第15話 入学準備と新たな出会い

「ち、違うのよ!私は人助けをしていただけよ」

「そうですかお嬢様」

「……悪かったわよ」

「はぁー、探すのに苦労しましたよ」

「そんなに私のことを心配してくれたのね!」

「いえ、心配はしていません。だってお嬢様はそこら辺のゴロツキなど相手にならないじゃ無いですか」

「確かにその通りだわ。だけど少しぐらい心配してくれてもよかったじゃない」

「少しは心配しましたよ、迷子になっていないかと」

「迷子って、私をいくつだと思ってるのよ。はぁー、まあいいわ。ネルクが来てくれたのならとりあえずは解決ね」

「何かあったのですか?」

「ほら、そこで気絶してる盗賊がいるじゃない。その拠点に数人の子供たちが囚われていたのよ」


 アメリアが冒険者を盗賊から助けたという話は聞いている。

 正義感の強い彼女のことだ、盗賊を殲滅しようと拠点までついて行ったのだろう。


「人助けをしていたというのは嘘では無いみたいですね。分かりました、今回のことは目を瞑りますからその子たちのところに連れて行ってください」


 俺は気絶させた盗賊の頭を抱えて、アメリアについて行った。



---



 俺はアメリアと共に盗賊の拠点にいた子供達を救い出した。

 拠点の盗賊はアメリアが半殺しにしてしまっていたので、息があるものだけ暇で木に括り付けて戻ることにした。


 子供達と一緒に夜の森を移動したため、街に着く頃には日が登り始めていた。

 俺はアメリアに子供達を教会に連れていくように伝えて、冒険者教会に向かった

 冒険者教会には俺の予想通り盗賊の指名手配が出ていた。

 俺は職員に盗賊の拠点の制圧に成功したことを伝えると、その場所までの案内を頼まれた。

 仕方なくその依頼を引き受けた。

 再び森に入り、盗賊たちの回収をして街に戻ってきた頃には、もう日が沈みかけていた。

結局この日もこの街で過ごすことになってしまった。



---



 こんな風に王都までの道はハプニングだらけであった。

 そのため予定していた1ヶ月を一週間も過ぎて、王都に辿り着いた。

 通常通りならこの半分の日数ほどで辿り着けるので、この旅がいかに酷かったのか目に見えてわかる。


「本当に危なかったわね」

「そうですね。入学式は二日後ですよ!これに懲りたら勝手な外出は控えてください」


 俺たちが王都にたどり着いたのは入学式の二日前だ。

 こうならないように余裕を持って屋敷を出てきたのに、結局はギリギリになってしまった。



---



「ここが学園ね!」


 俺たちは王都の中を進み、学園についた。

 俺が今まで見てきた建物の中で最も壮大だ。

 門で入学証明書を提出すると中に案内された。

 馬車に乗ったまま学園内を移動していく。

 道中で学生を見かけたが、やはり金髪が多い。

 貴族様が多いと分かっていたが、不思議な感覚だ。

 門を通ってから数分後、目的の場所に辿り着いた。


「この一カ月と少しの間、本当にありがとうございました!」


 俺は馬車から荷物を下ろし、御者にお礼を伝える。

 彼にはこの1ヶ月の長旅とてもお世話になった。

 またどこかで会いたいものだ。


「さて、お嬢様行きますよ」

「ねぇ、流石に私が持つ量少なすぎない?」


 俺とお嬢様の荷物の量は7対3といったところだ。


「私は使用人ですから、これぐらいがちょうどいいのですよ」


 俺は荷物を抱えて階段を登っていく。


 この学園は全寮制だ。

 生徒一人一人に専用の部屋が用意されている。

 もちろん俺たちのような使用人にもだ。

 使用人と言っても、そのほとんどが才能のある優秀な生徒なのだから、当然と言えば当然なのかもしれないが非常に高待遇だ。

 ただし、貴族様と平民、使用人は建物が違う。

 これは差別などでは無く、いらぬトラブルを招かないためだ。

 内装自体にはさほど違いはないらしい。


「ここがお嬢様の部屋ですか」


 扉を開けて部屋に入ると中はそれなりに広さがあった。

 お嬢様の事実より少し大きいくらいだろうか。

 何にせよ、充分な大きさだ。

 そして家具も一通り揃っている。

 といっても、非常にシンプルなものなので大抵の貴族様は自分仕様に変えてしまうらしい。



「素敵な部屋ね!!」


 だが、こちらの普通では無いお嬢様はシンプルな家具が大変お気に召したらしい。

 部屋に着くなり、嬉しそうにベットに飛び込んでいる。


 お嬢様が部屋に興味を惹かれている間に、俺は荷物を開封し小物や服などを一通り設置し終えた。


「お嬢様、また後で来ますので」

「えぇ、しばらくゆっくりしているから問題ないわ」


 俺は自分の引っ越し作業を終わらせることにした。

 

