選手登録するようです

 食事を済ませ、三人はベウの働く冒険者ギルドへと足を運んだ。その付近は冒険者のたまり場ともなっており、仲の良い者同士やパーティーの仲間間で話をしている状況が見て取れる。それもあってか、近くには武器屋や薬を売っている店が立ち並び、関所の近くの街並みとはまた違ったにぎわいがあった。また、射的のようなゲームコーナーもあり、遊びの要素がある場所となっていた。

 「へぇ、色んな武器が売ってんだな。俺の住んでたとこにはないものばかりだ」

 短剣・刀・弓矢・魔道具等々、同じ武器でも特性や装飾の違う多様な武器の数々があった。中には個性的かつ奇抜な色やデザインのものも存在しており、見ただけで目を引くものばかりだ。

「そうか?どれも一般的なものばかりだとは思うけど。アンタの住む街には武器屋はなかったのかい?」

 「いやまあ、あるにはあるとは思うけど、ここまで充実はしてないんじゃない、かな」

 日本では銃の規制もあり、武器などをもし所持していれば銃刀法違反として捕まる可能性もある。ましてや弓矢なんてものを現代で使う人はあまりおらず、弓道部などに入っているような人しかそれを買うものはいない。武器としてカウントしていいものかどうかは定かではないが、それに近いもので売っているとすれば包丁やドライバーぐらいだろう。

 「さあ、そろそろ入りましょう。簡単な説明と、適性検査と技能検査なんかもありますから、早く済ませないと」

 「アタシは足りない薬品とめぼしい武器があれば買いたいから、終わったら言ってくれ」

 そう言い残し、ルミーは色々と物色を始め、 そのまま二人はギルド施設内に足を踏み入れた。そこには、ミッションをを終えたであろう冒険者たちが何人かおり、施設内の小さな飲食スペースで杯を交わしていた。

 「今日の成功に、乾杯!」

 「「乾杯!!」」

 (酒か、いつか俺も飲んでみたいな。今はまだ無理だけど)

 漫画やアニメで見たことあるような世界観の建物。そのビジュアルは、さながらファンタジー要素がなくもない。そして実際に中に入ってみても印象が変わることはなく、現代との違いに不覚にも彼は少し興奮していた。

 「では、この水晶に両手をかざしてください。適性検査を行います」

 ギルドの受付の近くに置いてあるボーリングの球の透明な水晶。見た目は特別な感じはなく、不気味なオーラもない。多少虫ではない何かが浮遊している感じがなくもないが、それほど気になるようなものでもなかった。

 (これで適性検査をするのか?占いとかでよく見るやつだよな。紫のローブをかぶってよくわからない呪文を唱えるおばちゃん、的な)

 どことなく疑問視しながらも、マコトは水晶に両手をかざす。だが、両手をかざしてもすぐに何か起きるわけでもなく、さらにその疑問は増した。手をかざしても、最初から今の今まで状態に変化がないからだ。何がおかしいのかは彼は皆目検討もついていない。

 「ねえベウさん、これで本当にあってるの?何も起きないんだけど」

 「大丈夫です。すぐに結果が分かるわけではないので、もう少々お待ちください」

 その言葉通り、しばらく待ってみた。だが待ってはみたものの、やはり何の変化もなかった。綺麗な丸い形をした透明の水晶のまま何一つ形を変えることなく、音が鳴ることもなく、ただただ目の前に置かれている。おそらく何か調べているというか、ローディングでもしているのだろう。マコトはそういったことを考え気にしないでいたが、何やらギルドのスタッフ達の様子がおかしいものがあった。見るからにざわつき始め、数人のスタッフが彼が手をかざしている水晶の下に集まってきた。

 「この水晶、壊れてるんじゃないのかしら」

 「俺がこのギルドに勤め始めてからこんなことはなかったんだけどな」

 「そもそも、ギルドの適性検査の水晶が壊れたなんて話を、私は聞いたことありませんよ」

 もしかしたら俺が壊したんじゃないかなんて不安が青年にはあったが、手をかざしただけで壊れるなんてことがあるはずないと、すぐにいつものような冷静な感情に戻る。

 すると、そこから少し時間が経ち、水晶が次第に光り始めていた。最初は弱かったその光はだんだんと強くなり、直視しづらいものにまで眩しく輝いた。数秒経つとやがてそれは内部で分散し、水晶は元の姿に戻った。

 「はい、お疲れさまでした。すみません、お時間をかけてしまって」

 無事に終了し、集まっていた職員等の野次馬もその場から離れていった。

 「あーいや、全然全然、大丈夫。なんだけど、何かあったの?」

 「いろんな原因があるとは思うんですけど…まあ、でも大丈夫ですよ。これで適性検査が終了しました」

 ベウは一枚の紙を用意し、マコトに手渡した。

 (見たこともない文字ばかり、だけど読める。これが異世界に来た、っていうことなのか?)

