第4話 モンスタースキルコピー発動

 ――魔法は努力で習得できる。

 もちろん才能にもよるが、技術として体系化され、再現性がある。何度も何度も魔法の型を繰り返せば、それはスキルとなって体に刻まれる。


 だが一部のモンスターが使う特有のスキルは、魔力とは別系統の力を使っていて、人間には習得できない。魔法で似たようなのを再現できるのがあれば、全く不可能なスキルもある。これを普通のスキルとは分けて、モンスタースキルと呼ぶ。


 有名なのだとミミックのアイテム錬成だ。ミミックは食べた素材を体内で合成し、なにかアイテムを作る。そのアイテムを目当てに近づいてきた人間を、ミミックは捕食する。人間は、それがミミックだと分かっていても、貴重なアイテム欲しさに一か八かで近寄ってしまう。ミミックを殺してから空けるとアイテムが消えてしまうから不思議である。


 またドラブンブレスは強力なモンスタースキルだが、炎魔法で再現可能である――。


「なるほど。モンスタースキルってのは、人間には習得できない感じなのか。けど、俺にはモンスタースキルコピーってのがあるんだよな」


 名前の通りなら、俺は他人にはできないことができそうだ。

 それに関するヒントは見つからない。

 ただ、手帳にはこんなことが書かれていた。


 ――MPを無尽蔵にする。それでどんな副作用が起きるか分からない。よい方向に作用してくれるのを願う――。


 この体を作った爺さんでさえ、想定していなかったのだろう。

 俺自身がモンスタースキルコピーを試し、解き明かしていかなければならない。


 ――筋肉に例えると、魔力は瞬発力でMPは持久力だ。魔力を鍛えよ。同じ魔法でも、魔力で威力が変わる。魔法を使えば使うほど魔力を鍛えることができる。そこは筋肉と同じだ。そして君はMPが無尽蔵なので、時間が許す限り魔法を使える。

 魔力が50もあれば一流だ。100を超えれば達人だろう。私の全盛期が丁度100だった。だが世界には1000や2000を超える天才がいるのだ。

 私は魔力を1増やすのに一年かかった。一年かけても増えないときもあった。常人とはそんなものだ。エルフを素体にした君ならもっと早く上昇するだろう。MPが無尽蔵ゆえに好きなだけ鍛えられる。自分で設計したホムンクルス相手に嫉妬するのも妙だが、羨ましい話だ――。


 爺さんが残した手帳には、ありがたいアドバイスが書かれている。

 いわく、あの水晶玉は爺さんが開発したステータス測定器で、人間の戦闘力を数値化する装置だ。もちろん誤差はある。それでも日々の成長を実感する指針になればいいと作ったらしい。


 俺はアドバイスを守って、魔法を使いまくった。

 しかし攻撃魔法の類いは周囲の景観を変えてしまうので、防御魔法や回復魔法を多用することにした。


――――

名前:アスカ・スズキ

種族:エルフ型ホムンクルス


HP:15

MP:9999999999999999999999(計測不能。推定∞)

魔力:61

攻撃力:3

防御力:5

素早さ:4


固有スキル:『モンスタースキルコピー』

魔法スキル:『ファイヤーボール』『アイシクルアロー』『ライトニング』『エロアカッター』『ヒール』『プロテクト』

――――


 おお。スキルが増えてる。あと魔力が凄く増えている。

 爺さんは1増やすのに一年かかったらしい。俺は数週間で半世紀分の成長を果たしたのだ。

 これならドラゴンは無理でも、もっと弱いモンスターなら倒せるんじゃないか?


 石橋を叩くようにして、もっと強くなってから戦闘と洒落込みたいが、そう悠長なことも言っていられない。

 食料問題があるのだ。

 爺さんは長期保存できる食料を残していてくれたし、屋敷の周りで食用に適した植物を栽培していた。

 が、それだけで生きていくには限度がある。

 肉が必要だ。

 動物を狩って食わねばならない。味は二の次だ。幸い、火は魔法でいくらでも出せる。


「あれは……スライムかな?」


 屋敷の周りをウロウロして、最初に遭遇したモンスターがそれだった。

 プルプルとしたプリンのような質感の、球体の生き物。直径は五十センチくらいだ。

 ファイヤーボールを当てると、跡形もなく消えた。ドラゴンと比べるまでもなく弱い。あれなら魔法を使わず、棒などで殴るだけでも倒せたかもしれない。


【モンスタースキルコピー発動】

【スライムのスキル『お肌プルプル』を習得しました】


 頭の中に、そんな文章が浮かび上がってくる。

 そして実際に、お肌がみずみずしくなった気がする。とはいえ、元よりこの体は肌がきめ細かい。鏡に顔を近づけても毛穴が見えないほどだ。少なくともオジサンとは比べものにならない。

 女性なら喜ぶかもしれないが、なんとも微妙なスキルをコピーしてしまった。しかしモンスタースキルコピーの発動を体感できたのはありがたい。要するに、倒したモンスターが特有のスキルを有していたら、それをコピーできるということなのだろう。


「もっと検証しなきゃ」


 肌が緑色をした、人間に近い形の生物を発見した。女子になった俺よりも背が低い。

 スライムと並んで有名なモンスター、ゴブリンだ。特にWEB小説によく登場する気がする。

 洞窟などを根城にしていて、人間の女性を誘拐しては孕ませるという変態的なモンスターだ。

 一匹一匹はさほど強くないので群れを作る。俺の前にいるゴブリンも、三匹で行動していた。そこにファイヤーボールをぶち込み、まとめて倒した。


【ゴブリンのスキル『あらゆる生物のメスを孕ませる』を習得しました】


 なんだろう。これほど不要なスキルを、ほかに思いつかない。

 しかもゴブリンなど食べたくないので、倒すだけ損な気がしてきた。

 まあ大繁殖して屋敷に入ってこられたら困るので、見かけたら駆除はするけれど。


 もっと美味しそうな獲物はいないのか。屋敷にあった干肉はとっくに食べ尽くした。近頃は木の実とかビスケットしか食べていない。

 いい加減、肉を食べたい。鳥とか豚とか、そういうのはいないのか。


 などと反ビーガン的な思想を巡らせながら歩いていたら、熊が俺の前に立ち塞がった。大きい。身長三メートルはありそうだ。これは熊型のモンスターだろうか。それともただの大きい熊なのか。そもそもモンスターと普通の動物の定義があるのか。

 そう思案しながら、熊の頭部を一撃で吹っ飛ばす。


 血がドクンドクンと吹き出していく。このまま放置すれば血抜きになるのかな?

 俺に熊を上手く解体できるだろうか。

 何事も挑戦だ。

 よーし、今夜は熊鍋にするぞ!

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