第23話 私がずっと手を繋いでてあげるから
「相変わらずの混みようだな」
「平日も休日もいつも混んでるイメージあるよね」
「空いてる日に来たかったもんだよ」
「高校生なんて平日来れる方が珍しいからね。まぁ我慢我慢」
デートというのに気分が乗らない俺を、元気付ける加奈。
こういう時、元気な彼女という存在は助かる。
こちらまで自然とポジティブになってくるからな。
友人と一緒に来た暁なら、この人混みを見ただけで愚痴しか出てこなくなる。
挙句の果てに、アトラクションの行列に機嫌が悪くなり、最後の方は夢の国自体が地獄の国とまで思えてしまう。
「うっし! 最初何乗る!」
パチンと両手で頬を叩いた俺は、気持ちを切り替えてデートに集中する。
せっかく日々の鬱憤を晴らしにここへ来たんだ。加奈と一緒に楽しむことに身を徹しよう。
「私あれ乗りたい!」
俺の顔色が変わったことに、加奈も嬉しくなったか、ウキウキとした様子でアトラクションを指さす。
そう、デートはこれでいい。
「……って最初から飛ばすな~」
加奈の指さす先には、園内でも一番目を引くそびえ立つ巨大なアトラクション。微かに先に乗っている人の絶叫の声が聞こえてくる。
「嫌なことはこれで忘れて楽しむんだよ!」
「俺、あれ乗ったらここ2週間くらいの記憶も無くしそう」
「そっか、壮馬絶叫ダメだもんね~。忘れてた」
もう半年前くらいか、加奈と俺含め同級生6人で遊園地に行ったのだが、ジェットコースターに乗って俺だけ血の気を引いた顔をしていた。
速さが怖いというより、心臓がヒュンとなる独特な感覚が苦手だ。
今から乗ろうとしてるアトラクションは、ビルの9階ほどの高さから一気に急降下を繰り返すため、ジェットコースターよりもそれが直に来る。
息が出来なくなるんだよな、あの感覚。
もう少し抑えめなアトラクションでも十分気分をスッキリできるのだが、
「大丈夫。私がずっと手を繋いでてあげるから」
そう上目遣いで言われたからには乗るしかない。
本当は、怖がってる彼女を安心させるのは彼氏の役目で、カッコイイ部分を見せたいのは山々なのだが、いかんせ俺は絶叫系が苦手。立場が逆だ。
「や、でも2週間の記憶は飛ばさないでね」
「……善処するよ」
「絶対にダメだからね! 私たちが付き合った記憶も無くなっちゃうことになるから……」
ぎゅっと俺の袖を掴みながら言う加奈。
何この可愛い生き物。2人の時に見せる甘々な加奈可愛いんだけど、うん好き。超好き。
今すぐ抱きしめたいけど恥ずかしいからやめておこう。
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