第12話 目覚めと変化
アメリアお嬢様が部屋を出てから使用人の方が食事を持ってきてくれた。
それを食べ話終わってから数分後……
「失礼するよ」
ノックと共に部屋に複数の大人が入ってきた。
「回復したようで良かった」
その中の一人が俺に話しかけてきた。
俺はその人を知っている。
彼は領主様だ。
「君にはいくつか話を聞かないといけない。まずは、災悪について聞きたい」
俺は自分が見てきたことを全て伝えた。
災悪が起きたこと。
裂け目から悪魔が出てきたこと。
その悪魔と兄が戦ったこと。
そして気がついたら俺の以外周囲には何も残っていなかってことを。
「そうか。ライオットはそのために……」
「兄について何か知っているのですか!」
「私たちも詳しいことは知らない。彼はこの二年私の元でよく働いてくれたよ。彼は才能に恵まれていた。それでも誰よりも努力を欠かさなかった」
俺が知っている兄そのものだ。
「私は彼に聞いたことがある。どうしてそこまで努力し続けるのかと。それほどの才能があれば、大抵のことはなんとかなるのではないかと。そしたら彼はこう答えたのだ」
領主様は俺の方を真っ直ぐ見てきた。
「弟に負けないためだと。私は君が才能を持っていないことを知っていた。天才と言われるライオットが、無能な弟に負けないために努力し続けていると聞いた時はどんな冗談かと思ったよ」
この話には俺も驚いた。
俺はライ兄と一緒にいるためにずっと鍛錬を続けてきた。
そのライ兄が俺に負けないために努力し続けていたというのは不思議な感じだ。
だがとても嬉しい気持ちになった。
「だけど私の言葉を否定した者がいたんだ。誰か分かるかい?」
「いえ、分かりません」
「私の娘のアメリアだよ。あの子は君のことをすごいやつだと言っていたよ。君は必ず強くなるって、だからライオットは本気だと。実際君はあの子に剣で勝ったそうじゃないか。あの子の人を見る目は正しかったようだ」
「あれはたまたまですよ」
「それでもだ。才能の有無を覆すことは難しい。それを君は成したのだ。もっと自信を持ってくれ。でなければ、あの子が可哀想だ」
「分かりました。俺はこれからも鍛錬し続けます」
俺の返答に満足したようで領主様は笑顔を見せた。
「それしても君は本当にライオットに似ているな」
「双子ですから。それでも所々違うところがあるんですよ」
「そうだな、眼の色が彼とは違う。後は髪色が君の方が暗めだな」
「元々は兄も僕と同じ茶色の眼だったのですが、兄の才能が開花した時になぜか眼の色も変わってしまったんですよ。もしかしたらその眼に未来を見る力が宿っていたのかもしれませんね」
俺は兄との違いや、昔の話を伝えた。
それに対して領主様は不思議そうな顔をしていた。
「どうかしましたか?」
「いや、今君は自分の目が茶色だと言ったか?」
「はい。兄も昔はこの色だったのですよ」
「おい、どういうことだ」
領主様は突然隣にいた白衣の者に耳打ちし始めた。
そしていくつか質問をした後、白衣の者は部屋から出て行った。
そしてすぐに一つの姿見を持ってきた。
「ネルクよ、落ち着いて聞いてくれ。君の瞳は茶色ではない」
「え?」
そういうと俺の前に姿見が置かれた。
そこに映る人物は確かに俺であった。
左目を眼帯が覆っている。
顔に傷などは残っていないようだ。
ただ一つ問題があった。
「この眼、どういうことですか」
「医者の話では異常はないそうだ。まるで元からその色であったかのように不自然なところは一つもないそうだ。だが、君の知っている色ではないのだろう」
鏡の中の俺は右眼が綺麗なピンク色になっていたのだ。
俺なのに俺ではない。
脳内で処理できないような不思議な感覚だ。
「どうして……」
俺は領主様の方を見たが首を振られてしまった。
理由は分からないようだ。
(まぁ、眼の一つくらいなんともないか)
俺は一瞬困惑したが、すぐに現状を受け止めた。
考えてみれば兄も突然眼の色が変わった。
家系的にそういう特性なのかもしれない。
「眼の色一つくらい問題ないですよ」
「それが一つではないのだ」
「え?」
俺は領主様の言った事が左目である事にはすぐに気がついた。
「あのー、目はついていますよね?」
「ついてはおる」
「確認してもいいですか?」
俺の問いには領主様の隣にいた白衣の者が頷いた。
俺は恐る恐る眼帯を外す。
まだ左目は閉じたままだ。
俺は一つ大きく深呼吸をして、目を開いた。
