第18話 可愛い子に推されてるんですけどっ⁉

「……俺?」


 傍観者としてこの場に居ようとした俺は、つい眉をひそめてしまう。

 用があるのは、この姉妹だけじゃなくて俺も入っていたようだ。


 よく考えれば理由……そんなの一つしかないよな。突然美少女姉妹の隣に男子が現れたら気にもなる。


 その隣にいる男の正体が、加奈の彼氏とは口も避けても五月雨には言えない。

 あの目、多分言ったら殺される……


「そうです! この男は誰なんですか! どうして私の推しと一緒に行動してるんですか!」


「ちょ、一旦俺の話は置いといて……推し?」


 話を遮るつもりはなかったが、ついツッコんでしまう。

 五月雨は水瀬と加奈を推している後輩らしい。

 学校で人気なのはもちろん、好きという人も数えきれないくらいいるが『推し』は聞いたことなかった。


 私の推しとか言ってたくらいだし、相当ガチらしい。


「推しですよ! 水瀬先輩と加奈先輩のガチ推しです! 同担拒否で2人を好きな人を蹴散らすくらいには誰よりも先輩達を好きな自信があります! 今から好きなところを語れと言われたら何十時間でも語れます! これからどこか行くみたいですし、私もついていってお話しましょうか⁉」


「い、いや……それは大丈夫」


 あまりの熱弁に、引き気味で答えてしまう俺。

 その横で俺よりも引いているであろう推されている姉妹は、


「私たちあんな可愛い子に推されてるんですけどっ⁉」


「ヤバい……素が出そうなくらい嬉しいっ! どうしよサインとかチェキとか求められたらっ!」


「ここまで来たらもう学校のアイドルだよ私達!」


「コンビ組んでアイドルしちゃう⁉」


 うん、めちゃくちゃに嬉しがっていた。

 これが普通の女子だったら引くだろうが、この姉妹が自分たちが学校で人気なことを自負している。


 だから、人に好かれることに抵抗がないため、推しまで言われても嬉しいという気持ちが勝つのか。


 ここまで来ると羨ましく思えるな。

人気過ぎて周りの目を気にして生活を送らなければいけないと思っていたが、こうして面と向かって言われるとその甲斐があったと思えるしな。

 水瀬が今回のその例。


 まだ鋭い目つきをする五月雨と、横でキャッキャッと小さくはしゃぐ姉妹に挟まれた俺は、ついため息が漏れる。


 全てのカップルが全員こうではないと知っているが、彼女が出来るってこんな疲れるものなのか。


 相手が学校で人気の美少女だからなのかもしれないが、ここ数日で色々な問題が起きすぎている。


 ナンパを助けたことから全てが始まり、登場するのは学校で有名な美少女姉妹の妹である加奈。

 恋のキューピットでもあり、余計なお世話もしてくる姉の水瀬。

 そして今、目の前に現れては姉妹の推しという後輩の五月雨。


 そのどれにも挟まれている俺は一番の労働者なのかもしれない。

 皮肉ながら、よく見たラブコメの主人公と同じような人生になりつつあるなとつくづく思う。


 加奈と付き合えたのは天にも昇るくらい嬉しいことだが……ラブコメなら、俺はもっと清純で落ち着いた内容のストーリーがよかったよ……はぁ。

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