第14話 旅立ち
あれから一週間が経過した。
「それではお父様、行ってきます」
「しっかりと学んできなさい」
アメリアお嬢様は今日、学園に向けて旅立つ。
イザベル家は長女が既に学園に通っていたので、入学の準備で困ることはなかった。
「ネルク君、アメリアのことを頼んだよ」
「任せてください。お嬢様の学園生活を素晴らしいものにして見せると約束します」
「そうだな。君がついていてくれるなら安心だ。だが君は才能を持っていない。私は才能が全てでないことも、君がどのような人間かも知っている。しかし、学園では辛い思いをすることが多いかもしれない」
「大丈夫よ、ネルクが大変な時は私が助けるわ」
「お嬢様、ありがとうございます」
「本当に二人は仲がいい。どうだいネルク君、アメリアの婚約者にならないかい?」
「お嬢様にはきっと素敵な人ができますよ」
「そうか。次に会える時を楽しみにしているよ!」
俺たちのお見送りには屋敷中の人が集まってくれた。
俺の彼らとしばらく会えなくなるのは寂しいが、既に心の準備はできている。
「それじゃあ行ってくるわ!」
俺とお嬢様は馬車に乗り込み屋敷を出た。
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「それでネルク、ここから学園まではどれくらいかかるの?」
「馬車で1ヶ月ですね」
「そんなにかかるの!?」
「ここはバターリャ領でも辺境寄りの土地です。学園がある王都まではそれぐらいの時間はかかるものです」
「それは楽しい旅路になりそうね!」
お嬢様はポジティブだ。
学園生活でもこのマインドを保ち続けてほしい。
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「そろそろ街を出る頃ですね」
俺たちは屋敷を出て、街中を通って出て行く。
馬車になっていたからだろうか、今日の街はやけに静かに感じた。
そう思っていたら馬車がゆっくりと止まった。
「どうかしました?」
「アメリア様、ネルク様、外にお客様がいらっしゃいます」
「え?」
俺は慌てて外に出た。
そこは街の入り口だった。
そして俺たちが通ろうとしている門の前には、大勢の人々が集まっていた。
教会の子供たち。
市場の商人。
酒屋のマスター。
冒険者ギルドの者。
本当に大勢が集まっていた。
「すごいわね!」
お嬢様は隣で感嘆の声をあげている。
「皆さんどうしてここにいるんですか!?」
「ネルクが学園に行くって神官様から話を聞いたんだよ!」
市場のおっちゃんが元気よく答えてくれた。
どうやら神官様が街中に話を流していたらしい。
「何も言わずに出て行くなんて水臭いぞ!」
「そうだぞネルク!」
「また戻ってきた時は、ご馳走してくれよな!」
「「お兄ちゃん、また遊んでね!」」
とても温かい言葉が俺にかけられた。
俺は村も家族も全てを失った。
だけどここが俺の今の故郷、そしてみんなが俺の家族のような者だ。
「みなさん、ありがとうございます!俺はこの街で生活できて幸せでした。この5年間、本当に楽しかったです。それじゃあ、行ってきます!!」
俺は馬車に乗り込むと、窓から顔を出した。
そして街が見えなくなるまで手を振り続けた。
「愛されてるわね」
「本当ですね」
俺は笑顔で応えた。
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「ここが王都なのね!」
「アメリア、顔を窓から出すな!!」
俺は馬車の窓から顔を出そうとしているアメリアを押さえ込む。
「いいじゃないの、少しぐらい街中を見ても」
「窓から顔を出さずに見ればいいだろ。学園入学前に悪目立ちすることになるぞ」
「案外気が小さいのね」
「アメリアが大きすぎるんじゃないか?」
1ヶ月も馬車に乗って行動していると、自然と口調は軽くなったしまった。
元々二人きりの時はこんな感じで喋るように言われていたが、これだけ長い間この口調でいたため、戻せるか不安になっている。
「それにしてもこの1ヶ月、色々あったわね!」
「ほとんどお嬢様の責任ですよ」
俺は一応口調を元に戻して対応することにした。
お嬢様の言うとおり、この1ヶ月の旅路ではいろいろなことがあった。
そのほとんどがお嬢様が余計なことに首を突っ込んだから起きてしまったことだ。
