第18話 初めての講義
「えー、それでは今から講義を始めます」
俺の初めての講義は気まずい空気の中始まった。
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少し前に遡る……
今日は初めての講義の日だ。
内容はすでに決めてあるが、かなり緊張している。
そもそも講義を受ける人が何人いるのだろうか。
俺が昨日受けたマイナー科目のように少ない人数なら楽なのだが……
俺は緊張しながら教室に入った。
「えっ?」
俺が教室に入ると生徒から声が漏れた。
それと同時に俺に教室中の視線が集まる。
いや、俺というよりは俺の仮面だ。
仮面をつけた講師なんて胡散臭さに溢れているだろう。
俺の講義には想像以上に生徒が集まっていた。
ざっと二十人くらいだろうか。
今年初めできた講義にこれだけ人数が集まれば充分だろう。
俺は生徒ひとりひとりの顔を見ていると、俺はある一箇所で視線が止まった。
そこには、顔見知りの者がいた。
(まずい)
俺はその感想が最初に出てきた。
仮面をつけているからバレないはずだ。
だけど言動には気をつけたほうがいいな。
俺は少し気まずい空気の中、口を開いた。
「えー、それでは今から講義を始めます」
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「この講義で講師を務める、ネオンです」
俺は講師の間はネオンという偽名を使うことにした。
「まずこの講義ですが、今年から初めて出来たものなので何をするものか分かっていないと思います。なので最初に軽く説明していきます」
俺は生徒たちに向けて講義の説明を始めた。
「この講義ではダンジョンについて学んでいきます。皆さんもダンジョンについては多少知識があるはずです。もしかしたら、すでにダンジョンに入ったことがある人もいるかもしれない。だけどこの授業は必ず役に立つものにすると誓います」
俺の言葉に数人の生徒が頷いたのが見えた。
「そしてこの授業最後の課題としてダンジョン攻略をしてもらいます。この王都の周辺には初心者用のダンジョンが複数あります。グループをいくつか作り、そこの攻略をしてもらう予定です」
教室に少しのざわめきが起こった。
こういった講義で実践というのは想定していなかったのかもしれない。
だが実践こそが最も学べる機会だと知っている俺は、この最後の課題だけは譲れないものがある。
「初心者用のダンジョンといっても、ダンジョンはダンジョンです。知識なしでは攻略が不可能に近い。だけど安心してください。ダンジョン攻略に必要な知識は僕が全て教えます」
俺には講師としての責任がある。
彼らにダンジョン攻略を課題として出すなら、それをクリアさせてあげる責任がある。
「とりあえず僕の講義はこんな感じで進めていか予定です。今日は質疑応答とダンジョンの基礎について時間を使います。質問がある者は手を上げてください」
早速手が上がった。
二列目の女子生徒だ。
「先生はどうして仮面をつけているのですか?」
その質問が来ることは予想ができていた。
「顔に昔受けた傷がありまして、印象が悪くなってしまいすみません」
「いえ、こちらこそすみません」
俺は事前に用意していた答えを話した。
左眼も傷といえば傷なので嘘ではないはすだ。
だけど、申し訳なさそうな表情の女子生徒をみてこちらも申し訳ない気持ちになった。
次に手を挙げたのは後ろの方に座っている男子生徒だ。
「先生はダンジョンの攻略経験があるのですか?」
「えぇ、ありますよ。複数のダンジョンを攻略したことがあるので、実践的な内容も教えることができます。何か気になったことがあったら、バシバシ質問してください」
それからも質問は続いた。
「先生は何歳なんですか?」
「それは秘密です」
「ダンジョンについてほとんど知らないんですけど、大丈夫ですか?」
「大丈夫です。必要な知識は全て教えますので、初心者ダンジョンには充分挑めるレベルにしてみせます」
他にもいくつか質問がきたが、ほとんどは俺についての質問であった。
仮面をかぶった変な講師から印象は変わっただろうか。
そんな感じで質問のための手は上がらなくなった。
「それじゃあ講義の方に入ります」
