第6話とか、調子こいてすんませんした天野さん……

 数分後、俺達は戦闘不能になった騎士2人を牢屋に閉じ込めた。


「……それじゃあ、逃げるわよ並家君――あら、私としたことが間違えたわ、ごめんなさいっ♪」

「マ、マジすんませんしたッ…」


 あぁ、そうそう。俺が酷いあだ名を天野に付けられている事や、自分の股間を両手で押さえながら地べたに倒れ込んでいることは気にしないでくれ。


 何故って?馬鹿…聞くなよ泣くぞ、俺が……。


「はぁ、本当はもっと地獄を見せてあげたかったんだけど…それだと逃走に支障が出ちゃうもの、運が良かったわねスケベ家君?」


 はい、ホント全面的に俺が悪かったですごめんなさい。


「…で、そろそろ行ける?」

「あ、あと3分、待ってくださいッ…」

「はぁ、仕方ないわね」


 こうして、俺が復活した後に俺達は地下一階を出たのだった。

 よっぽど俺や天野を舐めているのか、地下一階の警備はザルだった。

 何のトラブルもなく一階へと辿り着く事が出来た程に、である。


「結局、見張りはあの居眠りしてた警備兵1人だけ。本当はここまで来るのにもう少し時間が掛かると思ってたんだけど…。いいわ、私達が逃げ易いだけだし」

「そだな。…で、こっからどうする、天野?」


 取り敢えず外に出る事には成功したが、その後どうするかは考えていなかった。

 城は出なきゃいけない。じゃないと死ぬし…。

 なら、直ぐに出るのかって?冗談じゃない。


「ここ異世界らしいけど、俺等、自分のいる場所も詳しく知らないだろ?しかも、文化とか常識とかステータスとか魔物とか、あと意志疎通がかなり難しいって状況だしさ」

「そうね、仮に城を出たとしてもスケベ家君の言う通り、外での生活は厳しいわね。下手をすれば死ぬわ」

「…あの、そのあだ名、まさか定着させるつもりだとか言わないよな?」

「大丈夫、それは貴方の今後の言動次第だから」


 それはつまり、俺に対する天野の評価を高くしなきゃ一生そのあだ名で呼ばれると?


「ま、そんな事よりも、今はこれからについてよ」


 俺の酷いあだ名問題をさらっと、そんな事、で片付けられたが泣く泣く文句を呑み込む。今はそんな余裕がないのだ。


「ぅう…そうだな。悪いけど、俺は何も思い付いてないからな…」

「えぇ、知ってるわ。けど大丈夫、策は考えてあるから」

「さっすがぁ。っで、どんな策なんだよ?」


 俺の問い掛けに、天野は何でもないようにこう答えた。


「―――城で知識を蓄えるのよ」



「ふぁ?」

「だから、知識を蓄えるって言ってるでしょ」


 うん、聞こえてる。けど、すみませんちょっと何言ってるか分かんないっす。


「長居は出来ないわ。だから、得る知識は絞って…。そうね、城と外の地図、あと多少の常識は最低限覚えておきたいわ。でも、移動とか色々含めて2、3時間くらいは掛かりそうだからそれだけでかなりギリギリかもしれないけれど…」


 もうね、声が出なかったよ。

 はは、こいつマジ何言ってんの?死にたいの!?って感じで。


 正直言って、誰かに見つかった瞬間騎士か兵士を呼ばれる可能性が無茶苦茶高いし、もしそうなったらそこで詰みだ。俺なんて真っ先にその案、ないわぁ、って切り捨てた奴だぞ?


「お、おい天野、流石にそれは無理があるんじゃ…」

「はぁ…知ってるわよ。でも、それが今力も知識もない私達が取らなきゃならない行動でしょ?」

「ぅぐ、それは…まぁそうだけど……」


 ラノベじゃこんな展開の時主人公ってどうしてったっけ?

 …はい、難なく城を出てましたよねそうですよねッ。クッソォ、つっかえねぇオタク知識ぃ!


