第24話 一生この時間が続けばいい
人混みに流されて園内を進み、ポップコーンやチュロスが売られているワゴンに誘惑されながらも、お目当てのアトラクションの前に到着した。
既に列は40分待ち。俺たちが並んだ後にも続々と人が並んで来ていた。
「先にポップコーンとか買わなくてよかったね」
「寄り道してたらもっと並んでたなこれだと」
俺としては絶叫に乗るための覚悟を決めるための猶予が欲しかったのだが、加菜のキラキラとした目に言い出せなくなり、そのまま列に並んだ。
はしゃいでいる加菜の横目に、目の前にそびえ立つアトラクションを見上げる俺は、
「え、大丈夫? これ死なない?」
足を生まれたての小鹿のように震えさせていた。
本当に人が乗っても大丈夫なのかこれは。安全だから運転できてんだろうが、これを楽しそうに乗っている人の気持ちがよく分からない。
もちろん、隣にいる加菜も例外ではない。
辺りには絶叫が響き渡ってるし、それがまた恐怖心をそそる。
「死なないから平気だよ。それより記憶を飛ばさないように気合い入れてよね」
「ごめんな、情けない彼氏で……」
他のカップルは怖がる彼女を彼氏が優しくなだめているのに、ここだけが逆。
なんか虚しくなってくるな。
「そうゆうところも、私は好きだから」
「俺も、受け入れてくれる加菜のことが好きだ」
「……」
「……」
「……慣れない、ね」
「普段しないからな」
いつもは人目を気にせずイチャイチャできないからな。学校の人もそうだし、水瀬と五月雨という邪魔も入る。
家なので2人になった時にイチャイチャしているものの、それでも頻度は少ないためまだ慣れない。
世の中のカップルは「好きだよ」とか「愛してる」とか言い合ってよく大丈夫なものだ。
羨ましくは思えるものの、特別感がなくなるのはそれはそれで嫌だ。
もっと初々しさを大切にはしたい。
「やっぱ2人だと気が楽だね。なんの心配もいらないから」
恥ずかしさを紛らわすように、加奈はそう言ってくる。
「誰も何も口を挟んでこないしイジってこないし……本来のカップルを楽しんでるって感じだよな」
「お姉ちゃんと五月雨が居ても楽しいけどさ、こうやって壮馬とくっつけるのは2人だけの時だから嬉しい」
「毎回ちょっとイチャつくだけで水瀬にイジられて顔を真っ赤にするもんな」
「顔赤くなってるのは壮馬もでしょ! それにお姉ちゃんが原因じゃないし……」
「俺は加奈が可愛いのが原因だな」
「私も壮馬がカッコいいのが原因……かな」
ふと目が合う俺達。加奈のつぶらな瞳が俺の視線を離そうとしない。
数秒見つめているうちに、お互いみるみる顔が赤くなっていく。
行列を並ぶって、こんなに楽しいものだっけ。
一生この時間が続けばいいと思う。誰にも邪魔されない2人の空間が。
まぁ、ただ単に乗りたくないっていう理由も含まれるんだけど。
この知り合いに見られたら恥ずかしい状況を本当に誰にも見られていなくてよかった。後々誰かに見られてて目の前で言われたら消えたくなる。
望遠鏡とかでどこか遠くで見られてないよな?
んなわけないか、ただでさえ人を見つけるのが困難なテーマパークだ。
もし知り合いが居たとしても、偶然会ったり、見かけるのですらあり得ない話だ。
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