第8話 互いの成長

「それでライ兄、このオーガはどうしたの?」

「あぁ、こいつか。こいつは途中で俺の馬車を襲ってきたやつの生き残りだよ」

「それじゃあそのオーガの群れは?」

「もちろん全て俺が倒しておいた。でもそれで馬車が壊れちまったから、徒歩で来ることになっちゃったけどな!」


 さすがライ兄だ。

 オーガはそんな簡単に倒せる魔物ではない。

 それを群れ単位で倒すなんて……


「なぁ、ネルク。あれから剣は続けてるか?」

「もちろんだよ!」

「そうか。なら俺と打ち合わないか?」

「え?」

「強くなったんだろ」

「うん!」


 俺は兄と剣を打ち合えることが嬉しかった。

 実力差はもちろんある。

 兄には特別な力もある。

 それでも、嬉しいのだ。


「その剣、父さんのやつか?」

「うん。なまくらだって言ってたけど、全然そんな気がしないんだよね」

「そうか。その剣は、ネルクが貰ったか……」

「ん?なんか言った?」

「いや、なんでもないよ」

「そんなことより、さっきオーガを切り裂いた剣、前はあんなの持ってなかったよね!」

「あぁ、こいつか。これはとあるダンジョンで手に入れたものだ」

「ダンジョン!?」


 ダンジョンとは世界各地に点在している洞窟のような場所だ。

 そこは魔力が溢れており、魔物の巣窟となっている。

 魔力結晶の主な産地でもある。

 そしてダンジョンの最大の特徴は、宝箱だ。

 ダンジョンには宝箱と呼ばれる強力なアイテムが入った箱がある。

 どうしてそのようなものがあるのかには様々な説があるが、有力なのはダンジョンが人間を誘き寄せるためという説だ。

 ダンジョンは一つの生き物のようなもので、人間が内部で死ぬことでエネルギーを得ていると言われている。

 なら、宝箱は俺たち人間にとっては餌同然だ。

 そんなダンジョンから手に入れた剣だというのなら、素晴らしい剣なのだろう。




「準備はいいか?」

「バッチリだよ」


 俺は父から貰った剣を構える。

 兄と向き合って改めて分かったが、二人の間にはとんでもない実力差がある。

 もし、兄が俺に対して殺気を込めたら、俺は一歩も動かずに斬られただろう。

 だがこれは双子による模擬戦だ。


 俺は息を整えた。

 

「行きます!」


 俺は兄への距離を一気に詰めた。

 そして全力の一撃を叩き込んだ。


「おっ、いい一撃だ」


 兄は口ではそう言っているが、片手で受け止めている。

 そして俺を弾き飛ばした。


「今度はこっちから行くぞ!」


 俺はその瞬間、咄嗟に寒流派の構えをとった。

 兄が消えた瞬間俺は軌道を予想してなんとか受け流そうとした。

 だが俺の手は既に兄によって抑えられていた。


 勝負は終わった。



---



「強くなったな、ネルク」

「何もできなかったけどね」

「俺にはお前の努力が伝わったよ。最初の一撃、あれは勢流派の構えから一気に激流派に切り替えた一撃だ。そして俺の攻撃に対しては寒流派の構えでカウンターを狙いに来た」

「ライ兄には全部わかっちゃうか」

「全て基本の型だが、これだけ綺麗に動けるやつはそういない。本当に頑張ったんだな」

「ライ兄……」


 俺は兄の一言で全ての努力が報われた気がした。


 毎日剣を振り続けるのは辛かった。

 自分だけでは成長してることもあまり実感できない。

 剣を振り続けると分かった、目標としてる人物との差が。

 でも今認められたのだ。

 だから自然と涙が溢れたのは仕方のないことだった。



---

 


「なぁ、ネルク。今から森に遊びに行かないか?」

「え、今から?」

「あぁ。昔よく遊んだあの森覚えているか?」

「もちろん覚えているよ。この前父さんと魔物狩りに行ったんだよ!」

「それは楽しそうだな」

「今度は三人で行こうよ!」

「そうだな……。俺は一度父さんと母さんに顔を見せてくるよ。ネルクは先に森の入り口に行っててくれないか?」

「何か必要なものある?」

「特にないかな。もし魔物が出た時用に、その剣は持ってきてくれ」

「それじゃあ剣を振って待ってるね!」


 俺は兄が両親と話が終わるまで森の入り口で剣を振って待つことにした。



---



 1時間ほどして兄は森の入り口に来た。


「待たせたな」

「気にしなくていいよ、剣振ってたし」


 俺にとってはちょうどいい素振り時間だった。


「やっぱ久しぶりに会うと嬉しいものだな」


 兄は目をこすりながら笑っていた。

 その目元はかすかに赤かった。


「それでどうして森に遊びに行くの?」

「懐かしいからな。ほら、俺のこの力が目覚めたのもこの森だろ」

「そうだね。あの時ライ兄がいなければ、」

「それは俺も一緒だから言わなくていいよ」


 懐かしい感じの会話に自然と笑みが溢れる。


「せっかくだし魔物の一匹でも狩って帰ろうよ!」

「そうだな、それもいいかもな」


 兄がいれば魔物くらい余裕だ。

 俺は自信を持って森へと入っていった。



---



 その日の森の様子はおかしかった。

 魔物の数が多いのだ。

 確かにここ最近は魔物の数が増えている。

 だが明らかに異常な数が俺たちに向かってきた。

 しかし全ての魔物を兄が切り伏せた。

 俺はその光景を見て恐怖より、兄への憧れが勝ってしまった。


「ねぇ、どこまで行くの?」

「目指してるのは昔俺たちがあの魔物に襲われたところだよ」

「どうしてそんなところに行くの?」

「それはついてから教えるよ」


 兄の様子には少し違和感を感じた。

 だが俺は彼についていくことにした。



 そんな風に魔物を倒しながら森を進み続けて、目的地の近くまで来た。

 そこは木々が不自然に生えていない。

 だが見覚えのある場所だ。

 俺と兄が魔物に襲われた場所だ。

 当時とはかなり変化している。

「ここらでいいか」


 兄はそう言って足を止めた。

 そして俺と向き合った。


「今からいうことを聞いてくれ」

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