第5話 アイテム合成

 ――モンスターとそれ以外の動植物の違いとはなにか。具体的な定義はあるのか。ハッキリ言えば、ない。人類にとって危険な存在をモンスターと呼んでいるだけだ。なのでモンスタースキルとは、人類以外が使うスキル、と解釈すべきかもしれない――。


 爺さんの手帳にそんなメモが残っていた。

 いい加減だなぁと思ったが、世の中、案外そんなものかもしれない。


 その昔、大陸と島の定義について調べたら、学術的な理由などなかったのを思い出す。大陸の中で最も小さなのがオーストラリアなのも、最も巨大な島がグリーンランドなのも、たんに昔からそう呼んでいたからというだけ。

 日本をニホンと読むのかニッポンと読むのか法的に決まっていないとか。東京を首都と定めた法律がなく、みんなが首都と思ってるから首都扱いされているとか。まこといい加減な話は多いのだ。


 体は美少女エルフだけど中身はオジサンといういい加減な存在である俺は、寝たいときに寝て、腹が減ったら狩りに出かけ、あとは読書したり魔法の練習をするという、いい加減を極めたような日々を送っていた。


 月日が経つのは早い。

 おそらく一年以上は経った。

 四季らしいものを感じないので、よく分からない。

 最初のうちは一日ごとに線を引いて数えていたのだが、面倒になってやめてしまった。

 もしかしたら二年経っているかもしれない。


――――

名前:アスカ・スズキ

種族:エルフ型ホムンクルス


HP:243

MP:9999999999999999999999(計測不能。推定∞)

魔力:3007

攻撃力:98

防御力:113

素早さ:105


固有スキル:『モンスタースキルコピー』

魔法スキル:『魔弾』『プチファイヤ』『ファイヤーボール』『インフェルノ』『アイシクルアロー』『コキュートス』『ライトニング』『サンダーストーム』エロアカッター』『トルネード』『ウォーター』『ウォーターカッター』『ホーリー』『ポイズン』『ポイズンヒール』『ヒール』『プロテクト』

モンスタースキル:『スライム:お肌プルプル』『ゴブリン:あらゆる生物のメスを孕ませる』『ミミック:アイテム合成』

――――


 いい加減ながらも頑張ったので、魔力が増えた。

 モンスターと戦いを繰り返したからか、それ以外のパラメーターも結構上がった。

 だが、まだドラゴンに挑む気になれない。おそらく殺されるだけだ。


 屋敷の周りを探索して分かったのだが、ここは細長い半島である。半島を囲む海は波が荒く、かなり大型の船でなければ藻屑となるだろう。泳いで渡るのは自殺行為だし、そもそも俺は泳ぎに自信がない。

 そして俺を殺したドラゴンは、半島の出口を縄張りとしているらしく、ずっとその辺りをウロウロしていた。

 つまり、この世界を冒険しようと思ったら、ドラゴンとの対決は避けられないのである。


 ドラゴンを倒すにはもっと強くならねば。自分自身を鍛えるだけでなく、強い武器が欲しいところだ。


「ミミックからコピーした、アイテム合成とやらを試してみるか」


 ミミックはゲームなどでお馴染みの、宝箱の形をしたモンスターだ。

 書斎にあったモンスターズ図鑑いわく。この世界のミミックは、周りにあるものを食べて体内で合成し、アイテムを作っているらしい。そのアイテムは希少価値が高く、ミミックだと分かっていながらも、一か八かで近づいてしまう者が跡を絶たない。そうして近づいてきた人を捕食するわけだ。


 そのミミックから、アイテム合成というスキルを得た。

 まず屋敷にあった鉄クズを床に並べる。ミミックならこれを食べて体内で合成するのだけれど、俺の胃袋はそこまで頑丈じゃない。

 俺は床に手をかざし、剣の姿をイメージした。

 すると鉄クズが光に包まれ、あっという間に思い描いた剣の姿になった。


「これを装備した状態でステータスを測るとどうなるんだろう?」


――――

HP:243

MP:9999999999999999999999(計測不能。推定∞)

魔力:3007

攻撃力:98(+7)

防御力:113

素早さ:105

――――


 攻撃力にちゃんと加算されていた。

 装備品の強さまで数値化してくれるとは凄い。

 こうなると、もっと強い武器を作ってみたくなる。


 俺は雷ハリネズミを探すため、屋敷の外へ出た。

 その名前の通り、背中の針から電気を放つネズミ型のモンスターである。

 普通のハリネズミは手のひらに乗るくらい小さいが、雷ハリネズミは両腕を使わないと抱きかかえられないほど大きく、顔つきが凶暴だ。


「お、いたいた」


 作ったばかりの剣で倒す。

 死体になってもその針はバチバチと放電を続けていた。

 ちなみに今まで何度も雷ハリネズミを倒してきたけど、なにかスキルを得ることはできなかった。モンスタースキルではなく魔法の範疇なのだろう。実際、ただ雷を出すだけなら魔法で簡単に再現できる。

 雷ハリネズミの針には、雷属性の魔力をため込む性質があった。

 針を何本か抜いて、さっき作った剣と合成。


「おお! 刃から電気が出てる……格好いい!」


 刃から青白く放電している。しばらくすると収まったが、俺が少し魔力を流すと、またバチバチと空中放電が始まった。敵に突き刺してから電気を流せば、肉を内側から焼くことができる。


――――

HP:243

MP:9999999999999999999999(計測不能。推定∞)

魔力:3007

攻撃力:98(+45)

防御力:113

素早さ:105

――――


 想像していたよりも強くなった。

 よし。次は防具を作ろう。

 屋敷の周りにいるモンスターで皮膚が硬いといえばデスウルフだ。おそらくドラゴンの次くらいに硬い。図鑑にも『素早い上に頑丈な、極めて危険なモンスター』と書いてある。


 そいつに雷の剣で斬りつける。斬撃のあとに放電。追加でダメージだ。

 殺してから皮を剥いだ。

 俺は着ているローブを脱いでスッポンポンになる。誰かに見られる恐れはないけど、お外で裸というのは、なんとなく恥ずかしい。犯罪をしている気分になる。

 なので素早く合成。

 安くさい布製だったローブが、分厚い革のローブになった。

 屋敷に戻って数値を確かめようと歩く。歩いている最中に、なにも野外で裸になる必要はなく、帰ってからゆっくり合成すればよかったと思い至った。


 まったく躊躇せず脱いでしまった。これでは痴女である。しかし痴漢よりは痴女のほうが罪が軽い気がするから大丈夫だろうと、誰も納得しなさそうな論法で自分を誤魔化した。


――――

HP:243

MP:9999999999999999999999(計測不能。推定∞)

魔力:3007

攻撃力:98(+45)

防御力:113(+30)

素早さ:105

――――

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