第7話 再開は唐突に
父と共に魔物狩りに出かけてから、1ヶ月の月日が過ぎた。
今では三日に一度ほど父の魔物狩りに同行している。
そして魔物狩りの後には父から直接剣を教えてもらっている。
誰かと剣を打ち合うことなどこの2年間ほとんど無かった。
父と打ち合っていると、どうしても兄の顔が浮かんでしまう。
懐かしいあの笑顔が……
---
そんなある日だった。
俺たち家族の元に一通の手紙が届いた。
この村はバターリャ領の辺境に位置している。
そのため手紙は月に一度くる行商人が持ってきてくれるのだ。
「手紙か、珍しいな…」
我が家に手紙が届くのは初めてのことだ。
「差出人は……!この手紙ライオットからじゃねぇか!」
手紙の差出人は兄のようだ。
兄は今まで一度も手紙など送ってこなかった。
二年間で一度もだ。
「あいつに何かあったんじゃねぇだろうな!」
父は急いで封を切っている。
俺も兄が手紙をよこすことにどことない不安を感じた。
兄の身に何かあったのだろうか。
もしかして屋敷から追い出されてしまったとか。
いや、兄のことだ、まずそんなことはありえない。
手紙を読み始めた父が目を見開いた。
そして震え始めた。
「ラ、ラ、ライオットが、ライオットが……」
俺の予感は当たってしまったのだろうか。
俺は最悪の状況を覚悟した。
「ライオットが帰ってくるぞ!!」
「ほんとうですか!」
俺は父の言葉に咄嗟に反応した。
「あぁ本当だ。俺は母さんに伝えに行ってくる!」
父は手紙を机に置いて急いで外へ出て行った。
あまりに一瞬の行動だった。
とりあえず俺は手紙を読んでみることにした。
内容は至って普通のものだった。
二年が経過したので帰省するということ。
それがいつ頃になるかといった内容だった。
だがそこに問題があった。
「これ明日じゃないか!!」
そう、手紙に書かれていた兄の帰省日は明日だったのだ。
月に一度しか届かないのだから、事前に知れただけ良かったのだろう。
だがもう少し早めに出して欲しかった。
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兄の帰省を知った我が家は急いで準備に取り掛かることになった。
といっても、こんな田舎の村ではやれることは限られている。
村の人に兄が帰ってくることを伝え、家を飾り付け、少し豪華な食事を用意することぐらいだ。
俺は父が帰ってくるとすぐに食材の調達へと向かった。
そして一日かけて充分な量の食材を集めた。
家の飾り付けも日が暮れる頃には完成した。
「それにしても、あの子急に帰ってくるなんてどうしたのかしら」
「元々2年間は仮という形で領主様の屋敷にいたんだ。これからどうするか分からないが、温かく迎えてやろう」
夕食中の話題は兄についてだった。
この2年間どんなことをしていたのか、どれくらい強くなったのか、向こうの生活には慣れたのかなど、話題は尽きなかった。
兄についての話題しか流れない食事も久しぶりだ。
だが前と違って今は俺もその会話に混じっている。
会話をするたびにあなたの思い出が浮かび上がってくる。
その日の食事はいつもよりゆったりと時間が流れた。
食後は日課である剣の素振りを行う。
兄を迎える準備は日中で終わった。
「ライ兄、どれくらい強くなってるんだろう」
今でも兄の凄さはしっかりと記憶に残っている。
今の俺の実力でも二年前の兄の足元にも及ばなかっただろう。
そんな兄が2年間も領主様の元にいたんだ。
俺は期待で胸を踊らされている。
「また一緒に遊びに行きたいな」
その日の素振りはいつもより多くの汗が流れた。
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「俺ライ兄を迎えに行ってくるね」
「いつくるか分からないんだぞ。家で待っていればいいんじゃないか?」
「それでも一番に出迎えたいからさ!」
「そういうことなら行ってくるといいわ」
「うん、そうするよ」
「全くお前はいくつになってもお兄ちゃんのことが好きだな」
「双子だから歳も変わらないのに、お兄ちゃん子だわ」
「そういえば歳が変わらないんだったな」
「えっ、忘れていたんですか!」
「いや、ライオットのやつがしっかりしていたからよ……。でも、今のネルクなら納得ができる。お前は努力を怠らないし、前を向き続けることができる強い男だ。ライオットもネルクも二人とも俺の自慢の息子だ!」
「父さん、恥ずかしいって」
急に俺に抱きついてきた父さんから逃れるように自分の部屋に向かった。
そして父からもらった剣を持ち出した。
「それじゃあ、ライ兄を迎えに行ってきます!」
「おう、行ってこい!!」
「気をつけてね!」
「はい!」
俺は二人に元気よく返事をして村の入り口へと向かった。
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兄を待ち始めてから2時間ほど経った頃、村の入り口から続いている道の先に何やら影が見えた。
「あれ、ライ兄かな?」
俺は目を凝らしてその影を見つめる。
その影はどんどんこちらに近づいてくる。
「ん?あの影、なんかデカくないか?」
俺はそこで違和感に気がついた。
影が大きすぎるのだ。
距離から考えて兄の3、4倍はある。
それの正体に気がついたときには、もう遅かった。
「オーガ!!」
その影の正体はオーガだったのだ。
強力な魔物として知られるオーガは、凄腕冒険者がパーティーを組んで討伐しなければいけないと言われている。
「やるしかないか……」
オーガは一直線にこの村に向かってきている。
もうこの距離まで近づかれてしまっては、助けを呼びに行く時間はない。
正直無謀だ。
万に一つも俺が勝てる可能性はないだろう。
でも、村には戦えないものも多くいる。
なら、やるしかないだろ。
俺の命一つでオーガを手負にさせてやる。
そしたら父が、母が、必ずトドメを刺してくれるはずだ。
「親不孝でごめんなさい」
俺は覚悟を決めて剣を握った。
オーガがどんどん近づいてくる。
その距離200
額から汗が流れる。
距離100
距離50
……
「えっ?」
オーガはそこで足を止めた。
いや、動けなくなったように見える。
そして次の瞬間、
オーガの体は上下真っ二つに裂けた。
俺は倒れたオーガの先に見えた人物に涙が込み上げてきた。
背は俺と同じくらい。
髪の色も俺と同じ。
だがその眼は美しい青色。
「久しぶりだなネルク!」
「ライ兄!」
俺は目の前に来たライ兄に飛びついた。
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