第46話 うん、またね

「今日はもう帰ろっか」


 加菜へ買った服が入っている紙袋を手に、私は後ろにいる壮馬くんに振り返りながら言う。


 本当はこの時間、壮馬くんと二人きりの時間は終わって欲しくない。

 けど、長引けば長引くほどに、私は離れられなくなる。

 それでは、私が今日この場に居る意味がなくなってしまう。


 今日、壮馬くんと加菜へ買い物に来た本当の理由は、この気持ちにケジメをつけるためでもある。


 何かのキッカケが無ければ、私はこの気持ちを引きずり、さらに大きくなってしまう。

 だから私は、ほんの少しだけ夢を見てから、自分の為でもあり、加菜の為にも自分の気持ちに嘘を吐いて終止符を打つのだ。


「今日はありがと。普通に助かった」


 駅に向かう途中、壮馬くんはそう私に声を掛ける。


「ううん、私も面白いもの見れたからありがとね~」


「俺の反応見るだけ為について来ただろお前」


「ん~? 違うけどなぁ~?」


「嘘くさ」


 小首を傾げて私はとぼけてみるが、実際は正直プレセントなんてどうでもよかった。

 心の奥底で、ダザいプレゼントでも渡して加奈に幻滅されてもいいのにとも思っていた。


 思っていたけれど、口に出したり行動する勇気もなく、私は壮馬くんと一緒に居たいが為に今日ここにいる。


「加奈、喜んでくれるといいけど」


 プレゼントの入った袋を見ながら、壮馬くんはボソッと呟く。


「喜んでくれるよ。だって壮馬くんのプレゼントだから」


「妹のことをよく知っている姉に言われると説得力があるな」


「でしょ~。私、加奈の一番の理解者だから」


 言いたくない。

 本当はこんなこと言いたくないんだよ壮馬くん。

 私も好きって、プレゼントを渡したいって、妹じゃなくて私にしてよって……声を大きくして言いたいんだよ。


 こんな作った笑顔だって、壮馬くんに見せたくない。

 ……でも、帰るまでにはこの気持ちとおさらばしなければいけないんだ。

 加奈の為にも、壮馬くんの為にも、そして私の為にも。


「じゃ、今日はありがとな。俺、あっちの改札だから」


 改札前に着くと、手を振りながら言う壮馬くん。


「あ……」


 このまま、何もなく解散しようと思ったが、私の言葉は詰まる。


 ねぇ、壮馬くん。

 私が好きって言ったらどうする?


 加奈と一緒に歩いている時も後ろで羨ましく思ってたり、

 一緒にご飯を食べている時も、お弁当の味を忘れるくらいに壮馬くんに夢中だったり、


 ディズニーの幸せそうな二人の写真を見て夜な夜な泣いちゃったり、加奈と壮馬くんがホテルでシていることを想像して、私も一人でシちゃったり……


 それくらい好きだったら、どうする?


 うっかりと口から出ないように、唇を噛みしめる。


 涙が溢れそうだよ。

 こんなところで泣いていたら、壮馬くんは優しいからきっと話を聞いてくれるよね?

 でも、そんなことされたら、もっと好きになっちゃうから。


 だから私は、


「うん、またね」


 この改札をくぐれば、気持ちの整理がつく。この気持ちともキッパリお別れ。

 これから私は、妹と壮馬くんの幸せを応援する姉。

 それ以外の何もない。


 ぐっと涙を堪えながら私は手を振ると、改札をくぐった。

 ホームへの階段を降りると、堪えていた涙がポロリと私の頬をつたる。


 せっかく我慢したのに……これじゃダメじゃん。


 この涙は私の気持ちだ。

 我慢できたのなら終止符を打てたのに、溢れてしまったらもう止まらない。





 壮馬くん、好きだよ。





 この気持ち……忘れられないよ。

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