第23話 最強のイメージ
「勝った……」
俺は倒れるキングコボルトと共に地面に向かって落ちていく。
倒したという安堵から体から力が抜けてしまったのだ。
(せっかく勝てたのに……)
俺は迫ってくる地面に目を瞑った。
「ネルク!!」
だが俺の体は地面に激突することはなかった。
「クロム!」
「最後まで気を抜くなよ」
「あぁ、悪かった。それより、お前らの相手は!」
「それなら、」
クロムは指を指した。
「バッチリだ!」
倒れたキングコボルトの前でコランたちが笑顔で手を振っている。
「それにしてもよく一人で倒せたな……」
「ギリギリだったよ。一歩間違えれば俺が死んでいた」
「ダンジョンって、怖いな」
「そうだな。だけど俺たちは生き残った。不測の事態に対応できた。自信を持っていい。今回のダンジョン攻略は大成功だ!」
---
「初めてのダンジョン攻略が成功するなんて、やっぱ俺は天才だったんだな!」
「まったくすぐ調子にのるんだから」
「そうだよ。今回の成功はネルクのおかげだよ」
「次は私たちだけでダンジョンに挑まなければいけないんですよね……」
「大丈夫だよ、俺がいなくても」
俺はこのダンジョン攻略を通して彼らならきっとランクを上げることができると確信していた。
「クロムはリーダーとして的確な指示ができていた。後は状況判断能力を磨いていけば必ず強くなれるはずだ」
「任せとけ!」
「コランは誰よりも冷静だ。クロムのサポートに適している。だけど後一歩前に踏み出す勇気が必要だ。君は仲間を守る盾だからね」
「うん、頑張るよ」
「ルチルは自分の役目をしっかりと理解している。それは様々な動きが必要な中衛に最も必要な力だ。しかし、初歩的なミスが多い。もう少し落ち着いて行動するように」
「はーい」
「ペトラはこのチームにとって最大の攻撃手段だ。そしてその自覚もある。だけど周りに合わせようとしすぎだ。もう少し自信を持って行動するように」
「はい!」
「なぁネルク、俺たちのパーティーに入らないか?お前ならすぐにDランクになれるだろ。なら、問題はないはずだ」
全員がそのことについて考えたいようで、俺の方を真剣な眼差しで見ている。
確かにその提案はありがたい。
俺も昔は冒険者になりたかった。
父さんと母さんの楽しい話もたくさん聞いた。
だけど、
「その提案は嬉しいよ」
「なら、」
「だけどパーティに入ることはできない。今の俺にはやることがあるからな」
そうだ。
俺は戻らないといけない。
このパーティーよりもっと手のかかるお嬢様が待っているのだから。
「……そうか。また機会があればよろしくな!」
「あぁ、また一緒に冒険に行こう」
「その時は俺たちAランクにでもなってるから、しっかりランクを上げといてくれよ!」
俺はクロムと熱い握手をした。
同年代の仲間、学園の生徒とはまた違う距離感の彼ら。
この出会いは確実に俺に影響を与えただろう。
---
「えーと、アメリア様……どうして俺の部屋にいるのですか?」
ダンジョン攻略を終え、疲れた体を動かして寮に戻った。
明日からはまた学園生活だ。
早くベットに横になりたい。
そう思って部屋の扉を開けたら、どういうわけかアメリア様がそこにいたのだ。
「ネルク、少しそこに座りなさい」
「はい」
俺は言われた通りアメリア様の前に座った。
「ずいぶん楽しそうなことをしていたようね」
「それはどういう意味ですか?」
「あら、とぼけるの?」
私は全てを知っているといった顔を見せられては答えるしかない。
「ダンジョンに行っていました」
「そんなことは分かっているわ。確かに私はこの二日間あなたに休暇を与えたわ。だけど、ダンジョンに行くなら私を誘ってくれてもよかったじゃない!」
アメリア様はまだダンジョンに行ったことはない。
小さい頃から活発に動いていた彼女だが、ダンジョンの経験は無いのだ。
だからこそ俺の講義をとったのだろう。
「アメリア様はダンジョンについての講義をとっていましたよね?」
