第45話 だってお姉ちゃんだから

 妹が壮馬くんと付き合った。

 白馬に乗った王子様のように突如として私達の前に現れて、ナンパから助けてくれた。


 その時、私は運命の人だと感じだ。

 しかし、それは隣の加奈も同じ感情だった。

 スラリと身長が高く、笑った顔が可愛い、優しく健気な男子。


 ちょっと頼りないところもあるけれど、いざという時は助けてくれる勇気がある、そんな男子だ。


 二ヶ月くらい前だっただろうか、加奈に壮馬くんのことが気になっていると相談されていた。


 共通の友人と一緒に何度か遊びに行った際、気になり出したらしい。

 それからは学校でもよく話すようになり、加奈の気持ちはどんどん大きくなっていった。


 大きくなればなるにつれ、私の気持ちは心の奥底に抑えつけあれる。

 何故なら、私は加奈よりも前に壮馬くんのことを好きになっているから。


 一目惚れだった。


 廊下や下駄箱ですれ違う際、私の目は自然と壮馬くんに引き寄せられていた。

 加奈みたいに直接的な関わりはないものの、私は一目で壮馬くんを好きになってしまったのだ。


 直感的に分かる。子宮がうずくいて彼を欲しがっている。

 だから、加奈に壮馬くんの話をされた時咄嗟に「頑張って! 応援してるから!」と言ってしまったことを今更後悔している。


 私の方が好きになるのが早かったのに。

 そこで実は私も気になってるんだよね、なんて言っていたら加奈は私を応援してくれたのだろうか。


 壮馬くんと付き合いたい、独占したい、加奈よりも私のものになって欲しい。

 心の中で苦しいくらい、その気持ちは大きくなっているけれど、どんなに欲しいものがあっても妹が欲しがっていたら我慢して譲る。


 だってお姉ちゃんだから。


 おもちゃも、ネックレスも、ゲームも。時には好きな人だって……

 誰よりも好きな妹が笑顔だったら、私まで嬉しくなる。


 本当だって、壮馬くんと付き合ったことを心から祝福してあげたい。

 けれど、私の押し消さなければいけない感情がそれを邪魔する。


 ねぇ、加奈。


 お姉ちゃん、ちょっとくらいわがまま言ってもいいのかな?

 壮馬くんのことを好きって、私も付き合いたいって、言ってもいいのかな?

 彼女の姉としてじゃなくて、女として見られたいと思っていいのかな?


 一ヶ月記念のプレゼントを買いに行った時、そんな邪念が一瞬私を支配した。


「本当に好きになっちゃうんだからね」


 もう好きになっているけれど、冗談交じりに言った言葉に、壮馬くんは分かりやすく顔を赤くしてくれた。

 その時、私も女として見られているという嬉しさに心が躍った。


 その反面、これ以上何かを言ってしまうと私は止まらなくなると思い笑って誤魔化した。


 加奈、先に謝っておく。本当にごめんなさい。

 私も壮馬くんのことが好きなんだ。


 加奈と付き合ってから、私も関わりが増えていくうちに、どんどんとその感情は大きくなっていくの。


 我慢したくてもできない、抑えてたくても抑えられない。

 そんなわがままな姉を許さなくていい。


 けど、少しの間だけ……ほんの少しでいいから……私にも夢を見させてください。


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