第7話エロと難しい話って両立しねぇんだよ、聞いてる王女様?

 ――マズい、非常にマズい。


 クローゼットの中へ天野と一緒に隠れた俺は、冷や汗が額に現れる程に焦りまくっていた。

 下手をすればもうすぐ部屋に入って来るあのお姫様に見つかるかもしれないとか、吊ってる服が邪魔で2人隠れるには窮屈だったとか…そういう意味でヤバいのではない。

 いや、狭いのは多少問題点に含まれているだろう。


 何せ…それが原因で、天野と俺の体が激しく密着しているのだから。


「ごめ、んなさい…少し、んンッ…そっちに寄り掛かるわ…ッ」


 上目遣いで俺に小声で言った天野が、抱き付いて来た。


 確かに、万が一にもバランスを崩してクローゼットから勢い良く出てしまえば一巻の終わりだ。だからこそ、壁際の俺にしがみ付くのは当然だろう。


 しかし、先程まで忘れていたが、天野は顔良しスタイル良しのハイスペック女だ。頭も凄まじく切れる。

 対する俺は彼女いない歴=年齢に加え、3次元にいながらにして2次元に住まう人種である。

 つまりどういう事なんだ、って?


 3次元適性がねぇ俺のが過剰反応を起こしてますってんだド畜生ッ!

 そして……くそぅ、良い匂いが香って来やがるんだ…ッ!


 落ち着け、落ち着け、落ち着け落ち着け、えぇい、落ち着けぇぇえッ。

 そんな風に心の中で叫ぶも効果はない。


 心頭滅却?ナニソレ食えるの(笑)?


 ―――ぬぉぉぉォォォォォォォオオッ!


 葛藤、葛藤、葛藤。

 本能というか煩悩というか、取り敢えず理性がそんなのに襲われ苦悩中…ッ、誰かヘルプミー。


「ん?」


 割と本当に、精神的な意味で危険な状態にあった俺だったが、耳に入って来る音に意識が向いた。

 どうやら、お姫様の方が今部屋に入って来たようだ。証拠に、扉を開閉する音の直後に、靴が床を踏む音が聞こえて来た。

 ある意味ナイスタイミングの登場だ。



 もっとも、




「はぁ…困りましたわ。2……」



 恐らくベッドに腰掛けたのだろう、布と布が擦れる音が聞こえたその直後、例のお姫様のとんでもない発言の所為で俺の思考は吹き飛んだ訳だが。

 当然、天野もそれに反応し、俺ですら聞き逃してしまいそうな程小さく「え……?」と声を漏らした。


 そして、俺達は顔を見合わせる。

 というか、顔近くないですか天野さん?吐息が、なんかエロいんですが……。


「なんとか他の者を欺き、牢屋に閉じ込めるという形で保護出来ましたが…本当に良かったです。あの時兵士が先に彼らを発見していれば、本当に魔王軍と誤解されて、2人纏めて殺されていたかもしれませんでしたし」


 とんでもない内容の独り言が続く。まぁ、独り言にしては妙に説明臭いけど――って、おい天野止めろ、これ以上強く抱き付かれると色々と不味いってッ!


「ともあれ、これで一安心といったところでしょうか。あぁ、そうそう、後ほど女神様に今後について相談しませんと」


 お姫様がまた何か言っている。しかし、今はそれどころじゃない。


「天野、もう、俺っ(小声)」


「我慢しなさい、スケベ家君(小声)」


 違うの、聞いて、君の胸当たってんの。2つのちっさい膨らみが、俺の胸辺りに当たってんのッ。

 理性が、理性がぁぁあ…。


「き、キツい(小声)」


「あっ…ぅん、もう、動くならゆっくりっ……(小声)!」


「こんなにされたら、無理に決まってんだろ(小声)」


 マジでキツイ、理性保つのが。

 本当にどうしよう、これ話の流れからして、ここから出ていい奴だよな。いや、もう出よう、このままだと――


「さて……異世界人のお二方、わたくしのクローゼットの中で淫らな行為をするのは、そろそろ止めて頂けますと嬉しいのですが?」


 その瞬間、クローゼットの扉が開いたかと思うと、引き攣った笑顔を浮かべたお姫様が俺達の顔を見てそう言った。




 …………違います、誤解なんですこれは。

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