「確かにそうよ」
「その授業の最終課題はダンジョン攻略のはずです。せっかくでしたらそこまで我慢した方が良いと考えました」
「……それじゃあダメなのよ」
「アメリア様?」
「なんでもないわ!確かにネルクの言う通り、私が先にダンジョンに挑むのは少しずるいわね。だけど、私のことを誘わなかったのはその理由じゃないでしょ」
俺の嘘は通じないようだ。
「はぁー、本当の理由については聞かないでおくわ」
「ありがとうございます」
主人にあたるアメリア様に対する隠し事を許してくれるなど、普通ではあり得ない対応だ。
こういう時は何か裏が……
「その代わり、ネルクにはこれに出てもらうわ!」
俺の予想通り何かを企んでいたようだ。
アメリア様は俺に一枚の紙を渡してきた。
「これは、剣術大会?」
「そう、剣術大会よ!」
剣術大会、それについては俺も知っている。
毎年新たに学園に入学した者で開催される大会だ。
ようは、その世代の最強を決めようというものだ。
ルールは単純、魔法や飛び道具は禁止、剣術のみの大会だ。
参加者も多く、予選と本戦に別れている。
本線は盛大に開かれ、学生以外にも多くの人が目に来る。
スカウトなどもそこで行われるため、たかが学生の大会とは言えない盛り上がりを見せる。
「アメリア様、俺は才能を持っていないのですよ」
「知ってるわ」
「さらにこの大会では規定の武器や防具しか身につけることができません」
「えぇ、そうね」
「……俺が出ても、見せ物になるだけですよ」
「そうかしら?私はあなたならいいところまで行くと思っているわ」
アメリア様が期待を込めた表情で見てくる。
「アメリア様はこの大会には出ないのですか?」
「そのつもりよ。だって私に勝てるのなんてマリンくらいだもの」
アメリア様の貴重な友達、マリンさん。
彼女は複雑な事情を持っているようだが、その実力はアメリア様が認めるのだから確かなのだろう。
「マリンさんは出ないのですか?」
「彼女なら出るわ」
「それならアメリア様も」
「ネルク、私は一位が好きなの。マリンがこの大会に出る以上、私が一位になることはありえないわ。だから出ないのよ」
アメリア様らしい理由だ。
「そんなに強いのですか?」
「強いわ。この学園で最強かもね」
「そうですか」
「最強って言葉に引っかかってるわね」
「いえ、そのようなことは」
「ライオットなら勝てたかもしれない、って思ったのでしょ?」
「うっ、よく分かりましたね」
「何年一緒にいたと思ってるのよ」
俺は確かに考えてしまった。
最強、その言葉は魅力的な言葉だ。
誰よりも強い、それを表す言葉だ。
そして俺にとってその言葉のイメージは、ライ兄だ。
だから気になってしまったのだ。
アメリア様がいう最強は俺のイメージを新しくしてくれるのかに。
「ライオットも戦いたがってるんじゃないの?」
「えっ?それはどういう意味ですか?」
「あなたが言いたくないのなら、言わなくてもいいわ。ただ、私はそんなに鈍くないってことよ」
もしかして彼女は気がついているのだろうか。
俺の秘密に、この力に。
今まで誰にも伝えていない。
人前でこの力を使ったことはほとんどない。
俺の最後の切り札だ。
「そうですね。俺はこの大会に参加します」
「ほんと!?」
「えぇ、もちろん本当です。ただ、マリンさんと当たるまではこの力は使いません。俺の力で勝負させてください」
「えぇそうするといいわ」
「アメリア様、いつからこの力に気が、」
「何のことかしら。私にはさっぱり分からないわ」
「……ありがとうございます」
「何に感謝してるのよ。それに私はその力があるからあなたを信頼しているわけじゃないわ。あなたはいつも代わりになろうとしていたけど、私はあなたはあなたとして見ているわ」
俺はそんなアメリア様の言葉を聞きながら、剣術大会の紙を強く握りしめた。
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