第6話 魔物狩り

 今日は初めて父と魔物狩りに出かける。

 朝食を食べ終わった後、すぐに準備を整えて外に出た。

 朝の鍛錬もいつも通り行い、体の調子もいい。


「ネルク、これを使え」


 俺は外で待っていた父から一本の剣を受け取った。


「昔俺が使っていたやつだ。なまくらだが、魔物狩りくらいできるだろう」

「ありがとうございます」

「ふっ、気にするな。早く行くぞ」


 俺は父からもらった剣を腰に携えてその背中を追った。



---



「今日はこの森に行くぞ」

「ここは……」

「お前にとっては嫌な思い出がある場所だな」


 父に連れられて辿り着いたのは村から少し離れた森だ。

 小さい頃何度か来たことがある。

 だがあれ以来、一度も来ていない。


 そう、あの魔物に襲われて以来一度もだ。


(思っていたより大丈夫そうだ)


 俺はこの森に来たら震えが止まらなくなると思っていた。

 だが、心は落ち着いている。

 今までの鍛錬や知識が自信につながっているのだ。

 

「大丈夫ですよ、父さん」

「そうか、なら行くぞ」


 俺は父の背中を追って森へと入った。



 森は静かだ。

 だが緊張感がある。

 俺は魔物の怖さを知っている。

 だから気を張ってしまうのかもしれない。


「来るぞ!」

「はい!」


 父が警戒した方を俺も見る。


「「グオォー!!」」


 木の影から魔物が飛び出してきた。


「三体いるぞ!」


 現れたのはフォレストウルフだ。

 一般的に知名度の高い魔物で、その毛皮は丈夫だが加工がしやすく、多くのものに活用されている。

 動きは早いが、基本的に単調。

 特徴は鋭い爪、そして牙だ。


「一体任せた!」

「はい!」


 俺の方に一匹向かっている。

 一瞬にして距離を詰めてくるが俺は落ち着いて剣を構える。


 フォレストウルフが鋭い爪で切り裂きにくる。

 俺はそれに剣を合わせて受け流す。

 フォレストウルフと俺がすれ違う形になる。

 互いの距離が少し開く。

 すぐに距離を詰めてくる。

 だが今度は牙で俺の喉元を噛みつきにきた。

 その動きが来ることが分かっていた俺は剣を上段に構えていた。

 そして迫り来る頭を切り落とした。


「大丈夫か!」

「こっちは終わりました」

「そうか。俺の方も片付いた。それにしても、一人で仕留め切るとはやるじゃないか!」

「この魔物の倒し方を知っていただけですよ」


 フォレストウルフは知名度の高い魔物だ。

 その特徴は本などに細かく記されている。

 動きは単調だが、知能が低いわけではない。

 自身の武器に自信があるのだ。

 その武器が通用しないと分かったらすぐに別の行動に移る。

 それを知っていれば、対応するのは難しくない魔物だ。


「それでも初実戦でこれだけ動ければ充分だ。よくやった」

「ありがとうございます!」

「それじゃあ倒した奴はこの袋に詰めてくれ」


 俺は父から袋を一つ渡された。

 この袋は特殊な魔道具で、見た目と容量に大きな差がある。

 どれくらいの容量が入るかは知らないが、一日の狩りで仕留める量くらいなら余裕で入るらしい。

 非常に高価なもので村に一つしかない。

 十年ほど前に村の全員で買ったらしい。


 今倒したフォレストウルフ三体もすんなりと袋に入った。


「それにしてもこんな森の入り口で出会うとはな」

「確かにおかしいですな。ここら辺なら子供でも遊びに来る場所ですよ」


 俺たちが魔物と遭遇したのは森に入ってすぐの場所だった。

 兄と何度も遊んでいた場所だ。


「最近こういうことが多い。村の周には森に近づかないように伝えてあるが、ずっとこのままというわけにはいかないな」

「何か原因が……」

「ネルク、何か分かるか?」

「いぇ、わからないです」

「そうか、ネルクでも分からないか。いつも本を読んでるお前なら何か分かるかと思ったが」

「また調べておきます!」

「あぁ頼む」


 知識は役に立つ。

 今の魔物との戦闘でもそうだった。

 村長の家にあった本の中に、この森に起きていることを解決する何かしらの情報があるかもしれない。


「とりあえず今気にしても仕方ない。狩を続けるぞ」

「はい!」



---



 その後俺と父で魔物狩りを続けた。

 魔物の数は多かったが、危うくなる場面は一度もなかった。


「今日はたくさん狩ってきたな」

「俺の息子がいたんだ。当然だな!」

「ネルク君も一緒に行ったのか。本当に強くなったな!」

「ありがとうございます。解体手伝いますよ」


 狩を終えて、魔物を解体するために村に戻ってきた。

 そして何度か手伝いをしたことがある解体作業に取り掛かった。


 今日の成果は、

 フォレストウルフ八体

 サイレントバート五羽

 ビッグボア二体


 ここ最近では一番の成果だ。


「あれ、また魔力結晶……」


 俺は解体をしていたフォレストウルフの中から魔力結晶を見つけた。


「また見つけたのか!かなりの豪運だな!」

「そうですね……」


 豪運と言えばその通りなのだろう。

 だが俺はそんな一言で片付けていいとは思えない不安を感じた。


 解体作業が終わったので俺は家に帰ることにした。

 一日森で狩をしていたためもうすぐ日も落ちそうだ。



---



「おっ、帰ってきたかネルク!」

「父さん?」


 俺が家に戻るとそこには木刀を持った父が待っていた。


「少し打ち合わないか?」

「わ、分かりました!」


 俺は急いで自分の部屋に戻って木刀を持ち出した。

 父と打ち合いをするなんて久しぶりだ。

 剣の型を教えてもらうことは何度かあったが、打ち合いとなるともう三年はやっていないだろう。


「今日の魔物狩りでお前の動きを見ていくつか修正した方がいいところがあった」

「見ててくれたんですか!?」

「まあな、それより早く木刀を構えろ!」

「は、はい!」


 俺は木刀を構える。


「まずは基本の型からだ!」


 俺は夕食ができるまでの間、父に剣を習った。

 その時間はとても大変だったが、とても楽しい時間だった。

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