第44話 違和感
「コホン……ま、私が可愛いのは当然だけどね?」
先程までのやり取りがなかったかのように、水瀬はポーズを決めながら言う。
「自分でそうゆうこと言うからモテないんだよお前は」
安堵と呆れのこもったため息を吐く。
水瀬はこの調子でなくてはな。変にテンパられると俺も反応に困ってしまう。
「それで? 壮馬くんはプレゼントするも決まったの?」
「デザインが良さげなネックレス2つ見つけたけど、その服に合うやつならこれかな」
蝶のネックレスを手に取り、遠近法で水瀬の首元にあててみる。
「うん、これだな」
「私もこれがいいと思う。センスあるじゃん」
「だろ? 会計行ってくるから服着替え来てくれ」
「え、この服も壮馬くんが買おうとしてるの?」
「あぁ。だって一ヶ月記念のプレゼントだから俺が買わなかったらおかしくないか?」
「それはネックレスでしょ? この服は私が買うからいいよ」
「お前は記念日とかも何にもないだろ」
「姉としても妹の記念日は祝いたいの~! だからこれは私が買う!」
頑なに自分が払うと引かない水瀬。
「まぁ、ならいいけど」
俺としてもお金が浮くのはありがたい。その浮いたお金でデートに行けるからな。
ネックレスのデザインは大丈夫。
加奈も喜んでくれるはずだ。
あとは渡す場所。
記念日の日は学校があるから放課後になることは確定。
どこかに行って、雰囲気を作ってからプレゼントした方がロマンチックでいいと思うが、ゆっくりと出来るところであげたい気持ちもある。
家でのんびり映画でも見ながら、ふとしたタイミングで渡すのも悪くはない。
「俺は先に会計行ってくるわ」
そんなことを考えながら、選んだネックレスを持ってレジへと向かう。
財布を出して列に並ぶと、
「……ねぇ」
後ろから水瀬に声を掛けられる。
「なんだ? やっぱ服も払ってって?」
「そんなことじゃないから」
「ならなんだよ」
もじもじと体を動かす水瀬を、不審そうに細い目で見る俺。
今日の水瀬はどうも様子がおかしい。変なことを言ってくるのはいつものことだが、自爆することが多い。
それに、雰囲気も違う気がする。
「……さっきみたいなこと言われると私、本当に好きになっちゃうんだから」
口をすぼめながら、上目遣いでそう言う水瀬。
「……はぁ⁉」
突然の告白のような言葉に、俺の顔はボッと赤くなってしまう。
なんで今そんなことを言い出すんだ? 全く意図が分からないぞ。
好きになる? 俺を? 妹の彼氏である俺を?
頭の中がこんがらがって思考が停止している俺に、
「プっ……そんな顔を赤くされると私まで恥ずかしくなるんですけど」
クスクスと笑って肩を叩いてくる。
「うるせーよ! 次こんなこと言ったらマジで一回殴るからな⁉」
いくらなんでも心臓に悪すぎる。
別にクラスメイトに同じことを言われたとて、返す言葉は『そうか』の一言で済むが、水瀬に言われると深く考えてしまう。
姉妹だからな。
妹の彼氏を好きになってしまう可能性だってないわけじゃない。
姉妹の関係性を崩さないようにと考えると、言葉を選んで返さなきゃいけないのだ。
半ギレのまま背を向けると、
「壮馬くん」
また水瀬は声を掛けてくる。
「次はなんだ」
後ろは振り向かない。また茶化しだったら溜まったもんじゃないからな。
不機嫌そうに答える俺に、
「加奈、喜んでくれるといいね」
と、今度は手のひら返しをしてくる。
なんだかんだ、応援してくれてるじゃないか。
そうならイジってこないで最初からそう言って欲しいものだ。水瀬には無理な話だろうけど。
半身振り返り、エールを受け取る俺。
その時、水瀬に向けられていた笑顔に少しだけ違和感を覚える。
多分、この違和感は加奈と俺にしか気づけない。
今向けられている笑顔は、水瀬の素ではない気がする。普段、学校で見せている演技のような笑顔のような感じがした。
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