第26話 剣術大会本戦
剣術大会予選を突破した翌日、俺はとある会場に来ていた。
そこでは今日も予選が行われている。
俺がその場所を訪れたのは一人の出場選手を見るためだ。
「それでは本日の最終試合、マリン対ルドルフの試合を行います」
名前を呼ばれた両者が前に出てくる。
そう、俺の目的は彼女の試合を見ることだ。
アメリア様に勝利したマリンさんの試合を見るためだ。
俺は最初からここでの試合を見ているが、今まで行われた二試合とも一瞬で勝負が決してしまったため実力を知ることができていない。
だが今回の相手は、簡単に倒すことはできないはずだ。
マリンさんの対戦相手、ルドルフも本日の試合は二連勝している。
この試合の勝者が本戦の出場を決める。
「勝負開始!」
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結論から言おう、勝者はマリンだ。
圧勝と言っても差し支えのない勝利であった。
だが何も分からなかった前の二人と違い、ルドルフとの試合では多少であるが、マリンの強さの秘密が分かった。
まず彼女の動きはどこの流派のものでもない。
だが完全な我流というわけではない。
彼女の動きには確かな歴史を感じる。
しかし俺は彼女の流派を知らない。
剣の流派として知られているのは主に四つ、勢流派、激流派、華流派、寒流派だ。
だがそれしか流派が無いわけではない。
一族の間でだけ伝えられてきたものや、伝統的なものなど、実は流派は複数存在する。
俺はそういうものと対峙する可能性も考えて、知識だけは詰めておいた。
だが彼女の流派はそのどれにも当てはまらないのだ。
一族秘伝のものなどは未だ秘匿されているものもあるため、その一種なのだろう。
だがこれは彼女の強さの一つの要因にすぎない。
むしろおまけといってもいいのかもしれない。
彼女が強い最大の要因は、圧倒的な身体能力だ。
前に彼女と話した時彼女は自身の中に凄い才能があると言っていた。
すごいなんて言葉は安っぽいかもしれない。
彼女の才能は宝石だ。
まずその速さだが、実際に対峙しても目で追い切れる自信はない。
勘で動こうとしても、彼女の流派が分からない以上適した行動を取れない。
気づいた頃には勝負は終わっているだろう。
「ライ兄なら、勝てるのかな……」
俺はマリンの本戦出場を見届けてその場を離れた。
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「ネルク、どうだった?」
「圧倒的だったよ」
俺はアメリア様にマリンさんの結果を報告した。
わかりきった結果だっただろう。
「彼女の強さの秘密は分かった?」
「いや、ほとんどわからなかったよ」
マリンさんの強さの確信に迫ることはできなかった。
ただ一つ言えるとしたら、
「俺の力じゃ勝てないってことしかわからなかったよ」
「そう、二人の戦いが楽しみね」
この楽しみは、俺に向けられて言われたものだろうか。
それとも……
「本戦は一週間後の祝日に行われるのよね」
「二日目に残れるように頑張ります」
本戦は二日間に分けられている。
一日目は32人から8人まで絞る。
そして二日目に勝者を決める。
「ネルク、トーナメント表が出たわ!」
学園の掲示板に剣術大会のトーナメント表が貼られた。
俺は一日目の三試合目に初戦を迎える。
「ネルク、絶対に二日目に行きなさいよ」
アメリア様が指を指した場所を見る。
そこにはマリンさんの名前が記されている。
俺とは準々決勝で当たる位置だ。
マリンさんは必ず勝ち上がってくる。
俺は初日を抜けられるのかも分からない。
ギリギリの戦いになるだろう。
だけど俺の力で初日は越えなければいけない。
「アメリア様、今から打ち合ってもらえますか?」
「もちろんよ!」
本戦までの一週間、俺は何度もアメリア様と打ち合った。
感覚は研ぎ澄まされた。
学園生活で少し弛んでいたが、今はダンジョンに潜り続けていた当時のような緊張感を持てている。
コンディションは最高。
後は持てる力を全て出すだけだ!