 俺たち使用人の寮は平民の生徒と同じ場所だ。

 貴族様の寮からもそれほど離れていない。

 理由は単純、使用人が移動しやすいようにだ。

 俺たちは学生ではあるが、本職は使用人である。

 緊急事態などにすぐ駆けつけれる必要があるため、この距離感で寮が設計されている。


 さて、そんな俺の部屋だが、やはり素晴らしいものだった。

 貴族様の部屋とほとんど同じで家具も揃っている。

 俺は荷物の量も多く無いので、すぐに引越しの作業が終わった。

 本当は少しゆっくりしたいところだったが、お嬢様も動きたいだろうと思いすぐに戻ることにした。



---



「早く行かないと、勝手に寮から出そうだな」


 俺はなるべく急いでお嬢様の元に戻ろうと走って移動していた。

 

(そこの角を曲がれば、)


 俺は角を曲がった。


「キャッ!」

「ウワッ!」


 俺は誰かとぶつかってしまった。


「うっ、大丈夫ですか!?」


 俺はすぐに立ち上がって接触した人に腕を伸ばそうとした。


 だがその行動に移ることはできなかった。


 喉元に数本の槍が突きつけられていたのだ。

 よく見ると立派な格好の男が数人俺を囲んで槍を突きつけてきているのだ。


「えっと、これは、」

「「口を開くな!」」


 これはかなりまずい。

 俺は早速何からやらかしてしまったようだ。

 どうする、なんとかしてここから逃げるか。

 いや、それではより罪を重ねるだけだ。

 なら、どうすればいい……


「槍を引いてください!」


 そんな俺に助け舟を出してくれた人がいた。

 その人の一言で槍は俺の喉元から離れた。


「大丈夫ですか!?私が前を見ていないばっかりに」


 俺の心配をしてくれているのは、衝突した女性だ。

 透き通るほど綺麗な水色の瞳、そして非常に珍しい艶のある黒髪の女性だ。


「いえ、こちらの不注意でした。大変申し訳ありませんでした」

「あっ、えっと、えーと……そんなに畏まらなくて大丈夫だよ。私は貴族様ってわけじゃ無いから」


 彼女は申し訳そうな顔で俺に話しかけている。

 それにしても貴族様でも無いのに、これほどの護衛がついているなんて。

 いや、詮索しないのが身のためだ。


「このようなことが二度と起きないように気をつけます。それでは失礼します」


 俺は早急にその場を立ち去った。



---



「遅かったわね」

「ゆっくりしていいと言ったのはお嬢様じゃないですか」

「そのお嬢様ってやつ、二人きりの時に言われてもなんかイライラするわ」

「そうですか?お嬢様」

「んー、いつも通りに戻しなさい!」

「分かったよ、アメリア」

「相変わらず、切り替えが早いわね!」


 正直俺もこっちの方が気が楽だ。

 学園生活では使用人の姿でいることの方が多いだろうが、二人からの時ぐらい砕けさせてもらおう。


「にしても、こんな距離感の主従関係他には絶対ないだろうよ」

「そうかしら?」

「普通、貴族令嬢というのは使用人を顎で使うだろ」

「確かにそういう人もいるかもしれないわ。だけど私とあなたはそういう関係では無いでしょ」

「確かに、俺は代わりだからな」

「そうね。あなたは代わりよ。だから一生懸命使用人として使えるのよ。だけど同時に私の友人でもあるのだからね」

「そうだな。俺にとっても大切な友人だ」


 俺とアメリアは主従関係だ。

 だが同時に友人でもある。

 同い年で、何年も稽古を一緒にしている仲を友人という言葉以外で何と表せばいいのだろうか。

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