 じゃあもう手は1つだろ…。


「だぁぁぁッ、はいはい分かりましたよやるよ!やりゃあいいんだろッ。…ったく」


 半ばヤケクソだった。

 何だよざっけんなよ、こういう時に“何かのスキルに目覚める”とかじゃないのかよ!

 これが異世界モノの小説だったら、こんなの不備でしかねぇよ。作者に修正願うby俺!


「そうとなれば行くわよ?」



 って訳で、俺達は城内を歩き回った。

 結果、5階まで誰にも見つかることなく来ていた。

 よく見つからなかったな、だって?何言ってんだ、何度も遭遇しかけたに決まってんじゃん。

 ある時は曲がり角で、またある時は部屋の中で…。

 その度にでかい壺とかの陰に隠れたり、ベッドの下や植木と同化するみたいに気配を消してやり過ごしたよ!つーか何だよ、植木と同化するって!?天野の奴みたいにベッドの近くにいなかったからだけど、もうしたくねぇ。生きた心地しなかったよ!


「は~…何とかここまで来れたわね……」


 隣から聞こえた天野の声。

 そうそう、現在は何かスッゲー豪華な部屋の中だ。


「まぁ、何の情報も手に入れられなかったけどな…」


 地図は見つからないし、本も見つからない。

 いや、本があったって文字が読めないから探す必要はないんだ。でも、何でか天野の奴が欲しがったからさ…。


 ってな訳で、俺達の城内探索は今のところ無駄足な感じになりつつあった。


「何言ってるのスケベ家君?情報なら、色々そろってるじゃない」

「は?お前の方こそ何言ってんだよ天野。敵に見つかんないようにすんのに精一杯でなんもできなかっただろ」


 俺の言葉に、しかし、天野は言った。


「いいえ、ここが異世界であるのか、はたまた地球から何千何万光年以上離れた星か…。それはまだ断定できないけれど、この城内の守りの手薄な場所と国の簡単な情勢、あとここには魔物と呼ばれる化け物が本当にいるって事くらいは分かったわ」



 ………はい?


 とんでもない爆弾発言に俺が固まる中、天野は言葉を続けた。


「この国、エレミオンって名前らしいんだけど、どうにも魔物の侵攻が酷いらしくて財政状況が良くないわ。まぁメイド達の世間話を盗み聞きしただけだけれど…息遣いと仕草、あと目の動きを見る限り、あれは誰かから聞いた噂話じゃなくて自分で見聞きした情報よ。ある程度の確信を持っていいんじゃないかしら?」

「………」


 いや、な~に当然の如く色々調べて分析しちゃってんだよお前…。ん?あ、そっか!


「はっは~ん、さては天野、お前ん家スパイ一家だな?」


 それで色んな企業から情報とか盗んで儲けていると…なるほどな。


「?私の家は定食屋だけど?」

「えッ…」

「…え?」


 定食屋……って、はい?


「いやいやいやッ!お前社長令嬢様か何かなんだろ?」

「いえ、まごう事なき定食屋の看板娘よ」

「じ、じゃあ、主食がキャビアで、主菜がフォアグラとトリュフって噂は!?」

「主食はスーパーのお米で、主菜は魚と野菜、あとお肉ね。というか、キャビアは主食にならないでしょ……」

「なら、実家のナイトプールでパーリナイッ!って噂は!?」

「まさか…一人でテレビゲームのボッチナイよ」


 ……そ、そんな。


「そんなッ…ヴァかなっ……」


 俺の中での天野のイメージが書き変わった瞬間だった。でも、そうか理解したぜ天野…。


「ぐすっ…。俺、家でやってる乗馬が上手いから罵倒も上手いんだと思ってた。馬だけに…。でも、一般家庭が馬持てる訳ない。…そっか、お前は真性のドSだったんだな。誤解してたよ」

「…も~うこれ以上説明しても分かってくれそうにないから、ハッキリ言うわ。その理解すらも誤解よこの安本丹あんぽんたんッ…」


 あ、ありっ?

