第26話 パンツを濡らす前に行動を

「壮馬、お水買ってきたよ」


「ありがと」


 アトラクションを乗り終えた後、足が震える俺を加奈が介護しながら、近くのベンチへと腰を掛けた。

 もう恐怖心など抜けきっていいはずなのに、上手く足が動かない。


 小刻みに震えて歩けたもんじゃない。

 水まで加奈に買ってきてもらう始末だ。

 彼氏として、男として情けなすぎる。

 水を一口飲んだ俺は、その虚しさと恐怖から解放された安堵が混じったため息を吐く。


「どう? 落ち着いた」


 様子を伺うように、加奈は俺の顔を覗き込む。


「さっきよりは大丈夫だと思う」


「顔色も戻ってきたみたいだしね」


「でもまだ休憩はしたいかな。完全回復ってわけじゃないし」


 このまま歩き出すと、当分は加奈の借りることになる。加奈にも負担になるし、俺のプライドもズタズタになってしまう。


「こうやって座ってるだけでも、私はすっごく楽しいよ」


「俺も同感だ」


 肩に頭をちょこんと乗せてくる加奈に、俺もそっと頭を重ねる。

 この時間ですら俺たちにとってはれっきとしたデート。

 通りすがる人の楽しそうな笑い声や園内のBGMを聞きながら、手を繋いでベンチに座っているだけで幸せを感じられる。


 しかし、そんな時間もつかの間、


「あ、ちょっと待ってて!」


 ハっと何かを思いついた加奈は立ち上がると、駆け足でどこかへ行ってしまった。

 何をこんなに急いでるのだろうか。

 トイレだったら言ってくれれば付いて行ったのに。


 流石にこの人混みの中を一人で歩かせるのは危険がありすぎる。

 またナンパに絡まれたら今度こそ助ける人がいない。


 水瀬が居なくとも、加奈は一人で行動していても一際目立つ美少女だ。

 変な輩に絡まれてなければいいのだが……

 ベンチにうなだれながらも心配をする俺であったが、


「おまたせ~!」


 数分後、ハァハァと息を荒くしながら戻ってきた加奈。


「なんか色々なもの買ってるな。それに走って帰ってこなくてもよかったのに」


「壮馬並ぶのしんどいだろうし色々買ってきたの! 走ってきたのは帰り際に声かけられそうだったから逃げてきた!」


 やはりナンパされかけていたのか。

 まぁ園内に一人で行動している美少女がいたら、世の男子なら声もかけたくなるだろう。


 だって可愛いし、俺の彼女。誰もが羨む美少女だし?


 それを踏まえて、どんな状況でもできる限り加奈についていくことにしよう。

 後々後悔はしたくないからな。


「これからは一緒に行動するから俺に言ってな。ナンパされたら困るし」


 勝手に行動するなというのは語弊があるが、とりあえず心配だということを伝えておく。


「ん、そうだね。私も壮馬が居た方が安心だし」


 加奈がナンパされて俺が助けに行ってまたパンツを濡らすより、最初から一緒に行動した方が俺も加奈もメリットしかない。

 もうあの股が気持ち悪い感触は一生ごめんだ。

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