第3話 兄の力
早朝は一人で素振り。
日中は村長の家で読書。
夕方は体力作りと素振り。
それが僕の日課だ。
こんな生活を3ヶ月ほど続けている。
選定の儀からずっとだ。
兄は父と共に毎日のように魔物狩りに行っている。
最近妙に村が潤っているのは兄が倒した魔物が良い値で売れているからだろう。
最近は魔物についての知識も増えてきた。
兄が討伐している魔物が何か、どれくらいの価値があるかが分かってきた。
だけど今のところなんの役にも立てていない。
一度父に一緒に連れて行ってもらえるようにお願いしてみたが、ダメだった。
理由は能力不足。
もっともな理由だ。
僕にもっと力があれば……
才能があれば……
いや、そんなことを考えても仕方がない。
どんなに悩んでもその事実が変わることはない。
僕は自分ができる精一杯をやろう。
僕は今日も一人で剣を振る。
---
そんなある日のことだった。
「おい、領主様がやって来たぞ!!」
家族で昼食をとっていたところに、村の一人がやってきた。
彼は父と一緒に村の防衛役を担っている一人だ。
そんな彼が慌てて来たので何事かと思ったが、本当に一大事であった。
僕たちの家族は急いで村の入り口はと向かった。
---
入り口に着くと既に村の全員が集まっていた。
そして村の入り口にはとても煌びやかな格好をした者たちがいる。
あれが領主様たちであることは一目で分かった。
兵士数人を連れてこの村になんの用なのだろうか……
村長が領主様と何やら話している。
あっ、村長が父さんを呼んでいる。
ということは、問題は……
僕は横目で兄の方を見た。
「心配するな」
兄は僕の頭をグシャグシャと撫でた。
「ライオット!こっちに来い!」
父が兄を呼んだ。
やはり彼らの目的は兄のようだ。
何やら両者様と一緒に話をしている。
(あの顔、あんま乗り気じゃ無いな……)
僕は兄の表情があまり良く無いことに気がついた。
そしてどのような要求がされたのかも。
父が妙に嬉しそうな表情をしているのも納得ができる。
兄が嫌々頷いたのが見えた。
「今から模擬戦を行う!」
一人の兵士が声を張り上げた。
「「模擬戦!?」」
村の者は突然のことに驚きの声をあげている。
だが僕はこの状況になることを予想していた。
兄ほどの才能を領主様が見逃すはずがない。
なら、確実に囲いに来るだろう。
それが今日だったのだろう。
「僕もう少し近くで見てくるね」
「あっ、ちょっと!」
僕は母を振り払って人混みを移動する。
石垣を登り、その上からジャンプして屋根へと移る。
そして特等席へと移動した。
子供の僕はこのような場所からでないと兄の試合をしっかりとみることはできない。
「ライ兄なら大丈夫だよね」
「ライ兄?」
「僕の兄のことだよ。ほら、今からあそこで試合をする」
「ふーん、強いの?」
「そりゃ、ライ兄は天才だから……」
僕はそこで言葉が止まった。
いつの間にか隣には見知らぬ少女が立っていた。
とても美しい金色の髪の毛、吸い込まれそうなほど深く鮮やかな紫色の瞳の少女だ。
少女と言っても少し年上だろうか。
いや、そんなことより、
「いつからそこにいるんですか!?」
「最初からだよ」
「最初から?」
「君が来るより先に私がここに来てたんだよ」
「それは気がつかなくてごめんなさい」
「いいよ、いいよ。気にしないで。それよりもっとお兄さんの話を聞いてもいい?」
「それはいいけど……あっ!試合が始まる!」
目の前の彼女に兄の自慢をしたかったが、どうやら模擬戦が始まるらしい。
---
兄と向かい合っているのは剣士だ。
貴族様の御付きの者だけあって相当な腕前だろう。
実力がわかるほど目がいいわけではないが、父と同等かそれ以上に感じる。
剣士は木刀を上段に構えた。
「激流派……」
「剣に詳しいの?」
「最近知っただけだよ」
四流派の一つ激流派。
一撃必殺の剣を重視している流派だ。
(ライ兄は才能があるといっても、大人の一撃を受けきれるとは思えない。あまり相性のいいとは言えないよな)
兄は剣士のものより少し短い木刀を斜め下に構える。
父から教わっている勢流派の基本の構えだ。
勢流派は手数で圧倒する剣だ。
そのため他の流派と比べて型にはあまりこだわらない。
だが基本の型は存在する。
兄の構えがそれだ。
その構えからどう動くは本人のアイデア次第、それが勢流派だ。
「それでは、勝負開始!」
合図と同時に剣士は前に大きく踏み出した。
それと同時に兄も前に踏み出す。
木刀の長さ、腕の長さから剣士の方がリーチがある。
そして互いの一歩で剣士の間合いに兄が入った。
それを逃す激流派はいない。
上段に構えてあった剣が真っ直ぐ兄に向かって振り下ろされる。
誰もがその動きに見惚れるほど綺麗な軌道だ。
だが兄はその剣を横に一歩動いただけで躱し、そのまま相手の喉元に木刀を突きつけた。
「勝負あり!」
一瞬で勝負は決した。
側から見たら兄がギリギリ躱したように見えただろう。
だが僕は知っている。
兄はただ最小限の動きをしただけだということを。
兄には未来が見える。
なら、相手の剣の軌道がわかる。
それを躱して自分の剣を突きつけるだけ。
兄にとっては何にも難しくないことだ。
「話に聞いてはいたけど、本当に強いのね!」
「ライ兄は天才だからね」
兄は天才だ。
そして努力も怠らない。
正直一生かかっても追いつけないだろう。
「ねぇ、あなたは強いの?」
「僕?僕は無能だよ。兄と違って才能がかけらもないんだ」
「へぇー、珍しいわね」
彼女はただ淡々と応えた。
もしかしたらバカにされるかもと思ったが、そんなことはなかった。
「ところで君は誰なの?」
「私?うーん、そうだ!勝負に勝ったら教えてあげる!」
「勝負?」
「そう勝負。私とあなたで木刀で勝負をするの!」
「でも僕は無能……」
「剣振ってるんでしょ」
「え?」
「見ればわかるわよ。君、毎日欠かさず剣を振ってるでしょ。自分のことは無能だと言うのにどうして剣を振り続けているの?」
「それは、ライ兄についていきたいからだよ。ライ兄は天才で僕は無能だけど、それでも一緒についていきたいから!」
「なら、私との勝負くらい勝って見せなさい」
「わかった、その勝負受けるよ」
「そうこなくっちゃ!ほらやるわよ!」
僕だって毎日剣を振ってるんだ。
この勝負絶対に負けてなるものか!
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