第19話 何も察せてない姉

「早く答えてください! 私は2人の口から聞くまで帰りませんから!」


 困った顔を浮かべる俺たちのことなどお構いなしに、五月雨は一歩たりとも下がらない。


 逃げられそうにないこの状況を打開するには、ひとまず五月雨が一番気になっている人物であろ俺が話をしてみよう。

 上手く言い包めれれば納得して帰ってもくれそうだ。


「まぁまぁ、そんな喧嘩腰にならなくても」


 腰を低くしてなだめるようにいる俺だが、


「黙ってください泥棒猫!」


「誰が泥棒だってぇ?」


 生意気な態度にカチンときた俺は、口調が荒くなりそのまま五月雨を睨みつける。


 このクッソガキが。

 後輩だから少しは優しく接してやろうと思ったが、もうそんな概念は捨ててもいいみたいだ。


 今から真の男女平等主義、年齢も関係なく接してやろう。

 要するに、売られた喧嘩は買う。


「うっ……私は睨まれたって引きませんからね」


 俺の眼光を見て少しビクつきながらも、拳を構えてファイティングポーズをしながら威嚇する五月雨。

 全く威圧感がないからそれもまた面白い。


「フっ、この推しにガチ恋してる痛いオタクが」


 そのまま蔑むような目を向け、鼻で笑う俺だったが、


「ちょっと、後輩相手にガチにならないでよ壮馬」


 加奈に呆れた様子でそう言われてしまう。

 つい俺としたことが……つい頭にきて可愛い後輩を威圧してしまった。


「なんか怖がっちゃってるじゃん」


「お前だってさっきその後輩にビビってたじゃねーかよ」


「……今その話はいいの! どうするのよここから!」


「俺に言われてもな。本当のことを言えるわけないし……かといって濁したら詰められそうだし……」


「なんかいい解決策考えてよ!」


「俺だけに頼ってろくな答えが出ると思うのか⁉ 隣にいる姉様に聞いた方が最適解が出るだろうが!」


「あ、それもそうだね」


 小声で言い合っていたが、結局ここで頼りになるのは水瀬。

 2人して助けを求める視線を向けると、何かを察したように頷き、水瀬は口を開く。


「五月雨ちゃん、でいいんだよね? その、壮馬くんと私たちの関係が知りたいんだよね?」


「あ、はい! ……推しに名前ちゃん付けで呼ばれちゃった……グヘへ」


「えっと~、五月雨ちゃんが想像している関係ではないよ」


「じゃ、じゃぁこの男と2人は付き合ってないんです……か?」


「当たり前だよー。三角関係なんてただれた恋愛したくないもん私」


「安心しました、よかったです」


 ホッと胸を撫でおろす五月雨を見て、俺達も安堵のため息を吐く。

 やはり頼りになる水瀬。これから厄介事が起きたら水瀬にすべて任せよう。

 そう思っていた俺だが、


「付き合ってるのは加奈だけだよ。2人は数日前に付き合ったばっかのホカホカカップルなんだよ」


 なんの迷いもなく言い放ち、こちらに振り向いて『こうゆうことだろ』とでも言いたそうなドヤ顔をしてサムズアップする水瀬。


 さっきの言葉は訂正する。一生任せたりなんかしない。

 このクソ姉が! 今すぐそのドヤ顔を陥没させてやりたい!


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