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お嬢様は元々何事にも興味を示す性格だった。
俺の村に来たのも、同年代の天才と言われる少年を見るためだ。
そのためだけにあんな辺境まで着いてきたのだ。
それはあの災悪の時も同じだそうだ。
とにかく、お嬢様は刺激的な体験が大好きなのだ。
だがここ数年、それは鳴りを顰めるかのように、貴族令嬢として生活していた。
それがこの旅で解き放たれてしまったのだ。
あれは出発してから四日目のこと。
既に馬車での移動にお嬢様は飽きがきていた。
俺が王都までの時間を一ヶ月と言ったのは、本来のものより長めだ。
お嬢様はところどころで体を動かしたがるのを見越して、出発を早めたのだ。
そしてその予感は的中した。
俺たちはその日、とある街を訪れていた。
今夜はこの街に止まらことが決まり、俺が宿を取りに行く間お嬢様には馬車で待っていてもらった。
それが失敗だった。
俺が宿を確保して馬車に戻ると、御者の人が慌てて駆け寄ってきた。
「ネルク様、アメリア様の姿が見えません!!」
「それは本当ですか!?」
俺は馬車に慌てて乗り込んだ。
そこで持ち物を確認すると、お嬢様の愛用している剣がないことに気がついた。
俺はやられたと思った。
(いや、これは俺のミスだ。アメリアの精神状態を性格に把握できいなかった)
彼女のストレスが限界を超えそうになっていることに気がついていれば、早めに対策できたのだ。
「すみません、俺はアメリアを探しに行きます。あなたは宿で待っていてください」
俺は御者に幾らかのお金を渡した。
できれば今日中にアメリアを探し出したいが、最悪この街に数日滞在する可能性もある。
俺はすぐに情報収集に動いた。
情報は意外にもすぐに集まった。
俺が最初に頼った冒険者ギルドで有益な情報が手に入ったのだ。
アメリアに助けられたと言う少女がいたのだ。
詳しい話を聞くと、魔物狩りに行っていたところ盗賊に襲われてしまったという。
そこをアメリアに助けられた流してもらったそうだ。
だが盗賊は数が多く、それに対してアメリアは一人でなかったそうだ。
アメリアは強い。
それは俺が自信を持って言える。
盗賊ごときでは相手にならないだろう。
だがアメリアのことだ、何かやらかすはずだ。
俺はその少女に場所を教えてもらって、すぐに向かった。
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既に日は沈み、夜の静かな森に移り変わっていた。
俺は月明かりを頼りに盗賊の拠点を探していた。
今回の捜索対象がアメリアだけあって、他の冒険者に協力をお願いすることは難しかったのだ。
「くそーー!!」
突然俺の目の前から一人の男が現れた。
ひどく何か怯えた様子だ。
だが俺はその男の服装を見て、どうするべきか判断した。
「何者だ?」
「ちっ、あの女の仲間か!そうだ、こいつを人質に取れば…」
男の反応を見て俺は剣を抜いた。
「おっと、素人が俺に勝つつもりか?俺様はこれでも元王国兵だぞ!」
そう言いながら目の前の男は剣を抜いた。
男の言葉に嘘はないようだ。
見た目と違い、その構えは綺麗だ。
「ん?お前隻眼か。なら、楽な勝負だな!」
男は俺が眼帯をしていることに気がつくと、一気に距離を詰めてきた。
そして剣をおおきく振りかぶってきた。
俺はそれを受け止めて跳ね返す。
「おっと、やるじゃねぇーか。なら、こいつはどうだ!」
男は大きく跳躍した。
そして上から一撃を叩き込もうとしてくる。
それに合わせるように俺は守りの体勢を取る。
「そうくるよな!」
男は空中で俺に向かって剣を投げつけてきた。
そしてそのまま腰から短剣を取り出して、こちらに向かってきている。
不意をつきにきた一撃だろう。
だが俺は冷静に投げられた剣を受け流した。
そして短剣に持ち替えて攻めてきた男の手首を切り落とした。
「グワァー!」
「うるさい」
俺は喚く男の頭を鞘で叩き、気絶させた。
そして死なれないように止血をした。
「ここにいたのね!」
俺が男の止血処理が終わったところに、何者かが仕掛けてきた。
俺はそのよく知った動きを受け流してみせた。
「やるわね!次はこうはいか……」
仕掛けてきた女性は俺を見て固まった。
「お嬢様、こんなところで何をやっているのですか?」
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