第27話 兄と秘密

 今日の王都はここ一年で一番の盛り上がりを見せていた。

 その理由はこの場にいる全ての人が知っている。

 今日は剣術大会の本戦2日目、いよいよ優勝者が決まる日なのだ。

 そんな2日目に進むことができた出場者はたった八人だけ。

 スカウトなど多くの人に注目をされる実力者たち。

 この世代最強と考えていい八人だ。


 そんな八人の中に、一人の青年がいた。

 彼の戦いは決して派手ではない。

 だがひとつひとつの動きが洗礼されており、基礎的な型だが四大流派全てを使って立ち回る。

 それはまさに凡人の極地なのかもしれない。


 入学当初その少年は悪目立ちをしていた。

 理由は彼の見た目にある。

 彼は左目に眼帯をしていたのだ。

 物珍しいその姿は、学生たちの嘲笑の対象になった。

 だがこの場で彼のことを笑うものは一人もいないだろう。

 彼の眼帯はトレードマークとなり、その戦う姿に憧れを抱くものも出ていた。


 皆期待してしまうのだ。

 自分を重ねてしまうのだ。


「頑張れよ」


 剣術大会二日目、初戦が始まる。



---



「いよいよだな……」


 俺はここまで来た。

 それも自分の力で。


 七年前、選定の儀の日は今でも覚えている。

 才能がないと突きつけられたあの日から、俺は走り出した。

 先の見えない道を進み続けた。

 何度も目の前が真っ暗になり、道が消えることもあった。

 だがその度に、誰かが手を貸してくれた。

 俺に道を示してくれた。

 俺の未来に光を灯してくれた。

 だからここまで走り切ることができた。


「ライ兄、最強って何?」

(俺に聞かれても分からないよ。ただ、俺が最強じゃなかったことは確かだ)

「僕は最強は一人だと辿り着けないと思う」

(俺もそう思うよ)

「僕がここまで来れたのは、いろんな人のおかげだ。父さんや母さん、アメリア様、そしてライ兄、みんながいたから今の僕がいる」

(そうだな)

「ここまでずっと走り続けてきた。だけど今限界を感じているんだ。これ以上先に道がないような気がしている。だからライ兄、僕に限界の先を見せてよ」

(ネルク、お前の未来を見ることはもうできない。だけど暗闇に光を照らすことはできる。この試合、俺が先の世界を見せてやる)

「ありがとう、ライ兄!」


 俺は左目の眼帯を外し、右目に取り付けた。


 開かれた彼の瞳は美しい青色をしていた。



---



 五年前……


 俺が全てを失いイザベル家で目を覚ました日、ライ兄の部屋であるものを見つけた。

 

「これは、手紙?」

 

 机の下に落ちていたそれは封をされた手紙であった。

 そしてそれと同じ見た目をしたものに心当たりがあった。

 それはライ兄が俺たちの家族に出してきたものと同じ見た目だったのだ。

 俺が手紙を裏返すとそこには、

『ネルクへ』

 の文字が書かれていた。

 俺はすぐに封を解いた。

 中からは何枚もの紙が出てきた。

 そしてそれらにはぎっしりと文字が書かれている。


ーーーネルクへ


この手紙を読んでいるということは、きっと全てが終わったのだろう。

まずは謝らないといけない。

俺は両親と村のみんなを救うことができなかった。

俺にもっと力があればと後悔している。

ネルク、あの日のことを覚えているか?

俺が力に目覚めた日だ。

俺はあの日から未来が見えるようになった。

目に魔力を込めることで数秒先の未来を自由にみることができた。

ここまではネルクも知っている力だ。

だがもう一つ、誰にも言っていない力がある。

それは俺が自由に使える力ではない。

ある日突然、数年先までの未来が見えたんだ。

そこには災悪があの場所で発生すること、そこでネルクが死ぬことなどが映った。

そしてその未来は変えられないものだということもわかった。

だが俺はもう一つの未来を見た。

ネルクが生き残る未来だ。

そしてその方法も全て理解した。

俺は見えた未来に従った。

そして今がある。


後悔はしていない。

まぁ、それはこの手紙を書いている段階での話だが。

それでもこの選択をしたことに後悔することは絶対にないだろう。

だからネルク、俺の分まで生きてくれ。

この世界を災悪から救うためにはネルクの力が必要なんだ。

どうしてかは俺の力では分からなかった。

だけど俺の知っているネルクなら大丈夫だ。

誰よりも強いネルクを俺は知っている。


これからもずっとそばで見守っているから、安心して突き進むんだ!


ライオットーーー


 ライ兄は全てを分かっていた。

 そしてあの時、あの場所に向かった。

 それはどれだけ怖かっただろうか。

 自ら死ににいくのだ。

 

 残りの紙には、イザベル家での二年間のことが詳しく記されていた。


「ライ兄、俺頑張るよ」


 俺はその日、みんなの分まで生きることを誓った。



---



「さぁ、いよいよ剣術大会も最終日を迎えました。全参加者、126名。その頂点に立つものが本日決まります」


 会場の熱気は最高潮だ。


「そして本日の初戦を飾るカードは、マリン対ネルクだ!」

「「「うぉぉーー!!」」」

「マリンさん、頑張ってー!」

「マリン、今日も圧倒的な試合を見せてくれー!」

「優勝期待してるぞー!」


 熱い声援が送られる中、二人が姿を現した。


 そんな二人を熱い眼差しで見守っている女性が客席にいる。


「ようやくこの試合が見れるわね」


 誰よりもこの試合を楽しみにしていたのが彼女だ。

 彼女はネルクに隠し事があることに気がついていた。

 それがどのようなものかにも心当たりがあった。

 だけどずっと触れないでおいた。

 それを認めてしまったら、彼とどのように接していいのか分からなくなりそうだったからだ。

 だけど今日、彼女は決断することになるだろう。


「ネル……、やっぱりそうだったのね。まったく、私に相談してくれたらよかったのに」


 彼女はネルクの様子がいつもと違うことに気がついた。

 その違いに気がついたのは、彼女だけだろう。


「がんばれ」



---



「ネルクさん、こんな素敵な場所であなたと戦えて良かったです」

「君は、マリンさんだったね」

「えっ、本当にネルクさんですか?何か前とは雰囲気が違うような……あっ!眼帯がいつもと逆です!」


 マリンさんは違いに気がついたようだ。


「左眼、そのような色をしていたのですね」


 彼女は優しく微笑んだ。

 とても最強と言われる人物のようには見えない。


「マリンさん、今日の勝負勝たせてもらいます」

「私も負けるわけにはいきません。ネルクさんが強いことも知っています。全力で行かせてもらいます!」


 彼女はネルクと戦いたがっている。

 悪いことをしてしまったな。

 だけど、大切な弟の頼みなんだ。

 この試合は俺が相手をさせてもらう。


「それでは準々決勝第一試合、マリン対ネルク。カウント三つで勝負を開始します」


『3、2、1、試合開始!!』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る