 何か違ったみたいな反応されたんだが…。何でだ。 


「はぁ…貴方って、たまにとても馬鹿よね…」

「?実力テストはいつも校内じゃ中の下から上くらいだったけど?」

「…大丈夫、今の言葉でそれは証明出来たわ」


 親から時々言われる台詞を天野に言われた。しかも、俺の言葉の返しも同じだったし。

 解せん。俺はどっちかと言うとツッコミを入れる方で、ボケはからっきしのはずなんだが…。


「さぁ、ボサッとしてないでほら、この部屋を調べるわよ」


 天野に言われ、何かないか調べ始める。

 すると、右斜め前方に本棚を発見した。


「あ、本!天野、ほらあそこっ」

「ええ、やっと見つけたわ」


 五階まで来てやっと…か。

 さて、内容を確認―――。


「はい、読めましぇん…」


 本を取り出し開いて中を見るも、見たこともない文字の羅列が目に入って来ただけ。

 意味不明かつ膨大な情報量に、俺の脳内回路は瞬時にショート。

 しまいには、目眩まで起こし始めたので本をパタンと閉じた。


「なぁ…俺これ思うんだけど、完全に無駄足だろ。読めねぇもん読んでも意味ねぇじゃん」


 解読不能な文字を尚も読み続ける天野に向かって俺は言った。

 すると天野は顔だけ俺の方を向いて、こう言葉を返した。


「ええ、今はね…。けれど、、この国の言葉を覚えた時に理解したら使えると思わない?」


 なんて、さっ。

 当然、俺は一瞬固まった。


「は、はぁ!?天野…まさかお前、これ全部覚えんのか!」

「そうね、出来れば全部ね。記憶力には自信があるから問題はないわ」


 言った後、天野は本に顔と視線を向けた。

 さ、流石天才、する事のスケールが違う。

 天野を横目に思った。

 世の中には、『完全記憶能力』なんて能力を持った人間がいるって聞いた事があるけど、天野がそうなんだろうか…。


「いま、完全記憶能力持ってんじゃ…なんて考えてたみたいだけど、生憎そこまで便利な頭してないわよ」

「そ、そっすか…」


 俺の視線に気付いた様子もないのに、本に書かれた文字を読み進めながら天野は言った。

 その瞬間、『はは、エスパーかよお前…』とか思ったのは自然である。


 というか、ページめくる速度おかしくないですか天野さん?

 1秒につき1ページくらいのペースなんですけどあなた…。


 そんな事を考えている内に、もう一冊目を覚えたらしい。天野は次の本を棚から取り出していた。


「ねぇ、私思うのだけれどスケベ家君。貴方今、完全に暇をもて余しているわよね?」

「ッ…!い、いやぁ…ほら、その何て言うか………マジすんませんッ…」

「じゃあ、外から誰か来ないか見張っていてくれるかしら?」

「へ、へい、ガッテンでい!」


 俺は急いで部屋のドアへ直行。

 少し開いて、隠れながら外の様子を確認し始めた。


 …って、指示待ち人間かよ俺は。元々無いに等しかった立つ瀬が完全になくなっちゃったよ。穴があったら一生埋まってたいよ!


 …まぁ、罵倒がなかっただけマシなんだけどさ。

 ん?そういえば何でなかったんだ?絶対あると思ってたのに。


 そう思って、後方を振り向き天野を見た。


「あぁ…なる、ほど……」


 背中だけしか見えなかった。

 けど、無茶苦茶集中していた、俺の生死の運命まで背負わんばかりの気迫で。


 …畜生、また天野の認識改めなきゃなんないだろうが。


「見張り、やるか…」


 そう思って、ドアの外を再び確認して―――。


「―――ッ!しま、やべッ…!」


 俺達をふざけた理由で捕まえたあのお姫様が、こちらに近付いて来ていた。


「えッ、ちょッ…!」

「隠れるぞ、あの姫様が来やがった…!」


 慌てて天野の手を握り、俺は近くのクローゼットへ一緒に入った。

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