第4話 姉はやはり強い

「ちょっと? それ私のこと貶してない?」


 癇に障ったか、加奈は俺にジトっとした目を向けてくる。


「貶してはないぞ? 多分……」


「絶対私のこと下に見てるじゃん! 私はお姉ちゃんみたいに陰キャじゃないもん!」


 どこを比べるんだとツッコみそうになるが、それは心の中に留めておく俺の横で、


「い、陰キャとは失礼な……」


 我慢できずに眉を顰めてツッコんだのは水瀬であった。

 自分の事を言われたらそれは腹立たしいよな。いくら妹とは言え、陰キャと言われるのはムカつくのだろう。


「まともに男子と話せなくて、告白されても硬直してるから陰で『告白しても無反応な冷血美少女』なんて言われてるのお姉ちゃん知らないでしょ?」


「嘘……私いつの間にそんな二つ名を」


「結構前からだよ、残念ながら」


 自分の知らない間に変な呼び方をされていたら誰でも驚くものだ。それも、冷血美少女とか本人は自覚してないだろうからちょっと傷つきそう。

 図星なのか、不服なそうな顔を浮かべる水瀬。


 おしとやかなキャラなことは知ってるけど、コミュ障までは俺も聞いたことがなかった。


 男子が振られるのなんて、姉妹どちらに告白しても同じだから驚かないけど。

 話せなくなるまで重症となると、ナンパ男に絡まれた時と俺に話しかけて来た時は相当頑張ってたんだろうな。


 流石、姉って感じ。


「じゃぁこれは知ってる? 加菜が裏で『男とヤりまくってそう』とか『軽そうだけどそこがいい』とか『彼氏作らないのは色んな男と遊びたいから~』って、散々言われてるのは」


「んなっ! 私そんな事言われるわけ⁉」


 まさか自分に返って来るとは思わなかった加菜は、目を見開き唖然する。


「私らの代では結構噂になってるよ」


「ちょっ! 今すぐ訂正しなさいその噂! その前に私は処――ってこの話はもうおしまい!」


「フっ……勝った」


 テンパる加菜を見て、水瀬は勝ち誇った笑みを浮かべる。

 一体なんの勝負をしているんだこの姉妹は。暴露し合ったところでお互い傷口に塩をすり込んでいるのと同じだ。


 仲がいいのか悪いのか、もう分からんぞ俺には。

 ……てか、加菜は処女だったのか……なんか流れて凄いことを聞いてしまった気がする。


「ほら! もう早く焼肉行こ!」


 赤くなった顔のまま、先陣を切って歩き出す加菜。

 ランチの時間に間に合わなくなる、と、俺も歩きだそうとするが、


「加菜ちょっとストップ!」


 水瀬は小走りで加菜を追いかけると、肩を掴んで止める。


「次はなに~?」


 半身振り返り、気怠けな表情をする加菜であったが。

 俺に不吉な笑みを2人揃って向けてくるのは、数秒後の話であった。


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