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「それではここに剣術大会の開催を宣言します!」
「「「うぉぉぉーー!!」」」
学長の宣言で剣術大会本戦が開催された。
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この日は学園も解放され、すごい人数が会場を訪れている。
学園周りも祭りのように賑わっている。
いや、祭り以上かもしれない。
ただでさえ賑わっている王都に人が集まっているのだ。
この大会の持つ今の大きさが身に染みる。
そんな祭りのような大会だが、俺は回って楽しむ側ではない。
大会に参加する、楽しませる側である。
もちろん俺たちは本気の戦いをするだけだ。
見せ物というつもりは一切ない。
「そろそろ出番です」
控え室に運営が呼びにきた。
2回戦も終わり、準備が整ったようだ。
俺も控え室で準備は済ませている。
温まった体で控え室を後にした。
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明日に進むためには今日の二試合を勝たなければいけない。
緊張する。
手元に握っているのがあの愛剣だったのなら、もう少し緊張は和らいだだろう。
だがこの大会は指定の剣のみしか使用できない。
もちろん本戦なので真剣だ。
(父さんや母さんは今の俺を見てくれているかな)
元冒険者だった両親にも俺が剣術大会に出ている姿を見せてあげたかった。
(父さんは褒めてくれただろうな。ライ兄と比べられたかもしれないけど、それでも剣術大会で本線に進んだのだからきっと喜んでくれただろう)
父さんが笑顔で横に立っていてくれる気がする。
(母さんはきっと心配するだろうな。だけど俺の努力を認めて背中を押してくれただろう)
背中に母さんの暖かみを感じる。
大丈夫、もう緊張はない。
「父さん、母さん、行ってきます!」
俺は前に進んだ。
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「第三試合、ネルク対ダトー」
「「うおぉーー!!」」
会場の熱気も増してきている。
前の試合の出場者のおかげだ。
前に進み相手と対峙する。
俺の相手のダトーの名前は聞いたことがある。
地方貴族の息子で、その実力もある。
アメリア様も良い戦いをしたと言っていた。
もちろん勝ったのだけど……
互いに言葉を交わす必要はない。
交わすのは剣だけ。
それが剣術大会だ。
構えは激流派か……
正直一番やりにくい流派だ。
才能がない俺は激流派の一撃を受け止めることはできない。
他の流派なら勝てるというわけではないが、やはり激流派は相性が悪いと言っていいだろう。
(ネルク、大丈夫か)
「大丈夫だよ。俺もずっと努力してきたから」
(あぁ、ずっとそばで見ていた。頑張れよ)
「勝負開始!」
合図と同時に相手は強く前に踏み出した。
激流派の動きは単純だ。
だがそれは欠点ではない。
他の流派では型ごとに動きも異なる。
一歩目から型がわかることもあるくらいだ。
だが激流派は違う。
ほとんどの型に違いがあまりないのだ。
全て同じというわけではない。
威力や流れ、向きなど細かい違いはある。
だが全ては最大の一撃に繋がるための動きだ。
ほとんどの人はその型の違いに気が付けず、最適な対応はできないだろう。
だが俺は違う。
頭の中にある多くの知識、今までの経験や努力、その全てが合わさり、わずかな型の違いが見えた。
鍛え上げられたその力はもはや未来を見てるとも言えるのかもしれない。
ダトーの一歩の踏み込みに合わせて、俺は最適な行動を取る。
この場にいるほとんどの人が取ることのできないであろう完璧な一歩をだ。
たかが一歩だ。
だが勝負は時に、その一歩で終わることもある。
俺は華流派の型で対応した。
受け流すなら寒流派を選択するべきだ。
だが俺の体は自然と華流派の型を選んだ。
受け流すのではなく、この一撃で勝負を決めるために……
素早くも力強いダートの一撃が俺の上から迫ってきた。
だがそこに剣が来ると分かっていた俺は、一切の無駄がない動きで剣をかわした。
それも華流派の型の動きの中でだ。
その一撃で勝負を決めに来たのだろう。
俺の一撃は隙まみれの相手の体を斬りつけた。
大会用の剣は鈍であるため、切断にはいたらないが、決して少なくない量の血を流してダトーは倒れた。
「勝負あり!勝者、ネルク!」
「「おぉーー!!」」
歓声が上がる。
ダトーはすぐに治癒士の元へ運ばれる。
あれくらいの傷なら一瞬で直してしまうだろう。
たとえ腕が体から離れようが、ここに集められた治癒士ならくっつけてしまう。
俺は初めて受ける多くの歓声に圧倒された。
そこには俺のことを実力のない眼帯のやつといった目線は一つもない。
「出てよかった……」
俺は小さく拳を握りしめて、その場を後にした。
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次の俺の試合の相手は、華流派を使うマイトという生徒だった。
だが俺はこの数日、その者より強い華流派と打ち合い続けたのだ。
時間はかかったが、無傷で勝利を掴むことができた。
マリンも圧倒的な実力でトーナメントを勝ち上がった。
誰もが彼女の優勝を確信しただろう。
明日はいよいよ彼女との闘いだ。
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