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初講義はまずまずの出来だっただろう。
もう少し上手に説明できたかもしれないが、初めてなら充分だろう。
俺は授業の最後に書いてもらった名前を確認する。
来週の講義に何人残ってくれるかわからないが、全員の名前を覚えておきたい。
「それしても、はぁー」
俺は名前を見てため息が漏れた。
『アメリア・イザベル』
その名前がある。
まさかアメリア様がこの授業を受けるとは、想定外だった。
いや、少しはその可能性を考えていた。
彼女は元々ダンジョンに多少の興味があった。
実践経験かはないが、イザベル家なのだからダンジョンについての情報は他の貴族より流れてきていた。
そして俺も彼女にダンジョンの話をしていた。
要は俺が蒔いた種ということだ。
幸い彼女に俺が講師だということはバレていないはずだ。
仮面もつけてるし、一人称も変えている。
最後までバレないよう気をつけよう……
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講義の翌日は休日だ。
そして俺は当然のようにアメリア様から呼び出されている。
あの騒動があったため、俺の眼帯姿の顔は多くの人に知られてしまっている。
今のところ不便にはしていないが、アメリア様の方はどうだろうか。
一応困っていた様子は無かったが、あれだけの宣言をしたのだ。
同年代で居場所がない可能性もある。
そんな心配事を抱えながらアメリア様の部屋を訪れた。
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「アメリア様、あれから問題はありませんでしたか?」
「あれからって、あぁ、あの宣言のことね!全く問題なかったわ。それより聞いて、明日友達と遊びに行くのよ!」
「それは本当ですか?」
「何を疑ってるのよ……。私にも友達くらいすぐにできたわよ!」
俺はとりあえず彼女が浮いてしまっていないことが分かったので安心した。
それしてもあの状況から友達ができるなんて、さすがアメリア様といったところだ。
心配していた自分がバカみたいだ。
「それでどのような方なのですか?」
「可愛い子よ!それにとても強いの!」
「アメリア様がそう言うのなら、相当ですね」
「えぇ、本当に強いのよ!私も彼女だけには全く勝てるイメージが湧かなかったわ」
「その方以外には勝ったのですか?」
「当たり前じゃない!そこらへんのお嬢様とは鍛え方が違うってのよ!多少才能を持つだけじゃ私の相手になんかならないわ!」
アメリア様は俺の方を見ながら、とても楽しそうに話してくれた。
今の話を聞いてなんとなく分かったが、アメリア様があれだけの宣言をして浮かなかったのは実力が共なっていたからだ。
「それでね、ネルク。あなたには明日遊ぶ際に一緒にいてもらいたいのよ」
「邪魔にはなりませんか?」
「それ以前に私一人じゃ、この街を満足に歩けないわ。あなたに私たち二人を案内してもらいたいの」
「分かりました。ただ相手側にも使用人の方がいるのでは?」
俺がアメリア様とそのお友達を同時に案内することは可能だ。
だが相手側にも使用人がいるはずだ。
もしかしたらいい想いをされない可能性もある。
「それなら問題無いわ。その子には使用人はいないらしいの」
「平民の方ですか?それとも誰かの使用人ですか?」
「そういうわけじゃないらしいけど、とにかく使用人はいないらしいの。貴族だからって全員が使用人をつけているわけじゃないから、不思議なことでもないわ」
「確かにそうですね」
アメリア様の言う通り、貴族様がこの学園に来る際に必ず使用人をつけているわけではない。
使用人ように入学の枠を一つもらえるという考え方が一番しっくりくるだろう。
そこに自分たちが利用したいと考えている、才能のある平民などを入学させるという使い方をしている貴族様もいる。
俺はお嬢様からどのようなことをしたいかなどを聞き、明日の予定を一通り組み上げた。
そして午前中の間に下見を終わらせた。
午後は図書館に行き、有意義な時間を過ごすことができた。
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