第5話ナイスくっころ、あーまのっw
「い゛ぃやぁぁぁぁああああああ゛あ゛あ゛!!」
すました顔はどこへやら、涙目で発狂したかのような声をあげる天野彩加の様子を眺めながら、俺は溜め息をついた。
「言わんこっちゃない…」
現在、天野は地下に戻って来た騎士達によって羽交い締めにされていた。
「なぁなぁ、マジなのか?
「おうよ、何せ陛下の執務室ん中で姫様が仰ってたからな。
「もしかして盗み聞きか?」
「良いだろ、別に?お陰でこんな良い思い出来てんだからよ」
「ははは、違いねぇ」
…今、とんでもないことを聞いてしまったのだが……。
え、何?知ってて俺達をこんな目に遭わせたのかよ、あのお姫様糞野郎!
いや、何かおかしいな~って思ってはいたが、そういうことか。
…まぁ、それはさておき哀れなものだ。
「ったく、そんな暴れなくてもいいんだぜ?俺達がす~ぐ気持ち良くしてやるからよォ」
「ざっけん゛な゛ぁぁぁぁああああ゛あ゛!!」
うん、そりゃそうだっ。
犯されそうになってんだから、これが普通の女の子の反応だと思う。
さて、俺も動くとしよう。
幸い、俺達は拘束具で捕縛されてはいなかった。
それだけ自分達との力量差があるということだろうか……。
まぁいい。
とりあえず、俺は天野に向かって呼び掛ける。
「おーい、天野」
「た、助け、助けなさい、いいい今すぐぅ!―――ひぃぃい!!」
「分かってる。だから、俺の言う通りに動いてくれ」
「わ、分かったから早くしてぇぇえッ!」
じゃあ、と牢屋の壁の埃を指でなぞって拭き取るようにして、俺はとある日本語を書きながら天野に指示する。
「全身の力を抜け、もう全部諦めたみたいに」
「わ、分かった」
「よし、次に内股になって、それからそっぽ向け」
「し、しししした…!つ、次は!?」
「あぁ、これを読め」
俺は天野の方へ振り返り、真面目な顔で最後の壁の日本語を読むよう指示を出した。
「さんにーいち」
はいっ。
「………くっ…殺せ……ッ!って…――――へ?」
言った後、天野は呆けた顔をした。
「………ほっほぉう、これはなかなか……………」
腕を組み、顎に手を当て俺は余韻に浸る。
「……ま、まさか……それ言わせたかった、だけ……なんて、言わ、な………―――――ッ!」
天野は震えた声で尋ねながら、そして、言い切る前にはっとした顔をした。どうやら気が付いたみたいだ。
どんな顔してやったんだって?決まってる、ニヤッと悪い笑みを浮かべてやったよ。
「いやぁー良いもん見たっ。何せこんな状況じゃなきゃ、今みたく上手く誘導して見れるもんじゃないレア物だからなぁ」
俺を散々罵ってくれた礼にも丁度良かったしな。
そして俺は天野に向かって、
「ナイスくっ
同時に右手でサムズアップ
何ッつぅ背徳感なんだ……!
フヒッ、ごっつぁんです(ムフフ)。
と、俺が内心で失礼なことを考えていると…。
「………ぶ………してやる…………」
「ぶしてやる?」
何か天野が、プルプル震えつつ呟いた。
表情は俯いていてよく見えない。
何だよ、ぶしてやる、って?そんな日本語ない――
「ぶっ殺じでやるぅぅぅぅぅぅうううううううううう!!!!!あ゛あぁぁぁァァァァァァァアアア゛―――――――ッ!放せぇぇえッ!!!私にッ、私にあんッの男を、殺させろォォォォォォォォォオオオオッッ!!!!!!!!」
あ、マジギレしてらぁ……。
「放せ、はっな゛、せぇぇぇぇぇぇえ゛え゛―――――!うぁぁぁぁぁぁァァァァァァァア!!殺してッ、殺ッ!!放せやオラァァァァァァァァァァァアアアッッッ!!!!」
え、どどどうしよう…想像以上にキレてるんですがあのお嬢さん。いや、最早お嬢さんとは言えないレベル。鬼、悪鬼、悪魔、魔王あるいはそれ以上。
なんか、ヤバくね…?もし仮に、今天野の奴が自由にでもなったりしたら、俺……殺されるくね……?それって不味くね?
