」
「あーごめんごめん。それより、怪我は大丈夫だったか?」
彼の腕力は、被害者が加害者に同情を生んでしまうほどのものだった。
「うんまあ、全然大丈夫だけど、凄いね。こりゃアンタのステータスが相当高いって証拠だ」
「そう、かもな。今からちょうどそれを実践するべく、実践の試験を受けるところだよ」
「そうかいそうかい、それは楽しみだ」
そんな二人の会話の中で、男は痛みに耐えながら、ギルドの職員たちに引きずられて外に出て行った。
「いやーさすが!若人の行動力といいスキルといい、さすがのものがあるのぉ」
「ダイトンのじいさん、少しはアンタも加勢しなよ。仮にもこの子はこの街に来たばかりだよ?めんどくさいことはすぐに誰かに任せるんだから」
「いやはや、本当にすまなかった。ワシのような年寄りが、本当に迷惑をかけた!」
そう言ってマコトの方に手を組み、コメディチックにニ人は外に出て行きギルドを後にした。
(本当、妹といいあのじいさんといい…っていうか、実技の試験会場って外に出ないといけないんだっけ?)
ギルドから徒歩数分の街外れにある、大きなスタジアム。薄い黄土色のそれは、今現在使われている様子はなく、誰にでも出入りが可能だった。人は誰もおらず、今そこにいるのはマコトとダイトンだけである。普段はパーティーを組んでいる冒険者や兵士たちの練習や、バザーなどの大きなイベントごとの会場として使われている。
「今日は貸切じゃ。だから思う存分ぶっ壊しても良いぞ!!」
「あ、いや、さすがにそこまではしないですけど」
「まあまあそう言わずに。それじゃあ、試験の概要を説明するぞい」
冒険者の登録を行う上での実技の試験は、適性検査の結果を元に、得意な分野での実践となる。マコトは土魔法が少し使え、かつ遠距離攻撃の適正が極めて高い。よって、それを使った内容となる。
「聖なる炎よ、我の祈りに応え創造せよ。クリエイト・ファイア!」
ダイトンの左手から魔法陣が現れし、50m くらい離れた向かいの壁にも、小さな炎が出ていた。しばらく経つと炎はすぐに消えて、黒く焼けた跡だけが残った。
「ここから少し遠いが、簡易的な的を作った。君のその土魔法を使って、あの的に当ててみなさい」
「土魔法?って言っても、どうやって出せばいいのかわからないんですけど」
人間出身の人間には、魔法を使った経験はない。
「なーに、心配はいらんよ。形は問わんし、魔法学校に通った経験があるわけでもないんだ。詠唱を知らないとちっぽけな魔法しか使えんだろうが、君の力ならそんな心配は……」
「バゴォォォォォォォォォォォォン!!!」
銃声ような音が響き、付近の鳥たちは一斉に空へと羽ばたいた。音が音だけに、遠くにいた人にまで振動が伝わり、動揺するものもちらほらいた。スタジアムの中には砂埃が舞い上がり、ダイトンは強く咳をしていた。だが一番びっくりしていたのは、その弾丸のような音を出してしまった本人であり、青年のその口は見たこともないぐらいに大きく開けてしまっていた。
(え、何で?何でこんなことが起こったんだ?今俺は強く土魔法を意識して、的に集中した、はず。いや、今のは威力が強すぎたんだ。同じイメージを持って、今度は威力の調整をしよう)
そう決意し、砂埃が舞う中マコトは再度土魔法を使った。出現したのは、テニスボールより少し小さい程度の石であり、もはや原型のない的に向かって超高速で移動していった。
「よし、今度はちゃんと当たったな」
少し前も当たっていなくはいなかったが、作った的の原型がなくなってしまうほど威力が強すぎたため、今となってはその証明はできない。
(次は違う大きさをイメージしてみるか)
創意工夫をして様々な形を変えて、魔法を繰り出した。威力を変え形を変え、それらを全て器用に無詠唱で駆使していく。魔力がほぼ無限大の彼は、それがなくなることを気にすることなく、誰も人がいないことを良いことに連続で打ち続けていた。
「わかったわかった、もう分かったから、やめておくれ!これ以上すると会場が壊れる!」
何百何千と打ち続け、大きな石から小さな石まで様々な形状があり、壁にはその土魔法の残骸に溢れていた。
「あ、す、すみません、つい。何かやってくと、色々試したくなっちゃって」
(なんてやつじゃ…無詠唱だけならまだしも、この短時間で土魔法をある程度形にするとは。威力も桁違いに高すぎる。ステータスの高さは嘘じゃなかったということか)
魔法のレベルは消して高いものではなかった。それは、彼の土魔法がFランクだからというのが要因だが、問題はそこではない。通常魔法を完璧に扱うには魔法の基礎を学んだり、詠唱をして魔力をしっかり練って集中してから魔法を放つものなのだ。いくら魔力が高くあったとしても、連続で何発も放とうとすれば魔力だけではなく体力も消費してしまう。今のマコトは、それすら感じさせないほどの連続魔法を使っていた。
「マコト!」
「えあ、は、はい!」
渋い声がさらに渋くなり、ダイトンの顔つきは、もはやVシネマのあれだった。
「今すぐ王様に、極秘の!極秘中の極秘の、謁見すべきだ!!!」
「…え?(何か聞いたことがあるよな気がするんだけど)」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます