第22話 無能の闘い

 通常のコボルトより大きなキングコボルト。

 だが性質はコボルトに近い。


「弱点はコボルトと変わらないぞ!」


 俺たちはパーティでキングコボルトと対峙している。

 それぞれの役割で動く必要がある。

 そして俺の役割はサポートだ。


「コラン、ポーションだ!」

「助かる……」


 俺はダメージを受けたタンク役のコランにポーションを渡す。


「飲み終えるまで俺が代わりを務める!」


 俺はヘイトがルチルに集まりすぎないように、コランの代わりに前に出る。


 この大きさの魔物と戦うことは初めてではない。

 ダンジョンのボスの相手も何度も経験した。

 

 俺は落ち着いて剣を構える。

 現在ボスの集中はルチルとクロムに集中している。

 まずは俺に集中させる必要がある。

 必要なのはボスに警戒されること。

 俺は激流派の型を構える。

 俺が出せる最大威力の攻撃だ。

 才能がない俺でも、ダンジョンアイテムで多少の能力上昇をしている。


「うおぉぉーー!!」


 大きな声を上げながら、キングコボルトの右脚に剣を振り下ろした。

 切り落とすことはできなかったが、こちらに集中させるに必要なダメージを与えることができた。

 横目でコランを確認する。

 ちょうどポーションを飲み終わったところだ。


「だが、この一撃は俺が受ける必要があるな!」


 コランが到着するより早く、ボスの強力な一撃が俺に飛んでくる。


(弱点は通常のコボルトと変わらない)


 俺はその攻撃に合わせて、腕の肉を削ぎ落とした。


「ネルク、変わるぞ!!」


 回復したコランが俺に変わってヘイトを集める。


(順調だ!)


 初めてのボス相手に彼らの動きはとてもいい。

 連携もバッチリだ。


 俺は徹底してサポートに回る。

 クロムの指示通り動き、ボスを追い詰める。

 

「よし!片膝をついたぞ!!」


 クロムの剣がキングコボルトの足の肉、そして健を切り裂いたようで、ついに片膝をついた。


「あとは、慎重に「「ドゴーーン!!」」


 クロムの指示が大きな音でかき消された。


 音は俺たちの後方から響いた。

 そして俺たちが振り返ると、


「「グァァオオォォーー!!」」


 そこにはもう一匹のキングコボルトがいた。



---



「どういうことだ!?」

「分からない!このダンジョンボスはキングコボルト一体のはずだ。だが、稀にダンジョンボスが追加されることがあると聞いたことがある」

「嘘だろ……」


 聞いたことがあるだけだ。

 今までいくつもダンジョンを攻略してきたが、そんなことは一度もなかった。

 だがダンジョンも生物の一つという考えなら、何かハプニングが起きてもおかしくない。


「片膝をついたといっても、もう一匹は流石に無理よ!」

「私の魔力もあの一体で使い切ってしまいます!」

「僕も二体同時に相手は無理です!」

「クソ、どうしてこのタイミングで!!」


 彼らは軽い混乱状態に陥っている。

 このままでは全滅するだけだ。


 俺は彼らにこのダンジョンをクリアさせると誓った。

 なら、やるしかないだろ。


「クロム、手負のキングコボルトは四人で倒し切れるか?」

「なんとかなるが、新しくきたあいつは……まさか!?」

「俺が一人で相手にする」

「そんなの無茶ですよ!」

「あぁ、無茶だ。だから時間を稼いで見せる。なるべく早く手負の方を倒して、俺のところに駆けつけてくれ」

「でも、」

「頼んだよ」


 俺は彼らを信じている。

 だから、俺のことも信じてくれ。


「「「「はい!」」」」


 彼らは覚悟を決めて返事をした。

 そして俺に背を向けて手負のキングコボルトに向かった。


「さぁ、殺し合いを始めようか!」



---



 ボスモンスター相手に一人で挑む。

 まったく無茶な話だ。

 いや、ライ兄ならなんとできたはずだ。

 だけど俺はライ兄じゃない。

 何の才能も持たない、無能な弟だ。

 だけど、無力ではない。

 俺には戦う力がある!



「グァァオォーー!」


 キングコボルトが接近してくる。

 奴の武器はその強力な爪と牙だ。

 

 俺は右手の大振りを回避する。

 絶対にその爪に当たってはいけない。

 俺なんて一撃で戦闘不能に追い込まれるだろう。


 俺の目的はこいつの討伐。

 だがそれは最終目標だ。

 俺が今やるべきことはクロムたちが合流するまでの時間稼ぎだ。

 だから基本は防戦でいい。


 俺は寒流派の型で相手の攻撃を待ち構える。

 そして攻撃されるたびにいなして、相手の腕を剣で切り裂く。

 だが動きが早くて、大したダメージを与えることができていない。

 しかし今の俺にできる最善策がこれだ。


 雨のように続くキングコボルトの爪の攻撃を受け流し続ける。

 だが限界は必ず訪れる。

 俺は少しずつ体に切り傷が増えてきた。

 急所には当たらないように受け流しているが、相手の速さと力は凄まじく、俺の体は少しずつ限界に向かっている。


 横目で見たクロムたちは、キングコボルトに両膝をつけさせたところだ。

 だがこちらにすぐはこれないだろう。


「しまっ、」


 俺はキングコボルトに吹き飛ばされ、地面に転がされた。

 一瞬気が逸れたのが原因だ。

 急所への攻撃は受け流したが、左肩が完全に外れてしまった。

 これでは両手で剣を振ることはできない。


「クッ、ここまでなのか……」

(ネルク、お前の限界はここなのか?)


 俺は最後の望みにかけて左目の眼帯に手をかけた。

 だが、完全に取り去る前に手を止めた。


「俺の限界……」


 才能を持たないにしては、よくやった方だと思う。

 そもそもボス相手に一人で立ち向かっていること自体を褒めて欲しい。

 褒めて欲しい……?

 誰にだ?

 俺は誰かに努力を認められたいのか?

 いや、違う。

 俺が努力してきたのは、自分のためだ。

 自分が自分であるために、そして俺が代わりになれるように!


「まだ、俺の力でできることがある。だから、ライ兄の力はまだ借りれない!!」


 俺は眼帯を外そうとした手を下に下ろした。

 そして腰にしまっていた剣を再び握る。

 もう両手では握れない。

 だが、利き腕が使えればそれで充分だ。


「俺がこいつを倒す!」


 まずはなんとかして膝をつかせなければいけない。

 そのためにはキングコボルトの懐に潜り込んで、足の皮を切り裂く必要がある。

 本来なら誰かがヘイトをかっている間に、別の誰かが攻撃をする。

 それこそ、コランとクロムのように。

 だが今は俺一人でやらなくちゃいけない。


 チャンスがあるとしたら、相手の攻撃のタイミングだ。

 こいつは通常コボルトと弱点が変わらない。

 攻撃のタイミング、体重が前に移動することでバランスが崩れる。

 それは体格が大きいほど、より明確な問題を起こす。

 俺は攻撃を受け流しながら確信していた。

 一度攻撃体勢に入ったキングコボルトは、急な方向転換ができないということに。


「仕掛けるなら、このタイミングだ!」


 俺は仕留めにきた一撃を全身を使って受け流す。

 型なんてない。

 経験と知識を使った、勘による動きだ。

 そして俺は前に出る。

 バランスが前に移動したこのタイミングで。


 すぐに追撃を加えようとしてくるが、俺の動きの方が一歩早い。

 再び爪を躱して足元に滑り込んだ。

 そしてその勢いで左足の健を切り裂いた。


 今の一撃でキングコボルトは片膝をついた。

俺はその衝撃に巻き込まれないように、足元から離れる。


 俺はキングコボルトの手の届かない範囲まで移動した。

 だがこれで終わりじゃない。

 こうなったキングコボルトが次の取る行動は知っている。

 俺はすぐにその場を移動する。


「ズドドドン!」


 俺がいた場所は無数の地面のえぐれがある。

 そう、足をついたキングコボルトは石を投げつけてくるのだ。

 ここからは一気に魔法で押し切るか、近接で仕留めるかだ。

 残念だが才能を持たず、魔法が使えない俺にあるのは一つの選択肢だけだ。


「うおぉーー!」


 俺は前に踏み出す。

 

「グアォーー!」


 手の届く範囲に入ったことで、爪による攻撃に切り替わった。

 俺はその爪を体を回転させながら躱した。

 そしてその体の勢いを使って、腕に飛び乗る。


「これで終わりだー!」


 俺は腕を駆け上って、キングコボルトの喉に、剣を突き刺した。

 深く、深くにだ。


 一瞬暴れたが、すぐに力尽きた。


 キングコボルトは倒れた。

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