第15話 姉という存在に彼氏は勝てない

「ほら! お姉ちゃんのせいで気まずくなったじゃん!」


 不機嫌そうに唐揚げを頬張りながら、加菜はそっぽを向く。


「いやぁ、もう可愛い妹をイジメたくて仕方がないんだよ私はぁ」


「次やったらお姉ちゃんの真の姿を学校にばら撒くから。弱みならいくらでも持ってるんだからね」


「それだけは本当にやめて? 学校に居場所なくなっちゃうから」


「やめて欲しいなら、私たちをからかうのを先にやめてよね」


「それちょっと……」


「じゃぁインスタに載せとくからもういいよ」


 加菜はスマホを触ると、インスタを開き、ストーリーで水瀬の家の姿の動画を載せようとする。


 動画の内容は、キッチンにいる水瀬が変顔をしながら料理をしている動画。そこに『性格を作るのはよくないよね?』という文字を添えている。


 こんなのバレるどうこうの前に誰にも見せたくないだろ。変顔の動画とかふざけて撮ったやつを友達に載せられただけでキレそうになるのに。


 それが美少女姉妹なら尚更だ。加えて水瀬の場合は被害が絶大で一ヵ月はその話題で学校が持ち切りになることだろう。


「分かった……これからいじらないって約束するからその物騒なものを下ろそうか」


 観念したか、水瀬は謝りつつ、加菜が構えているスマホをそーっと下ろす。


「分かればいいんだよ。私はイジって欲しくないだけで一緒にいる分には何も言ってないし」


「あ、一緒に居てはいいんだね?」


「そりゃ、いきなり離れ離れになるのは私も嫌だし……」


「んんっ~! ホント加菜大好きぃぃ! ツンデレが混じってるところもめっちゃ可愛いよぉぉ」


 満面の笑みで、水瀬は加菜の頬に顔を擦り付ける。

 相変わらずの相思相愛っぷり。なんだかんだ、加菜も水瀬と一緒に居たいというのが本音だそうだ。


 よく恋人ができた人が、友達などの誘いを断ったり、バイトや塾すらサボってすべてを恋人との時間に捧げる人がいるが、加菜はそうではない。

 いくら彼氏ができたとて、姉という存在には勝てないようだ。


 俺としても、ずっとくっつかれても困る。愛が重すぎると疲れるし、一人の時間も欲しいからな。

 全てアニメで得た知識だが、これに関しては間違いないだろう。


「今日の放課後どっか行く?」


「カラオケに行きたい気分だな俺は」


「私も久々に歌いたい~!」


「お姉ちゃん、来てもいいけどマイク独占するのだけはやめてね」


「いやぁ、ついマイクを持つと私は熱が入っちゃうタイプでね」


「多分、そんな事言ってられないよ。壮馬めっちゃ歌上手いから」


「お、これは期待できるねぇ」


「俺より加菜の方が歌上手いだろ」


「そ、そうかな……」


 3人仲良くご飯を食べながら会話をしているのは何よりも楽しい。

 だがしかし、この楽しい空間を恨めしそうにドアの隙間から覗いている刺客に、まだ俺たちは気づいていないのだった。


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