「おい、おっさんら!ソイツぜってぇ放すなよ!もうアレだ、行くとこまでイッちまえ!イクだけに。俺が許すっ」
「私が許すかァァァアアアッ!!!お前ら全員
狂った様に叫ぶ天野が怖い。
しかし、仕方ないだろうが、というのが俺の言い分だ。
何故って?
「でぇいッ!覚悟決めたんだ…やるぞ!」
決まってる、
「おらぁぁァァァァ」
「あぁん?」
俺は頭の剥げた騎士を殴り付けた。
すると、その騎士がこっち方を向いて俺を睨み付けた。ちょっとチビりかけたのは内緒だ。
ちなみにだが、攻撃は鎧に防がれまるで効いてないし、寧ろ俺の拳が痛い。ちょっと涙目だ。
(いやいや、死ぬ前に良い思い出来たことだし……やっぱ無理ッ!やだ助けてぇ!)
剥げた巨漢騎士が腰の剣を抜きやがった!ごめんなさい、超怖いですごめんなさいぃ!
さっきの天野の『くっ殺』で、死んでも悔いはないかなぁ、とか思ってた俺を殴りたい。
死の恐怖を吹っ切れると思ってやったのに、全く無意味な行動だった。
「はわわわわ、どどどうしよう、どうしようぅ!」
「やんのか糞ガキィ!」
「ひぃぃッ。食らえこんチクショウ!」
あらかじめ手に握っていた砂粒を騎士に向かってぶちまける。ビビった所為で一瞬頭真っ白になって、こんなギリギリで投げる事になったが、なんとか成功。
「だぁぁ、目がぁぁァァァァ!こ、この野郎ッ」
目潰しにより、剥げ騎士の視界を奪った。
俺や天野のようにステータスがない人間とある人間。実際どの程度能力に差が出るのか分からない。
だったら、どうするかって?
簡単だ。
「異世界でも、男なら……あるわなぁぁァァァァッ!」
俺は剥げ騎士の股間にぶら下がった2つのアレを、渾身の力で蹴り上げた。
「ぅ、うぉぉぉ……………――――――」
「な、何ぃ!おい、バレルしっかりしろッ。…糞、このガキ調子に乗りやがってッ」
どうやら想像以上のダメージを食らわせられたらしく、股間を押さえながら騎士は青い顔をしてぶっ倒れた。
意識はあるようだったが、俺は無視してもう1人の騎士に殴り掛かる。
しかし、やはりステータス補正がないからか、それとも訓練されていないからか、俺の攻撃は易々と避けられた。
したり顔の騎士野郎。いや、変態野郎か。
ま、どっちでも良いや。
どうせもう詰んでる。
誰が?俺が?馬鹿言え、そんなの変態の方に決まってる。
「このッ…強姦魔がァ!」
直後、その背後にいた天野の右足が騎士の股間を蹴り上げた。
この騎士、仲間がやられて焦ったのか天野を放したんだ。それが運の尽きって奴だった。
心なしか、ぶっ倒れた騎士の顔は、俺がやった時よりも青かったけれど。
まぁ、作戦通りっちゃ作戦通りであるか。
兎にも角にも、目先の危機が去ったことに俺は安堵の息を漏らした。
……のだが、
「フフ…ねぇ、私、勧善懲悪って言葉がだ~い好きなのだけど…。あなたはどう思う?」
なんて台詞を、俺に向かって笑顔で言ったはずの天野が、どうしてか笑ってないように見えた。
…すみません、誰か俺にそれは気の所為だと言ってください。
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