第10話 青春ラブコメより、青春ラブコメしてる

「ほんと……?」


 俯いていた顔を浮かべると、涙で瞳をキラキラとさせ、天使のような眼差しで俺を見つめる。


「こんなところで嘘言う必要なんてないだろ」


「私と、付き合ってくれるの……?」


「ここまで来て断る人なんているわけないだろ」


 加菜の頬に垂れている雫を親指でそっと拭く。

 ナンパを助けたことから始まり、家にお持ち帰りされては襲われかけ、衝撃の事実を知り、告白される。


 ここまで経過した時間はものの2時間程度。

 この2時間で彼女なんてできたことがなかった俺に彼女ができてしまった。それも、学校で有名な美少女。おまけに姉まで付いている。


 ……なんだよこの急展開ラブコメは!


 感動的な雰囲気にしたいのは山々だけど短時間で色々なことが起きすぎて俺の脳内はパニック状態だ!


 仲がいい加菜に告白されて、俺もそれに答えて……両片想いから晴れて恋人となった。


 うん、ラブコメ過ぎて怖い。

 これまで見て来たどの青春ラブコメより青春ラブコメしている。


 まずナンパから助ける時点で俺はラノベ主人公であった。からの家に持ち帰られ、下着姿で登場されるという急展開に続く。


 そしてヒロインは本当の気持ちを主人公に伝えて、主人公は考えながらも結局は恋人になる。

 王道からは少し外れているし、決して健全ではない。


 でも、それがまた現実味があっていい。実際、目の前で起きてるんですけどね?

 この後の展開を普通の青春ラブコメで例えるなら、主人公とヒロインは結ばれ、2人の新しい生活が始まるという『これから何が起きるか分からないが、楽しいことには違いない』みたいな流れで話が続くのだが……


「はぁ~! お姉ちゃん嬉しいよ! これでカップル成立だね!」


 そう。このヒロインには姉がいるのだ。

 極めつけは、今まで出てきた登場人物の誰よりもキャラが濃い。


「色々加菜から話を聞いてきた身からすると、目の前でその恋が実るのは考え深いね」


 目を擦り、すすり泣く真似をする水瀬。


「ラブコメはそう簡単に上手くはいかないもんだよな……」


 現実を突きつけられた俺は、幸せで自然と笑顔になってしまうもののため息を吐いてしまう。


「お姉ちゃん~。いいところで口を挟まないでよぉ~」


「ごめんね~、つい私まで嬉しくなっちゃって」


「まぁお姉ちゃんが居なかったら壮馬とこうなってなかっただろうし感謝はしてるけど」


「私はお姉ちゃんだからね~。妹が困ってたら体を張らないと。とはいっても、今日一番体を張ってたのは加菜だけど」


「もぉ~! お姉ちゃん~!」


 クスっと笑いながら言う水瀬に、加菜はまだ赤みの残っている頬を不機嫌そうに膨らませる。


 邪魔者みたいな扱いをしてしまったが、このラブコメには水瀬が必要不可欠。

 水瀬の存在がなければそもそも俺たちはナンパを助けたあの場で解散していたし。


 ……お礼を提案したのは水瀬だし、多分、焼肉に行こうとしていた加菜を止めて、ヒソヒソ話をして家に連れていこうと提案したのも水瀬。


 主導権を握っていたのはすべてヒロインの姉である。ここまで来ると、物語の主役であろう俺達が脇役みたいだ。


 どちらかというと、黒幕に踊らされているといったところか……


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