第43話 か、かわっ……!

「いいのが見つかったら教えてね。私もついでに加奈にあげるもの何か選んでくるから」


 後ろ姿のまま手を振って、店の奥の方に消えていく水瀬。

 結局放置プレイだよ。


 まぁこれでゆっくりと選ぶ時間が出来た。

 色々なものを手に取り、加菜に似合うか想像して検討する。


「ぱっと見はこれとこれかな」


 黒のパンチングボードに掛けられているシルバーネックレスを二点手に取る。

 一つは蝶をモチーフにしているもの、もう一つは月の中に小さな太陽が吊るされているもの。


 どちらもそこまで主張は激しくなく、加菜にはピッタリのものだ。

 とりあえずこの二点はキープにして置いて、他のも見ようと思った俺であったが、


「壮馬くん、見てこれ!」


 と、突然後ろから興奮気味の水瀬に声を掛けられる。


「めっちゃよくない!」


 後ろを振り向くと、両手を広げて試着した服を俺に見せびらかす水瀬の姿。


「自分用か?」


「違う! これ加奈にどうかなって」


「サイズは合ってるのか?」


「ほぼほぼ一緒だから、私を加奈って想像して意見してくれていいよ」


 オーバーサイズのワイシャツに、グレーのベストセーター。ダボっとしたダメージジーンズがいいアクセントになっている。


 一見だらしないように見えて、シックな印象のコーデ。

 加奈によく似合いそうだ。


「どう? 可愛い?」


 クルリと一回転して全体を見せてくる水瀬。

 これならコーデに、シルバーネックレスは合っていてちょうどいい。それに、加奈が着ているところを想像すると……


「……可愛い」


 目の前に居るのが加奈だと錯覚してしまい、そう口に出してしまう。


「か、かわっ……!」


 まさか俺の口から発せられると思わなかった言葉に、水瀬は顔を真っ赤に染めてしまう。


「違う! これは加奈が着てる所を想像して可愛いと言っただけで、別にお前が可愛いとか思ってないから! 服が可愛いだけだから!」


 赤面している水瀬を見て、俺も焦ってツンデレのような口調になってしまう。


「そ、そうだよね! 服、服が可愛いんだよね!」


「そうそう! 服がね!」


「加奈にめちゃくちゃ似合いそうだもんね!」


「うんうん!」


「いやぁ~その服いいなぁ~!」


「私も選んで正解だったよぉ~!」


 いつもだったら、ドギマギとする俺を見てイジッてくる水瀬であったが、今回は自分もテンパっている為何も言ってこない。


 こんなに動揺している水瀬を見るのは初めてだ。

 俺が間違えて言ってしまっただけなのに、どうしてここまで顔を赤くしているのだろう。


 可愛いなんて言われ慣れているはずなのに。


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