 そこにはステータスを確認する方法、能力についての詳しい説明などが書かれていた。ここもやはり日本語ではない不思議な文体の文字がいくつも連なっていた。そこに書かれていたのは以下の通りである。

 まず基礎能力について。体力・攻撃力・防御力・魔力の四つからなり、冒険者の身体能力を表す数値となっている。

 続いてジョブ適正だ。近距離攻撃・遠距離攻撃・剣術・重剣術・魔法使いの五つがある。基礎能力が高くても、その適性がなければ、力は最大限に発揮されないということになる。それによって扱う武器やその数も変わってくることになり、職業を選択するということは極めて重要なことになってくるのだ。

 「えーっと、【ステータスを見たい時は「ステータスオープン」と発することで、自身のステータスを確認することができます。】か。なるほどね」

 「冒険者ランクが高い方は、無詠唱でステータスを確認することができる場合もありますよ。全ては魔力次第になってきますけどね」

 早速マコトは、能力の確認に入る。

 「ステータス、オープン」

 目の前に液晶の画面のような長方形の図形が現れた。そこにはいくつかの文字が書いている。

 (これが俺のステータスか。ひらがなと漢字で、読みやすくて助かる)

 久々の日本語に安心しつつ、すぐ自分の能力の確認に入る。

 「えーっと、なになに……」



 【〜基本ステータス〜

 体力︰78,320,000

 攻撃力︰3,000,000

 防御力︰2,470,000

 魔力︰1,537,000


 〜ジョブ適性〜

 近距離攻撃(ファイター)︰S

 遠距離攻撃(アーチャー)︰SS

 剣術(スラッシャー)︰A

 重剣術(ハンマー)︰A

 魔法(ウィザード)︰D


 〜魔法適性〜

 火︰G

 水︰G

 風︰G

 土︰F

 光︰G

 闇︰G

 回復︰B


 〜固有スキル〜

 サーチ・フィジカルアップ・神速・狙撃・

 結界                 】



 マコトは自分のステータスを確認した。だが、イマイチピンと来ていないといった様子でしばらく画面をじっと眺めていた。

 「ベウ、これってどうなの?凄いの、凄くないの?」

 「どれどれ、見せてみてくださ……!!」

 彼のステータスを見た瞬間ベウの体が地蔵のように固まった。

 「え、なに、どうしたの?おーいベウー、何かあったのか?返事をしろよ、おーい」

 そうしてマコトが返事を促すも、全く応答はなかった。それどころか彼女は、まるで酒でも飲んだかのように急にふらつき始め、白い目を向いてその場に倒れてしまった。

 (え、なに、何で倒れたの?)

 そんな言葉をつぶやく間もなく、再びギルドのスタッフたちが二人の元に集まってきた。

 「た、倒れたわ!ベウが倒れた!!」

 「何があった、毒でも盛られたのか!?」

 「大惨事だ、このギルド始まって以来の大事件が発生したぞ!!」

 慌てふためくギルドのスタッフ。何が起きたのかと辺りは騒然とする。事件なのか事故なのか、誰の仕業なのかと犯人探しが始まり、自然と一人の青年の方へと視線が集中した。

 「え、何すか?俺?いやいやいや、俺何もしてないっすよ。ただ、ステータスを見せただけ、で―――…」

 恐ろしい表情をしたモンスターの軍勢が押し寄せてくるかのような圧で、そこにいた全員がマコトに威圧的な態度をとる。彼は必死に「俺は何もしていない」「俺は何も悪くない」といった弁明をするも、誰も聞く耳を持とうとはせず、彼への避難と暴力に全ての力が注がれていた。

 「お前うちの看板娘になんてことするんだ!ベウは俺たちの大天使なんだぞ!!」

 「そうよそうよ!料理もうまいし、気遣いもできるし、そんないい子のことを傷つけるなんて、どんな最低なことをしたのよ!恥を知りなさい恥を!」

 罵詈雑言の嵐が続く。当然彼は無罪ではあるのだが、ステータスを見せただけで倒れた理由が、鈍感なマコトにはよくわからなかった。だが色々と展開が目まぐるしく、今度はマコトが倒れそうになっていた。

 「毒には犯されていません」

 「どうやら気を失っている模様です!」

 近くで介抱するスタッフが、状況を全体に知らせた。これで疑いが晴れるのかと思い安心した野球青年だったが、今置かれている状況と服装のおかしさも相まって、非難はやむどころかさらに拡大していた。

 (何で何で何で、何でこうなったんだよ!)

 彼の心が折れかけていたその時、ベウはふと目を覚ました。安堵したギルド職員たちは、彼女の意識が戻ったことをお祭り騒ぎのように喜び、泣き出すものまで現れた。

 「ベウが、俺たちのベウが…息を吹き返したぞ!」

 「「うおぉぉぉぉぉぉ!!」」

 安心できる状況にに戻ったのは良いのだが、茶番劇のような一連の展開に、マコトは大きくため息をつく。

 「皆さん大丈夫です。少しふらついただけなので、マコトさんのせいではありません。なので、皆さん元の仕事に戻っていただいて大丈夫ですよ」

 まるで彼女に心酔しているかのように、「ベウが言うなら大丈夫か」「あの子の言うことだし、問題ないのだろう」と、彼に謝ることはなく職員達はそそくさと定位置に戻っていった。

 「つ、疲れた。まじで、マジ何だったんだ今のは」

 「すみませんマコトさん、ご迷惑をおかけしてしまって。ここの方たちはみんな優しい方が多くて」

 優しいなんてレベルではなかった。

 「クセが強いというか何というか、過保護すぎるでしょ。親でもこんなことしないだろうに」

 その通りかもしれない。

 「あははは…あ、そうだ!マコトさん、それよりも大変ですよ!今すぐギルドマスターに、そしてその後すぐ、王様に謁見すべきかと!!」

 「・・・はい?」

 

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