鏡に映った左眼はとても綺麗な青色をしていた。
「ライ兄……」
その眼の色はあまりにも似ていたのだ、ライ兄に。
「うっ!」
俺は突然左目に強烈な痛みを感じた。
左目から流血していることに気がついた。
「おい、大丈夫か!」
突然目から血を流した俺に領主様が駆け寄ってきた。
「大丈夫です。この前みたいに気絶することはないですよ」
俺はアメリアとの戦いの後、左眼から流血して気絶した。
だが今回はそんなことはなさそうだ。
---
「左目を使うとそのような症状に陥ってしまうのか……」
俺の流血が治った後、医者によって確認が行われたが、特に異常なところ見られなかった。
「君の眼は最悪によって何かの影響を受けてしまったと考えた方がいい。特に左眼の使用は控えないと、命に関わる可能性もある。不便だと思うがこれからも眼帯をつけて生活した方がいい」
最終的な結論は、俺が左目を使用しないということでまとまった。
「君は災悪唯一の生き残りだ。だが特別何かをしてもらうつもりはない。これからの人生は君のものだ。しかし君はまだ10歳だ。教会に保護してもらうのが賢明だろう。とりあえず今日は部屋を用意してあるからそこで過ごすといい。まぁ、用意してあると言ってもそこは元々ライオットの部屋だからそのまま使ってくれ」
「ありがとうございます」
領主様は二人の使用人を残して部屋を出て行った。
俺はこれからどうすればいいのだろうか。
家も無いし、家族もいない。
領主様の言うとおり、教会に入るしか選択肢がないのだろうか。
いっそのこと冒険者になるか?
いや、俺の年齢じゃ使ってくれる人もいない。
そもそも才能のない奴を欲しがる冒険者なんかいない。
そんなことを考えながら使用人と共に移動た。
---
「ここがライ兄の部屋か」
俺は使用人に案内されて今夜過ごす部屋に着いた。
夕食は後で部屋まで持ってきてくれるそうだ。
部屋に入るとそこはあまり生活感のない場所だった。
ライ兄の性格から何か物を置くタイプでは無いことは分かるが、それでも本当に最低限の家具しかない。
俺はベットにもたれかかって天井を眺める。
いろいろなことがあった。
正直まだ現実を受け止められていない。
寝て起きたら、いつものベットな気もしてくる。
でもこれが現実だということは分かる。
あの光景が眼に焼き付いているからだ。
俺はこれからどうすればいいんだろう……
俺は疲れの中姿勢を変えてベットで横になった。
「ん?」
俺は机の下に何かが落ちているのが見えた。
ベットから起き上がり、それを手にする。
「これは……」
---
目が覚める。
体に習慣が染み付いている。
俺は部屋から出て外に向かう。
屋敷には使用人の他に、警護をしている兵がいる。
その人に許可をとり、俺は屋敷の周りを走り始める。
4周で大体いつもの距離になった。
領主様の屋敷の敷地は大きい。
丘に立っているようで、一歩門の外に出ると美しい街並みが広がっていた。
早朝の走り込みを終えたら素振りの時間だ。
流石に真剣を使うのはまずいと思ったので、部屋にあった木刀を使う。
これは兄が使っていたものだ。
「何をしているのですか?」
剣を振り始めて1時間ほど経過したころ、屋敷から少女が出てきて声をかけてきた。
「おはようございますアメリアお嬢様。早朝の鍛錬をしていました」
「そう、なら私もやるわ」
「分かりました」
俺は用意してあったもう一本の木刀を彼女に渡す。
「随分用意がいいのね」
「そういうお嬢様も鍛錬に適した格好ですね」
「たまたまよ」
お嬢様は寝起きには見えない格好をしていた。
「いつも兄と打ち合っていたのですね」
「どうしてそのことを知っているの?」
「兄から置き手紙がありました」
「そう、ならいいわ。早くやりましょう」
彼女はあっさりと納得して、木刀を手持った。
それから俺たちは30分ほど打ち合った。
---
「流石に疲れたわ」
「俺もです」
俺は彼女に着いていくので精一杯だった。
俺たちは二人揃って芝生の上に寝転がって空を見上げた。
すでに日は上り、済んだ空が広がっている。
「アメリアお嬢様、一つお願いがあります」
「二人きりの時はもっと気楽に話しなさい」
「分かったよ」
「それでいいわ」
彼女は満足そうに笑っている。
「それでお願いって何よ」
「俺をここで働かせてください」
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